高尾クンの彼女?

 まただ。
 また高尾が同じ女と喋っている。
 名前は確か――朝倉ひな子。
 長髪の美少女だ。胸が自己主張しない程度についていて、セーラー服が良く似合う。男子どもからは「清楚」「可憐」と言われている。
 本当に、本から抜け出したような美少女なのだよ。
「おい、またあいつ朝倉さんと喋ってるぜ」
「えー。高尾のヤツ、抜け駆けじゃね?」
「でも、朝倉さんとふつーに喋れるなんて、逆にすごくね?」
 ――ちっともすごくないのだよ。女好きめ。
 高尾の異常に発達したコミュニケーション能力が女の方にも発揮されてるだけで……。
「あっ、真ちゃーん。おーい」
 ――ふん。
「真ちゃん、つれないのー」
「朝倉と話をしてくればいいだろう」
「それはいいの。もう終わったから」
「オマエの恋人だろ?」
「ひなちゃん、とっくに彼氏いるよ。いねーわけないじゃん。あんな美少女に」
「ならどうして喋っているのだよ」
「友達だもーん」
「オマエの女友達は一体いくらいるんだ?」
「これでも少ない方だよ。只今絶賛彼女募集中」
 ――くだらん。
「あ。緑間君おはよう」
「おはようなのだよ」
 朝倉はちょっと雰囲気はうちの妹に似ていなくもないのだよ。だからオレは――かえって朝倉が苦手なのだ。
「朝倉……」
「はい?」
 そう言って首を傾げる仕草はまさしく可憐そのもの。声だって世の中にこんなに綺麗な声があるのかと思われるような声だし。
 ――男連中の人気が高いのは頷けるのだよ。高尾が顔を覗き込む。
「あー、真ちゃんあやしいなぁ……もしかしてひなちゃんに惚れた?」
「……誰がなのだよ……」
 好みで言ったら、朝倉は決して好みではない。本の中にいる分にはいいが。
 オレはもっとこう、元気で、行動力があって――そして、ちょっと乙女チックな一面も持っていて――。
 そんな女が好みなのだよ。
「でもさ、真ちゃんとひなちゃんなら、美男美女のカップルじゃない?」
「馬鹿言うな」
「高尾ちゃんはお見合いおばさんの役割に活路を見出したのだ」
 朝っぱらからヘンなことを考えつく男なのだよ。
「でも、緑間君て、あんまり本の中から出てきたような男の子だから――」
「オレ、本読まねーからわかんね」
 それにしては高尾はいろんな言葉を知っている。新聞を読んでいるのか。今ならインターネットもあるのだよ。
「高尾君こそ、彼女いないの? モテるのに」
「んー。オレはバスケ命!かな」
 高尾の言葉にほっとすると同時に少々残念な気もする。――何故残念なんだ、オレは。というか、高尾の彼女なんてどうだっていいだろう。
 けれど、もし高尾が女なら――。
 惚れていた気がするのだよ。
 高尾が男なのが残念だ……って、だから、オレは何を考えているのだよ。
 理由は簡単。高尾が女なら、オレの好みをほぼ満たしているからだ。
「でもねー、浮気しちゃうと彼が怒るもんねー」
「うん。ひなちゃんの彼氏って、浮気許さなさそうだもんね」
「ねー」と二人で頷き合っている。高尾と朝倉の話についていけず、置いてけぼりのオレはどうなる。
「――オレも、バスケ命なのだよ」
 と、言ってみる。
「えー、本当。オレ達気が合うねー」
「あ、私もバスケ、見てるのは好き!」
「じゃー、真ちゃんと今度1on1やるから見ててよ。でも、今の実力じゃオレがぼろ負けするだろうけどな」
「今のオマエでは負ける気がしないのだよ」
「ちぇー。今にあっと驚かせてやる」
 朝倉がコロコロと笑った。
「仲がいいのね、二人とも」
「ん。オレが纏わりついてるだけ」
「自分の立場を良くわかっているのだよ」
「ひっでー! 真ちゃん、ひっでー!」
「褒めたんだが……」
「そういうの褒めたとは言わない。ねぇ、こんな人でなし相手にしないで、オレと付き合わない? ひなちゃん。勿論、今の彼氏とも別れてさ」
「えー。元々緑間君と付き合ってないし。それに高尾君よりいい男だもん。私の彼ちゃまは」
 喋ってみると、案外朝倉ひな子という女はそう浮世離れしている感じはしない。ちょっと語彙が古いような気がするが、お互い様だろう。
「高尾君と緑間君て、出会いはバスケ部?」
「いや……」
 オレは言い淀んだ。
「いんや。中学だよ。オレ、真ちゃんにぼろ負けしちゃってさぁ……でも、やっぱ真ちゃんは覚えてなかったという」
「何それ、ひっどーい」
「んー、でもさ、それも想定内だったから」
 何だかオレが本当に人でなしのような気がしてきたのだよ。
 まぁ、高尾は結構面白いし(煩い時もあるけど)、何となく可愛げもあるからちゃっかりそれで通っているというイメージがある。
 けれど……本当は真面目なヤツなのかもしれないと思ったのは、オレに負けないように黙々と練習をしていた時である。何となく気になって声をかけてみた。
 その会話の時感じたこと。軽いヤツだと思っていたけれど――中身はああ見えて結構しっかりしているのかもしれない。
「ん? どしたの? 真ちゃん」
 ま、高尾に言うことではないかな。さっき考えていたことは。
「――何でもないのだよ」
「嘘。この美少女を差し置いて高尾君ばっかり見てたくせに!」
 朝倉……自分で美少女って、なかなか言えるものじゃないのだよ……。
「ねー、緑間君て、高尾君ばかり見てるよね」
 朝倉は通りすがりの女子二人に話しかける。話しかけられた方こそ災難というものなのだよ。
「そうかな……」
「そういえばそうかもね……」
 二人は困ったように言葉を交わす。
「ねー、でしょ? もしかして緑間君て、高尾君のこと好きなんじゃ……」
 心臓がどっと跳ね上がった。
「まーたまたー。真ちゃん困ってるよ。いい加減にしてよ。ひなちゃん」
 そうなのだよ。今のは朝倉の冗談。これぐらいのことは、今では常識なのだよ。それなのに……何で鼓動が早くなる。
 オレはガタッと立ち上がった。
「あれ? 真ちゃん便所?」
「――すぐ戻るのだよ」
 オレは高尾のことが好きか? 答えは――YESだ。
 でも、高尾の返事は聞いてなくて――。オレが高尾を好きだと言ったら、高尾はどんな顔をするだろうか。それが見てみたいような気もするし、見てみたくないような気もする。
 全く――朝倉ひな子は最低の女なのだよ。……言い過ぎか。
 でも、デリカシーはない。あんな女、高尾の彼女だったらすぐさま別れろと高尾に言っていただろう。
 けれど、言えるか? 緑間真太郎。本当に?
 こんなに動揺するのは、もしかしてオレは朝倉に自分の想いを言い当てられたことに対してショックを覚えたからなのだろうか。
 答えは……出てこない。
 けれど、今は、高尾と朝倉が互いに付き合う気がないと知ったことで良しとしよう。

後書き
読んでくださってありがとうございます。
ひな子は腐女子ですが、ちゃんと彼氏がいます。彼氏の設定も考えておりますが……出番あるかな。
密かにひな子にじぇらっている緑間クンなのでありました(笑)。
2014.4.25


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