高尾のクロニクル

 オレ、高尾和成は、それなりのプレイヤーであることを自負していた。
 それが壊れたのはキセキの世代――もっと具体的に言うと、緑間真太郎と会ってからだ。
 オレは、緑間が大嫌いだった。中学時代は。
 オレはそれなりであることをやめ、バスケに打ち込んだ。勉強もそのくらい熱心にやってくれればねぇ……と、お袋が愚痴をこぼすほどに。
 秀徳高校に入学した時、あいつがいた。
 緑間真太郎は変人だった。
 オレは持ち前の明るさを駆使して緑間に近付いた。弱点を探る為である。
 ――だが、ミイラ取りがミイラになったように、オレは緑間――いや、真ちゃんを心の底から好きになってしまった。
 だって、緑間って友達いないんだもん。オレがなってあげるより仕様がない。……母性本能くすぐられたかなぁ、オレ。男のクセに母性本能なんて変だけど。
 ううん。違う。オレが、緑間を利用しているだけ。
 でも、緑間――真ちゃんと引き離そうとする力が働けば、オレは懸命に反抗したことだろう。
 あんな真面目で面白いヤツ、いない。
 人事を尽くして天命を待つ。真ちゃんの座右の銘だ。
「ある程度? 仕様がない? だからおまえはダメなのだ」
 真ちゃんの名台詞。かっこいいよなぁ。オレも言ってみたい!
 おは朝占いのラッキーアイテム所持もしている真ちゃん。おは朝がなくなったらどうするつもりかねぇ。
 ラッキーアイテムを買うのに付き合わされるのは勘弁してよだけど、どうしても付き合ってしまう。少しでも長く真ちゃんといたいから。
 ――オレって変かねぇ。
 だって――男のクセに男を好きなんだもん……。
 でも、人を好きになる気持ちは崇高なもののはず。オレは――見事ハートを射抜かれてしまった。同性である緑間に。予想外の展開だけど、だからこそ人生は面白い。
 もう、ラッキーアイテムを買うのだって付き合っちゃうよ!
 真ちゃんはオレの隣で黙々とシュート練習をしている。それを見てオレも練習する。
 真ちゃん……オレ、負けないよ。勝つことができなければ、せめて負けたくない。だからこそ、真ちゃんよりも長く練習を。
 ある時、真ちゃんが言った。
「高尾。一緒に帰るのだよ」
 えええ?!と思ったね。その時。
 でも、オレもこんな提案をした。
「どうせ一緒に帰るんだからさ……チャリ通だろ、ここ。確かリアカーは禁止されてなかったよな」
「リアカーなんて、何に使うのだよ」
 真ちゃんは、語尾が『なのだよ』なのだ。
「えーと……リアカーに乗っていれば、楽なんじゃないかと思って」
「誰が牽くのだよ」
「それはじゃんけんでさ――」
 この後、オレの地獄の登下校タイムが始まる――。
 だって、真ちゃんじゃんけん強過ぎなんだもん! 人事を尽くすだか何だか知らねぇけど、負けた方はあったまくるぜ。たく。緑間様にはバスケだけでなく、じゃんけんにも勝てないってか? 勉強も勝てねぇけど。
 一度はチャリアカーを漕ぐ真ちゃんが見てみたいよ! オレだってリアカーに乗ってご出勤遊ばせたいよ!
 ――はぁ、はぁ。わり。つい本気になっちまった。
 真ちゃんは向かうところ敵なしだったんだけど、黒子に負けたんだ。真ちゃんを負かすヤツがいるとは思わなかったので、世界は広い。
 いや、正確には、黒子と火神にかなぁ。火神はアメリカ仕込みのバスケだからな。ダンクだって目じゃないんだ。
 雨に打たれている真ちゃんが可哀想になって、オレは――
「真ちゃん、どこか店寄ってく?」
 と、訊いたら、こくりと頷いた。
 見事な3Pシュート、同性をも惹きつけずにはおかない美貌。テスト結果など、いつもトップだ。
 オレは、そんな真ちゃんを誇らしく思っている。
 でも、やっぱり一番好きなのは努力家なところ。
 完璧なシュートを打つ為に、ひとり練習をこなしている。
 ううん。ひとりじゃない。オレがいる。だから、真ちゃんはひとりじゃない。
 そして――真ちゃんは友達、いや、相棒としてオレを頼ってきてくれるようになった。
 誠凛(黒子のいる高校)を倒す為――いや、他のキセキの世代のヤツらも倒す為に。
 真ちゃんはむかつくヤツだけど、嫌なヤツじゃない。
 黒子には「苦手な人です」と言われたらしいけど、そんなこと気にしなくていい。オレは、オレだけはおまえを裏切らない。あの時、そう決めた。
 真ちゃんに感情のままあたった時、真ちゃんは責めずにオレを許してくれた。
 本当はいいヤツなんだ。優しいヤツなんだ。
 優し過ぎて火神に塩を贈るほど優しいヤツなんだ。そんな真ちゃんが、オレは好きだ。だって、男気溢れてるもん。
 誰だ! こんなヤツ嫌いだと言ったのは! あ、誰も言ってねぇか。強いて言えば、昔のオレかな。
 真ちゃんは、マイペースに自分に磨きをかけている。その努力は認めるしかない。たとえ、真ちゃんを嫌いなヤツでも。
 オレ、真ちゃんのそばにくっついていた甲斐があったよ。周りからは金魚のフン、太鼓持ちだと言われてはいてもさ。
 真ちゃん、あいらびゅーん。
 ――いつからだろう。真ちゃんへの尊敬や憧れが恋に変わったのは。きっといつの間にかだったと思う。
 あいつがあんまり一生懸命だから、惚れたのだ。男惚れってヤツかな。
 そして――オレは真ちゃんになら抱かれてもいいと思うようになった。真ちゃんも事情は同じらしい。ただし、抱かれるのはやっぱりオレの役目のようだ。
 真ちゃんはオレのどんなところを好きになったのだろう。訊いてみたら、こんな答えが返ってきた。
「お前は――いつもオレと一緒にいてくれる。オレのどんな気性も飲み込んでくれる。オレはお前が可愛いのだよ」
 と、最高級のデレをいただきました。まる。
 でも、真ちゃん友達いないからなぁ……あまり有頂天になるのは早いよな。
 それに――真ちゃんの心の中には黒子がいる。その黒子にどんなに疎ましがられていても、真ちゃんの心の中では黒子が占める割合は大きい。黒子に負けてから、真ちゃんは笑うようになった。まだ、全開の笑顔は見たことないんですけど――。
 あ、一度はあったかな。写メれば良かった。
 真ちゃんの両親はおっとりしてて優しい。両親がおっとりし過ぎているせいか、真ちゃんは少しわがままに育ったけれど。
 そうそう、試合中は真ちゃんはわがまま三回言えるんだっけ。どんな特権だよ。しかもそれをオレへのイヤガラセの為に使ったこともあるし。
 でも、基本的に悪いヤツではない。電波で変人だけど。まぁ、おは朝に命握られているというのは本当みたいだ。真ちゃんはすごい理力の持ち主だから、おは朝から離れるように再三言ってんだけどねぇ……。
 それでもラッキーアイテムに付き合う理由がわかるかい?
 デート。真ちゃんとデート。真ちゃんと大っぴらにデートできる機会なんて限られているもんね。それに結構楽しいし。ウィンドーショッピングの楽しさに芽生えたよ、オレ。
 ああ、真ちゃんに萌える、こんなバスケ人生でいいのか。――自問自答することもあるけど、青春なんだもん、楽しまなくっちゃね。
 そんで、ガキができたらこう言うんだ。オレ、あの緑間真太郎の相棒だったんだぜ、と。
 ――と、ここまで来てふと考えた。
 真ちゃんを知って、あの天才緑間真太郎を知って、オレは果たしてまともな結婚ができるかどうか、と。
 女でさえ、真ちゃんとタメ張るぐらいの美人は滅多にいないというのに。
 オレ、真ちゃんがいないとダメなのかねぇ……ねぇ、真ちゃん。
 真ちゃんにはオレがいないとダメなんだと自惚れていた時期もあったけど――オレの方が真ちゃんに依存している。
 今はまだいい。でも、月日が経ったらどうするつもりなんだ、オレ。同じ大学行って、同じ会社に入って――バスケをしながら真ちゃんに付きまとって……。
 真ちゃんは一部の女子からモテる。ふん。実情も知らないで。
 真ちゃんの全てを知って付き合えるのはこのオレだけ、と思ってたけど。
 オレは真ちゃんの恋人ではない。この頃真ちゃんは何か言おうとそわそわしているのだが、オレが気付かないふりをしている。
 真ちゃんの恋人になって、結婚して――夢だね。現代日本じゃ。
 でも、オレ達のようなヤツらでも、少しずつ住みやすい世の中にはなってるんだよ。もうちょっと遅く生まれたかったけど、それじゃ真ちゃんと出会えない。
 オレ、ゲイってことはないんだよね。女の子にもときめくし。今はまぁ、バスケが恋人?みたいな。
 オレ、高尾和成はバスケと真ちゃんが恋人でっす。一応彼女募集中ってことにしてあるけど。
 そういえば、いつだったか、
「真ちゃん、ずっと恋人でいてね」
 と冗談で言った時、真ちゃん、頬を真っ赤にしてあたふたしてたのは覚えている。可愛かったなぁ。やっぱり写メ……以下略。
 真ちゃんは友人がいなかったから、友情と恋情がごっちゃになってたのに違いない。そこに付け込むのは簡単だけど、そんなことはしたくない。
 え? もう充分付け込んでいるって? だって……一緒にいて楽しいもん。離れるなんてやだもん。
 真ちゃんに、大学はどこ志望?と訊いたら、東大なんてぬかしやがんの。
 オレが東大志望で頑張って勉強したら、受かる前に死亡しちゃうよ。
 ってのは冗談だけどさ。オレだって緑間の相棒だもん。勉強だってがんばっちゃうよ。
 あー、疲れた。オレと真ちゃんのクロニクル、書いてると疲れてくるもんなんだね。これは誰にも見られないように秘密の場所にしまっとこう。お袋もオレの秘密には立ち入らないしさ。
 つまり、オレが言いたいのは、今が一番幸せだってこと。
 真ちゃんと出会えて、オレの才能も花開いた。オレと真ちゃんは柳川鍋だね。
 真ちゃんと離れても――離れたくないけど――オレは真ちゃんを忘れない。忘れることができない。あんな強烈な個性の持ち主。
 一度でいいから真ちゃんに抱かれてみたいと思うオレはアブノーマルかね。やっぱり。どうしても男に抱かれなきゃいけないとしたら、相手は真ちゃんがいい。

後書き
2018年11月のお礼画面過去ログです。
高緑? 緑高?
私は以前は高緑が好きだったけど、今は「緑高いいなぁ……」と思うようになってしまいました。
2018.12.03

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