高尾と緑間の卒業式

 オレは、緑間真太郎に声をかけた。卒業証書の入った円柱の箱を振り回しながら。
「おーい、真ちゃん」
「高尾」
 真ちゃんが振り向いた。高尾と言うのはオレ。高尾和成って言うんだ。
「もう、卒業なんだよね。早いね」
「ああ」
 真ちゃん、綺麗……。今まさに花開かんとする桜をバックにして。
 オレ達は今年、大学に進学する。同じ大学だから、専攻は違うけどバスケ部では会えるよね。
「真ちゃん。バスケではまた宜しくね」
 真ちゃんの口元が綻んだような気がした。
「そうだな」
 オレと真ちゃんは相棒同士。オレは真ちゃんには下僕って言われてたけど、本心じゃないよね。うん。きっと本心じゃないよね……。
「おまえも一緒の大学でよかったのだよ」
 うぉっ、デレ来た!
「なになに? 真ちゃん、オレと別れるのが寂しいの?」
「やっぱり、おまえみたいな煩いヤツがいないと味気ないのだよ」
「ふふふ、そんなこと言っちゃってぇ。ほんとはオレが好きなんだろう」
 オレは真ちゃんを肘で突く。
「黙れバカ尾」
 ふふーん。それも照れ隠しだって知ってるもんねー。
 この三年間で、真ちゃんの思考回路がわかってきた。伊達に真ちゃんの面倒は見てねぇぜ!
 初めて会ったのは、中学での試合――でも、本当に真ちゃんのことを理解できるようになったのは、高校一年の時。
 まさか、真ちゃんまでこの秀徳に来るなんて思わなかったしさぁ。
 でも、当然といえば当然だったかもしれない。秀徳って、バスケに力入れてるもん。
 キセキの世代の真ちゃんが来るのは、想定内の出来事だったかもしれない。
 それから、オレの地獄の――いやいや、楽しい高校生活が待ってたってわけ。
 真ちゃん、初めは嫌いだったけどさぁ……憎めないんだよね。人事は尽くしてるし。それって、一生懸命ってことだよね。
 オレは、何かに命を賭けてるヤツは好きだ。
 真ちゃんはバスケと、おは朝の占いのラッキーアイテム集めに命を賭けている。ラッキーアイテムがないと死んじゃうんだって。
 オレ、それ聞いた時は笑ったけど、何か、笑い事ではなかったみたい。真ちゃんがおは朝を信じ過ぎるから、ラッキーアイテムがないと死ぬような目に遭ったり、逆に、ラッキーアイテムがあれば幸運が舞い込んで来たりするんだろうと、今だってオレは思うんだけどね。
 でも、占いを信じる真ちゃんは可愛いし、オレは振り回されっぱなしだったけど、いい思い出だよなぁ……。
 うん、いい思い出だ……。
「高尾、何遠い目をしているのだよ……」
「ああ、うん……」
 真ちゃんに振り回されてきたよなぁ、なんて言えないしさ。
「懐かしく思ってたんだ。今までのこと」
「そうか――そうだな」
 オレは真ちゃんに抱き着いた。
「オレ、真ちゃんに会えてよかった」
 真ちゃんのコロンの香りがする。いい匂い。オレはそれを胸いっぱいに吸い込んだ。
「高尾……」
 目を上げると――真ちゃんが笑っていた。真ちゃんの笑顔って、男らしくて好きだな。
「あ、そうだ。高尾。第二ボタンが欲しいのだよ」
「第二ボタン」
 オレがじっと見つめていると、真ちゃんがふっと視線を逸らした。
 そんな約束したっけか? まぁいいや。
 どうせ、オレも真ちゃんにあげるつもりだったし。こう見えても、オレ、モテるから、第二ボタンくださいのお願い断るの大変だったんだぜー。
「うん。いいよ」
 一旦真ちゃんから離れたオレは力を込めて、んしょっと、第二ボタンを制服から外す。
「はい。真ちゃん」
「――ありがとう。それから……」
 真ちゃんもぶちっと第二ボタンを外す。
「これはオレからだ」
「サンキュー。大事にするね♪」
「オレも――」
 まるで恋人同士みたいだなぁ、つか、恋人だったっけ。オレ達。
 恋人で相棒。素敵な関係じゃねぇか。
「秀徳――ここにはたくさんの思い出が詰まっているのだよ」
「何卒業式の言葉やってんの」
「卒業式の言葉に似た台詞なら、おまえだってさっき言ったのだよ」
「あ、そうだっけか」
 懐かしく思ってた――そんなようなことを言ったんだっけ。秀徳の校舎がお天道様の光を受けて燦然と輝いている。綺麗だな……。ボロ校舎だけど。
「真ちゃん。大学行っても秀徳には遊びに来ような。マー坊にも会いたいし」
「マー坊て……中谷監督が聞いたら怒るのだよ」
「んだって、マー坊って、ぴったりじゃん。監督に」
「また走らされるぞ」
「慣れてます。つか、チャリアカーで鍛えてるしね」
 オレは、チャリアカーで真ちゃんと一緒に学校に行っていた。チャリの運転は一応ジャンケン制なんだけど、オレが大抵負けた。真ちゃんは、「人事を尽くしてないからだ」と言うけれど、何度か人事を尽くしてジャンケンに臨んでも負けた。
 やはり、理力の差か――?
 真ちゃんはいつもリアカーに乗ってご出勤あそばしていた。
 まぁ、そんなのも、今ではいい思い出なんだけどさ。
「マー坊の前はまちゃあきって呼んでたよな。おまえ。監督のこと」
「そうだったね。マー坊の方がぴったり来ると思って」
 マー坊の話はどうでもいい。
「ね、真ちゃん。今日さ、オレの家に遊びに来いよ」
「――わかった」
「なっちゃんも会いたがってるぜ」
 なっちゃんも、もうとっくに高校生だ。文芸部に入ったらしく、毎日が楽しいようだ。
「入学したのが昨日のようだな」
「オレ、宮地兄弟や木村兄弟や大坪サン達や皆のおかげでバスケ、楽しかったぜぇ。勿論、真ちゃんもいたから、本当に充実してたけど」
「大坪先輩達はいい先輩だったな。お別れするのは寂しかったのだよ」
「わかった。後で伝えとく」
「そ、そんなことしなくていいのだよ」
 真ちゃんが焦る。声が裏返ってるもん。可愛いんだ。勿論冗談。言ったら、大坪サン達も喜んでくれると思うけど。ま、言わなくてもわかるか。でも、宮地清志サン――宮地兄弟のお兄さんの方ね――が何て答えるかとかは、興味がある。
「――誠凛がまた、WCで連覇したな」
「仕方ないよ。誠凛といえばバスケだもん。全国から猛者が続々と集まってるって言うぜ」
「でも、オレは秀徳に勝って欲しいのだよ」
「秀徳だって真ちゃんのおかげでいい選手が入ってきているよ」
「オレのおかげではないのだよ」
 真ちゃんが髪を掻き上げる。本当は知ってんだ。真ちゃん、ちょっと得意になっていることを。オレの台詞、素直に聞けるようになったのかな。
 そうだったらいいな。オレ、真ちゃんが自信なくした時も慰めてあげるよ。一年の時、洛山に負けた時はそれどころじゃなかったけど。
 あん時、二人して泣いたよな。オレら、絶対勝つって、約束したよな。洛山にも、誠凛にも。
 ――まぁ、それは叶わなかったけど。オレの後輩達がWC優勝の夢を引き継いでくれればいい。
 そういや、黒子も卒業だっけか。同じ大学に入るんだよな。
 バスケ部来るかな。来るよな。黒子のバスケ、オレ好きだよ。今からわくわくしてる。
「黒子と同じバスケ部入れんだよな。オレ達。楽しみだな」
 オレ、真ちゃんはまたてっきり「そんなことないのだよ」とか「あいつらの顔は見たくないのだよ」とか、憎まれ口叩くのかと思いきや――。
「オレも楽しみにしてる」
 と、素直に認めた。ああ、素直な真ちゃん可愛いな。この三年間で、真ちゃん、性格丸くなったよな。真ちゃんが、黒子とバスケすんの楽しみにしてるって、黒子に伝えておこうかな。――やっぱやめとくか。後で真ちゃんに怒られそうだし、それに――こんなに真っ直ぐな真ちゃんを知っているのはオレだけでいい。
 そう……本当の真ちゃんは、純粋で礼儀を重んじる真っ直ぐで優しいヤツなんだ。ま、黒子達にもわかっていることかもしれないけどね――。

後書き
大学も一緒の二人組、見たいです。黒子達も交えて充実したキャンパスライフを送って欲しいなぁ、なんて。。
それから、赤司はどこ行くんだろう……。海外とかに留学しちゃったりして?!
卒業しても仲良くいちぃちゃする高尾と緑間が見たいです。周りから『おまえらもう結婚しろ!』とか言われたりして(笑)。
誠凜のWC連覇については……私も秀徳に勝って欲しいんだけど、誠凜も好きですので。
2015.3.9

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