オレ、変なんだ

 ――オレ、変なんだ。
 真ちゃん見てるとドキドキっていうかムラムラしてくるし――。
 あー、もう! オレ、どうしちゃったんだろう……。
 緑間真太郎。キセキのNo.1シューター。目は悪いけど顔はいい。緑の髪。変人。語尾は『なのだよ』。んでもって周りが引くくらいのおは朝信者。
 真ちゃんを見てるの、苦しいのに、ずっと真ちゃんを見ていたいなんて、どうしたんだろ。オレ。
 やっぱり変なのだよ。……ありゃ、うつっちゃった。
「高尾」
 低いイケボで真ちゃんがオレの名を呼ぶ。
「は、はいーっ?! 何かな?!」
 いつもの高尾ちゃんのキャラを演じなければ……バレる。この胸のときめきも。オレは内心冷や冷やモンだった。
 でも、真ちゃん色恋沙汰には疎いから気づかないでいてくれるかな?
 バレませんように……。
「顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃないのか? 病気か?」
 うん。オレも病気だって無邪気に信じたいね。
「どれ」
 真ちゃんが近づく。長い下睫毛が見える。
「ひゃっ!」
 オレは叫んで一歩後ずさる。
「そんなに怯えるな。熱を計ってやろうとしただけなのだよ」
 何だよ。この『なのだよ』星人。心臓に悪いじゃねぇか!
「心配いらねぇよ! 保健室に行ってくる」
「そうか……」
 真ちゃんがしょぼんとしたように見えたのは気のせいか?
 そうだよな。秀徳の揺るぎないエース様だもんな。オレの具合が悪いからって心配してくれるはずが……。
「高尾」
「ん?」
「風邪なら早く治して戻って来い。オマエがいないと寂しいのだよ」
 デレ来たーーーーーーーー!!!!!!!
 そう。たまに来るこのデレがたまらなく愛しくて、正直辛い。
 ああ、いつもの高尾ちゃんはどこへ行ったのだよ……。ん? また真ちゃんの口癖がうつった。
「んなこと言ってぇ。リアカー漕ぐのが面倒なだけじゃないの?」
「……ん、まぁ、そうだな……」
 真ちゃんは眼鏡のフレームをくいっと上げた。
 へいへい。どうせそんなことだろうと思ってましたよ。オレは真ちゃんのアッシー君だもんよ。一度もじゃんけんに勝てた試しねぇし。
 ん? ちょっと待てよ。じゃあ、あのチャリアカーどうすんだ? 真ちゃんが誰もいない道を一人漕いで帰るのか?
 やべ……超見てぇ……。
「そういうわけだから、リアカーは置いて行くのだよ」
 あらら。そう来たわけね。
「取り敢えず保健室行くわ〜」
 ふわふわとした心持で、覚束ない足取りでオレは保健室に向かった。どうせ今日は部活どころではない。
 真ちゃんが……あのかっこいい真ちゃんが、キセキのシュートを放つんだ。
 超見てぇ。
 だけど、オレ、病気みたいだもんなぁ。真ちゃんがいるとますますひどくなるっつーか……真ちゃんに失礼だよな。だけど仕方ない。事実だもん。
「あら。カズくん。どうしたの?」
「先生……カズくんはやめてください……」
 保健室の先生はすんげー女っぽいグラマーだ。でもオレは真ちゃんの方が……。
 ん?! オレ、今、何を思おうとした?!
 真ちゃんの方がグラマー美人女医より好きだなんて……。
「だって、あなた高尾和成くんでしょ。カズくんと言って何が悪いの?」
「悪くないです〜」
 この女医には正論で向かったって無駄だ。それに、やっぱりオレも男だもの。悪い気はしねーよな。
「なんか熱っぽそうね。熱計る?」
「はい……」
 我ながら頼りない声を出す。熱は38度5分だった。
 何だ〜。熱あったじゃ〜ん。
 はぁっとオレは安堵の吐息を吐いた。ただの風邪で良かった。寝てれば治るもんな。
 オレは、うっかりお医者様でも草津の湯でも治せないあの病気かと思っちゃったんだよなぁ〜。
 ああ、良かった。悪寒も吐き気も今は怖くないぜ。どんと来いだ!
「真ちゃんには言ってきた?」
 と、美人女医。
「ああ、今行ってきます……」
 正直、歩くのが辛い。吐きそう。おえ……。
 トイレで吐いてからオレはまた体育館にお邪魔した。
 あ、真ちゃんがシュート練習してる。すげぇなぁ……。いつ見ても敵わないと思うよ。
 それに……どきどきする。真ちゃんのシュートは世界一だなぁ……。オレにとっては。
「黒子がオレのシュートを馬鹿にするから見返してやるのだよ」
 いつだったか真ちゃんが言っていた。大丈夫だよ。真ちゃん。真ちゃんは正しいよ。黒子の言ったことなんて、忘れろよ……。
 オレはいつだって真ちゃんの味方だからさ……。
 う……また胸が苦し……。きゅうっとなる。でも、苦しいだけじゃなくて、何だか、何だか……。
 体中を甘い風が吹き抜ける。
 どすんっ!
 これはオレが倒れた音のようだった。
 …………?
 真ちゃんが泣いている? これはきっと夢だ。だって、真ちゃんがオレなんかのこと気にするはずはねぇもん。オレは真ちゃんの相棒だけど、真ちゃんはバスケの神に愛されてんだもん……。それで十分だろ? なぁ、真ちゃん……。
「ただの風邪ですよ。大丈夫。治ります」
「大丈夫じゃない! こいつはうるさいのと健康だけが取り柄の男なんだ! それが急に倒れたなんて……!」
 ああ、真ちゃん……。ところどころ気になるところはあるけど、それでもオレの身を案じてくれていたんだね。これも夢かもしれないけど。
「高尾、高尾……」
 大丈夫だよ。泣かないでよ。真ちゃん。目の前で倒れてびっくりさせたのなら謝るからさぁ……。だから笑ってよ。またあのすごいシュート見せてよ……。
「お兄ちゃん……」
 ああ。妹ちゃんもいるんだ。大丈夫だよ。オレ、元気になって帰って来るよ。……オレはまた暗い意識の中に落ち込んだ。
 真ちゃん……。
「高尾……」
 あ、真ちゃんが呼んでる。行かなきゃ。でも、どうして? どうして真ちゃんがオレより辛い顔してんの? ダメじゃん。うちのエース様がそんな顔してちゃ。チームの士気に関わるよ。
「おまえに何かあったら、オレは生きていけない……」
 ベタな台詞だね、真ちゃん。大丈夫だよ。オレ、死なねぇもん。真ちゃんが生きている限り、ずっと一緒に……。
 ふわっと明かりが差し込んできた。
「ん……」
 何だ。ここは。病室か。
 結局オレは風邪をこじらせただけだったんだろうな。あー、びっくりしたぜ。びっくりしたぜちくしょー!
 あ、オレパジャマ姿になってる。誰が替えてくれたんだろ。
「高尾!」
 あ、真ちゃんだ。胸がどきんと高鳴る。
「高尾! 大丈夫か?」
 大丈夫じゃない、大丈夫じゃない。なんかまたおかしくなってきた。胸の辺りが……。
 これってやっぱり……うん、そうなんだろうな。
 草津の湯でも治せないんだったら、真ちゃんに癒してもらうしかないんだろうな。ねぇ、真ちゃん。
「――真ちゃん、パジャマに替えてくれたの、誰?」
 本当はこんなこと言いたいんじゃないのに。言いたいことは別にある。真ちゃんが顔を覗き込む。
「ん……それはオレとオマエの家族と一緒に着替えさせたが……どうした? 何か言いたそうだな」
「ん。あのね。真ちゃん……」
 ――大好き!

後書き
私にとっては珍しいたかみど?小説です。
今日はたかみどの日なので。おめでとう!
2013.10.6


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