サンライズ~陽はまた昇る~

 ――高尾の様子がおかしい。
「高尾、早く教室に入るのだよ」
 オレが促してやると、
「うん……真ちゃん……」
 と、答えはするが、何となく様子がおかしい。まるで、教室に入りたくないと言ってるかのように。
 オレは、思わず高尾の肩を抱いた。
 部屋に入ると――冷たい空気が流れた。
(あ、もしかしてこれかな?)
 高尾は空気の流れに敏感だ。ホークアイのせいもあるのかもしれない。
 ここ二、三日、教室の様子が変だ。高尾だけを省いているような――。
「うわっ!」
 床に顔面衝突したヤツがいたのだよ。気をつけないと危ないのだよ。
「大丈夫か? 三波」
 高尾が男子生徒に手を貸そうとする。するとそいつは気取られないように高尾を避けた。
「…………?」
 いかなオレでもおかしいと思う。
「鼻血、出てるぜ。はい」
 高尾が綺麗に折り目のついた白いハンカチを取り出す。
「返さなくてもいいから」
 高尾としては善意でやったことだろう。だが、三波はぞうきんでも持つように高尾のハンカチを持つと――。
 ぽいっ。
 ゴミ箱に捨ててしまった。
「――――?!」
 高尾は驚愕で目を見開いている。涙が綺麗なオレンジ色の瞳に膜を張っているように見えたのは気のせいだろうか。――いや、気のせいじゃない。
「真ちゃん、オレ、ちょっとトイレ!」
「高尾!」
 どうするんだ、もう先生が来てしまうのだよ。
 というか、何だ? この空気は……。
 高尾は――もしかしていじめられている?!
「あーあー、逃げちまった」
「オレ、あいつのこと嫌いだったんだよねー、虎の威を借る狐みたいでさ。本人も狐顔だし」
「なぁ、緑間もあいつのこと、うっとうしかったろ? 気持ちわかる――わあっ!」
「二度とそんなことを言うな――殺すのだよ」
 オレはクラスメート(松岡)の胸ぐらを掴んでやった。
「ひっ」
 こんなヤツに構ってられん。オレはヤツから手を離してやった。そいつはどさっと床に落ちた。
「緑間ー!! 先生来るぞー!!」
 そんなことよりも高尾だ。あいつは……確かにお調子者だし煩い時もあるけれど――優しいし、傷つきやすいのだ。
 高尾はトイレの洗面台にいた。
「高尾!」
「真ちゃん……」
 高尾は必死に涙を隠そうとする。
「お前……いじめられてたのか?」
「うん……なんかそうみたい」
「何故言わなかった!」
「はっきりしなかったし、それに――これはオレの問題だから」
「水臭いのだよ。高尾……」
 きっかけは確かにどこかにあったにせよ、いじめに深い理由なんてない。いじめられていい人間なんてこの世にはいない。
 ――悪意はどこかに潜んでいる。だが、秀徳の生徒は優しい真面目なヤツらだと信じていたのだよ。――今までは。
 だが、こんなに高尾を泣かすヤツらを――オレは許さない。
 オレは高尾をきつく抱き締めた。
「高尾……オレがいる。オレがいるから……秀徳の全員が、いや、世界中の人間がお前の敵になっても、オレはお前の味方でいる!」
「真ちゃん……」
 胸元が高尾の涙で濡れる。だが、オレは嬉しかった。高尾はオレを頼ってくれている。
「行こうか。教室へ。――オレがついているから」
「……うん」
 高尾の味方をしたら、今度はオレもいじめられるのだろうか。
 そんなことは怖くはないが、今まで高尾の友達面していたクラスメート全員が憎かった。
 怒りに任せて扉を勢いよく開けると――。
 パーン パパパーン
 クラッカーの音がして――。
「サプラーイズ!」
「ハッピーバースデー! 高尾!」
 との声がした。オレの目の前がちかちかした。高尾も同様だったらしい。
「みんな……どうして……」
「いやぁ、サプライズ、やってみたかったんだよね。今日は高尾の誕生日だったろ?」
「え……? あ、うん、そうか……」
「クラスみんなでお祝いしようと思ったの。高尾君にクラス全員がいじめを仕掛けているように思わせてさ」
「苦労したんだぜー。演技するのも。高尾敏感だからな。鷹なみに」
「緑間にも内緒だったもんな」
「オレ、緑間に殺すってすごまれた……」
「高尾のこと、嫌いって言ったの、あれ嘘だから」
「悪かったのだよ……しかし、それならそうと一言言ってくれれば……」
「あら、だめよ。高尾君、緑間君の心読むことできるから」
「なにぃ?! 本当か?! 高尾!」
「ウソウソ。できないって」
 高尾の顔に満面の笑みが浮かんだ。さっき泣いた烏がもう笑った。――あ、高尾は鷹か。
「ケーキもあるよ。調理クラブの人達が作ったんでーす」
「ハッピバースデーツーユー」
「お誕生日おめでとうございます。高尾君」
 担任の先生が来た。
「これ、バスケ部の皆さんからだそうです」
「爆弾でも入ってんじゃないんすか?」
 ――良かった。高尾が元に戻っている。
 これ以上高尾を傷つけるような真似をするのだったら、クラスメート全員殺しても飽き足らなかったかもしれないけど――。
 今は、こいつらへの憎しみは溶けて流れて、代わりに愛しさが芽生えてきた。
「パイナップルだそうですよ」
「ブッフォ……やっぱり爆弾じゃん! 爆発しないうちにみんなで食おうぜ」
 男子生徒どもがひゃっほうと歓声を上げた。
 三波が言った。
「高尾、ハンカチ捨てて悪かったよ。新しいの買って返すから」
「んにゃ、いいのいいの。また洗って使えるから……でも、さすがにもう人にはあげらんねぇな。一度ゴミ箱に捨てられたハンカチなんて」
「三波、やり過ぎだったぜ」
「でも、演技賞もんだろ? まぁ、悪ノリし過ぎたことは認めるけど」
 パチパチパチと拍手が聴こえた。いつの間にか高尾も。
 ――アホなのだよ。こいつらは。バカでアホでどうしようもないこと企んで――でも、本当は心根は素直で優しい。
 良かったな、高尾。こいつらがクラスメートで、本当に良かったのだよ。
 高尾が近付いて、
「真ちゃん、オレ、真ちゃんに言われた台詞がいっとう嬉しかった」
 オレはさっき高尾に言った台詞を思い出して――羞恥で死にたくなった。

後書き
高尾ちゃん誕生日おめでとう!
高尾嫌われと思わせて……サプライズパーティーです。
タイトルは銀魂関連のから。『サンライズ』は、銀魂アニメを作っていた会社だし(他にもガンダムシリーズなどを)、陽はまた昇るは、銀魂11巻のサブタイトルです。
それでは!
2014.11.21

BACK/HOME