緑間春菜でございます

 お初にお目見えいたします。わたくし、緑間春菜でございます。
 S……女学院の生徒でございます。中学二年生です。
 実は、わたくし、恋をしてしまいましたの。
 相手は高尾夏実さんと申しますの。兄のお友達の妹さんですわ。
 ……誰ですか? アブノーマルだと言ったのは。
 お兄様だって、お友達の高尾和成さんが好きなんですのよ。……まぁ、同性を好きになるのは血でしょうか。
 お母様もお父様も常識人なのに、どこで間違えたのでしょう、わたくし達。
 お兄様もわたくしも、結構美形兄妹と評判ですの。眼鏡美人というところも。
 お兄様と和成さんのことも訊きたいのですけれど、そんなことはできませんの。だって――わたくし達仲悪いんですもの。
 お兄様はおは朝に凝ってる変人ですの。まぁ、妹の私から見ても格好いいし、バスケでは天才だのキセキの世代と呼ばれているお兄様だけど――。
 わたくしもはっきり言ってお兄様にはついていけませんわ。和成さんは変わり者だと思います。あんな兄に付き合ってくださるなんて。
 お兄様のことはどうだっていいですわ。
 ああ、夏実さん――。
 昔から、わたくしは女の子の方が好みだったのですけれど、夏実さんには一目惚れしましたの。
 和成さんと同じオレンジ色の瞳。意志の強そうな顔。つやつやの黒髪を後ろで編んでますの。その様がとても可愛らしくて――。つい、大胆な行動にでてしまいましたの。
 つまり――接吻ですわ。きゃっ。
 でも、あれから夏実さんからは連絡もなし。
 嫌われてしまいましたのかしら。考え過ぎかもしれないけれど。わたくしの方から連絡しても、和成さんが出て、
「なっちゃんは今外に行っています」
 ばっかり。たまに夏実さんが出ても、
「今、忙しいです。すみません。切ってもいいですか?」
 と言われては黙っているしかないんですの。
 はぁ……切ないですわ。胸がこんなに痛くなるのは初めてですの。
 お兄様に相談……できるわけないですわね。それだったらペットに相談した方がマシですわ。家にはペットはいませんけれど。
 こういう時、もっとお兄様と仲良くしていれば良かったと思うのですけれど。
 ――今からだって遅くないから、お兄様に相談してみようかしら。お兄様に弱味を見せるようで嫌ですけれど。
 その前に、宿題を終わらせないと。
 階段を降りると、お母様がリビングでテレビを観ていましたの。
「まぁ……こんなことが……怖いわね。あら、春菜」
「お母様」
「お母様はやめてって言ってるでしょう」
「すみません。けれど、お母様はお母様ですから」
「まぁいいわ。宿題は済んだの?」
「はい」
 わたくしは学校でトップクラスの成績を誇ってますの。あら、自慢になってしまいましたわ。
 勿論宿題もバッチリですわ。この間、テストで総合一位を取りましたの。……また自慢になってしまいましたわね。
 お兄様も頭がいいから、そういうとこも似たのかもしれませんわね。
 そうだわ。お母様に相談しよう。
「お母様、わたくし好きな方ができましたの」
「まぁ、春菜に好きな人が。そんな人ができるなんて、春菜もお年頃ね」
 それからお母様は嬉しそうに笑った。その様はとても二児の母とは思えませんの。
「で、相手はどんな方なの?」
「とっても可愛らしくて、気が付くとその方のことばかり考えてますの」
「年下の男の子かしら?」
「同い年ですのよ」
「同じクラス? ――あら、そんなわけないわね。嫌だわ。私ってば」
「学校は違いますの。相手の方は共学ですのよ。それで、悪い虫がつかないか心配なんですの」
「悪い虫?」
「ええ。夏実さんは可愛いですから」
「夏実さん? もしかして、高尾夏実さん?」
「ええ」
「だって、あの子は女の子でしょう」
「だから好きなのよ」
 わたくしがそう言うとお母様は泡を吹いて倒れてしまいました。何か変でしたかしら。――変かもしれませんわね。
 これでお兄様が和成さんを好きということ伝えたら、お母様はどんな反応を見せてしまうのかしら……。
 それがちょっと楽しみでもあるのですけれど――いえいえ、お母様にこれ以上心労をかけてはいけないわ。
 和成さんのことは、お兄様から直接話すでしょうから。
 けれどねぇ……。わたくしわかりませんわ。
 和成さんのどこが好きなのかしら。お兄様。
 それは、確かに顔は整っているし、面白い方ではあるんですけれど……少しお軽いでしょう、あの方。ちゃらい、という言葉がぴったりな。
 まぁ、お堅いお兄様には釣り合いが取れるのかもしれませんけれど。
 本当に、夏実さんのお兄様とは思えませんわ。和成さん。夏実さんは真面目そうな美少女ですけれど。
 夏実さんは本当に可愛らしい方。彼氏とかいらっしゃるんでしょうか……。
 そんな不埒な存在がいたら、闇討ちしてしまうかもしれませんけど。
 お兄様が、
「だからオマエはおっかないのだよ。顔に似合わず」
 と言っていたけれど、わたくしの何処がおっかないのかしら。お兄様だって語尾に『なのだよ』をつける変人の癖に。
 そのお兄様はまだ帰って来ない。
 いいわね。お兄様は。想い人の和成さんと同じバスケ部で。同じ教室だというから、学校ではいつも一緒にいられるではありませんの。
 わたくしは溜息を吐いた。
 わたくしは夏実さんと滅多に会えない……というか、あの遊園地以来会えていないというのに。
 そうね。わたくし、お兄様の環境は羨ましいかもしれないですわ。
 わたくしも夏実さんと下校デートしてみたいですの。
「ただいま」
 あら、お兄様が帰って来ましたわ。
「お兄様」
「何だ? 春菜」
 わたくしがお兄様を出迎えるなんて珍しいことだから、お兄様はびっくりなさっていたわ。
「ちょっと……お話がありますの」
「夏実のことなら聞かないのだよ」
 うっ、さすがお兄様。お見通しって訳なのですね。
 わたくしが図星を突かれて黙っていると――
「全く、オマエは夏実、夏実とうるさいのだよ」
 とお兄様が呆れた様に言う。
「あら。だって、わたくしと夏実さんは『はるなつみ』の関係ですから」
「ちっとも上手くないのだよ」
「悪かったですわね」
 私が機嫌を損ねると、お兄様が言った。
「――まぁ、少しぐらいなら聞いてやらんこともないのだよ」
「本当? お兄様。夏実さんに電話しても、夏実さんすぐ切ってしまうし……」
「それはオマエ、避けられているのだよ」
「ええっ?!」
 やはりそうだったんですの。でも、こんな美少女に迫られて、男だったら必ず恋に落ちてしまうと思いますのに。
 わたくしも同級生や後輩から言い寄られたことがありますので、女同士、というのは抵抗がありませんでしたの。接吻は夏実さんとのが初めてでしたけれど。
 それにしても、わたくしそんなにうるさかったかしら。夏実さんのことだって、お母様は初めて知ったのに。
 わたくしは、
「そんなに夏実さんのことについて騒いでいましたかしら」
 と、お兄様に訊きましたの。お兄様は、自覚がないのは恐ろしいのだよ、と答えた。
「オレが高尾のことを話すと、必ず夏実の話をし出すではないか」
「だって、お兄様と和成さんのお惚気話なんて聞きたくないですもの」
「惚気ではないのだよ……」
 だが、思うところはあるらしく、お兄様は黙ってしまいましたの。お兄様と和成さんの話なんて、惚気でしかありませんわ。
 お兄様との仲は決して良くないけれど、同病相哀れむっていう言葉があるでしょう?
 わたくしとお兄様は、高尾家の人間にすっかり魅了されてしまっているようですの。お兄様は和成さんに。わたくしはその妹の夏実さんに。

後書き
緑間の捏造妹、春菜ちゃんの話です。
緑間妹ちゃんの話って、結構あるんですよね。本当はどんな性格か私も知りたいなー。原作で出て来ることはないのかな。
しかしこれ……いつの時代の喋りなんだー?
2014.8.30

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