緑間のクロニクル

 高尾和成。つまり、オレの相棒。
 オレのどこがいいのだかわからないが、いつもオレのそばをちょろちょろしている。
 ――そしてオレは、いつの間にか、こいつに恋心を抱くようになった――。
 オレ――緑間真太郎は、高尾和成が好きだ。
 高尾はオレのことを最初は憎んでいたようだったが、この頃はオレに信頼を寄せるようになってきた。オレは高尾の信頼に足る存在なのか。だとしたら、こんなに嬉しいことはない。
「真ちゃんて、面白いよねぇ」
「そうか?」
「うん――かっこいいし……可愛い」
 オレのどこが可愛いと言うのだよ。195㎝はあるのだよ。高尾こそ、オレより頭一つ分背丈が低いくせに。それを指摘すると、高尾は、
「おおっ、言ったなぁ!」
 と、構えをした。どうやら背丈の話は禁句らしい。高尾……おまえは可愛すぎるのだよ。オレのことが可愛いというのは、おは朝占いのラッキーアイテムにこだわるところか?
 でも――黒子にさえ疎ましがられたオレだ。高尾に好かれようとは思っていない。唯我独尊、マジ好きそーいうの、と笑い上戸の高尾は笑いながら言っていたが。
 高尾――好きだ。
 オレは将来は医者になる。けれど、結婚はしない。高尾、お前がいるからだ。オレの理解者はおまえしかいない。
「マジキモイんですけど、そーいうの」
 と、高尾は言うかもしれない。言われても構わない。オレは――お前が好きだ。
 お前が女なら良かったのだよ。結構好みでもあるし。でも――ああ、高尾和成は男なんだ。
 ヤツには妹がいる。でも、高尾の妹と言われても、高尾と一緒にいる時ほどときめいたり、安心したりはしないのだよ。でも、妹は可愛い。
 高尾は生意気なところがある。けれど、それすらも可愛い。
 上級生に可愛がられている。リンチ、と人は言うけれど、あれはただのじゃれ合いだ。
 宮地先輩には、「轢くぞ、こら」と言われているが、本気ではない。木村先輩に、「軽トラ持ってこい」というのは、冗談――なはずだ。
 秀徳には、人事を尽くす者しかいない。優しい人しかいない。オレは戸惑いながらも、その環境に慣れて行った。
 オレは、秀徳高校に来て良かった。
 中谷監督もいい先生だし。高尾が一度中谷監督をマー坊と呼んで走らされてたなぁ……。校庭を。無駄に広い校庭のある秀徳だ。さぞかし大変だったろう。
 そういうわけで、ここにいれば退屈はしない。オレはキセキの世代のNo.1シューターと呼ばれていろいろ騒がれたが、本質的に騒がしいのは好きじゃない。でも、スタメンの奴らは普通に接してくれた。
(真ちゃん……)
 高尾の声が聴こえたような気がした。幻聴か? そんなにオレは高尾が好きか? 真ちゃん呼びは高尾にしか許していないのだが――。
「真ちゃん」
 ――幻聴ではなかった。
「何だ、高尾」
「次、英語だけど、映画会だから機材持って来いって」
「どうしてオレのところに来る」
「真ちゃんと一緒に運ぼうと思って」
 こいつ――オレをこき使おうなどと、上等じゃないか。だが、頼りにされてむずむずするほど嬉しい自分がいる。
「……なかなか難儀な恋だな」
「何だって?」
「――何でもないのだよ」
 そう。何でもない。そう言って誤魔化せればどんなにいいか。
 高尾はオレを裏切らない。あの時、そう言った。高尾は一見ちゃらちゃらした男だが、一本筋が通っている。こいつは本物だと、オレの勘が言う。
 こいつが相棒で良かった。同じクラスで席も近くで――。オレはいろいろ高尾と話をする。仲良くなったとは正直思っていない。高尾もオレにムカつくだろうが、オレも高尾にムカつくことがある。
 けれど――オレは高尾を嫌いになれない。人事を尽くしているから。
 黒子の中学時代の相棒は青峰で、それが羨ましいと思ったこともあったけど、オレには高尾がいる。ケンカもするけど、高尾和成は、オレの最高の相棒だ。
 英語も終わって、部活の時間――。
「うっわー、すげぇ!」
 見たか! オレと高尾のとっておきを! WCではあの洛山を手こずらせたこともある。部員達が息を飲む。
 オレ達はギャラリーにわっと囲まれた。
「緑間! すげぇじゃん!」
「高尾もすげぇ!」
 高尾がへへっと笑う。ちょっと気に食わない。嫉妬か。これは。オレにもこんな感情があったということか。
 部員に嫉妬なんてなぁ……。でも、オレは高尾を独り占めしたいのだよ。
 オレは、独占欲の強い男なのだよ。
 高尾、高尾、抱き締めたい――『裕さん、抱きしめたい』という本が確かあったはずだと思ったけど、詳しいことは忘れてしまった。裕さんとは、石原裕次郎のことである。
 オレも、高尾を離さない。多分一生。
 オレは医者になるつもりだけれど、高尾はどうするつもりなのだろうか。自分の進路を。
 確か、オレと同じ大学に行きたいと言っていた。――東大だぞ。お前の成績で大丈夫か?
 まぁ、高尾はやることはやる男なのでその点は信頼しているが――。
 オレは、相棒なんかいらないと思っていた。そんなのがなくても、シュートは打てると。
 黒子達と2点入るダンクがいいか、より遠くから決める3Pシュートで3点入れるのがいいか、議論になったことがあった。
「3Pポイントの方がいいのだよ。3点入るのだからな」
 そしたら黒子にアホ呼ばわりされた。心外だ。
 以前、高尾に、
「ダンクの方がいいか、3Pシュートの方がいいか」
 と訊いたら、
「オレ、どっちも好き」
 と笑いながら答えた。
「どうしてもどっちかなのだよ」
 と訊いたら、高尾は視線を宙に飛ばし、
「じゃあ、3Pシュートの方がいいかな」
 と言った。
 聞いたか、黒子! オレはよっしゃ!と小さくガッツポーズをした。
「だって、真ちゃんのシュートかっけぇもん」
 そう言って、高尾は全開で笑った。とても、照れ臭かったのだけはよく覚えている。高尾はオレのおかげで3Pシュートが好きになったのか? そう思うと、何だかむず痒い。
「それに、シュート決まったら3点入るしね」
「そうだろうそうだろう。2点より3点の方がいいのだよ。わかってないのだよ、黒子は――」
 言いかけて、オレは、はっと気づいた。高尾の顔に翳が差す。
 あれは――リコとかが他の悩みに気を取られた時にする顔だ。オレは何かまずいことを言ったのだろうか。
「真ちゃん……黒子好きなんだね」
「え……」
 しばしの間、絶句した。
「あ、えーと……黒子はチームメイトだから、そういう話もよくしたのだよ。オレは、黒子が好きでも何でもないのだよ。黒子には青峰がいたし、今は火神がいる。オレは黒子のことなど何でも――」
「真ちゃん、自分の気持ちに気づいてないんだ」
「だから、オレの好きなのは黒子じゃなくて――」
 お前なのだよ。――そう言葉に出すところだった。
「へっへーん。冗談だよん。男同士でんなこと言い争ったって不毛なだけだろ」
「高尾、きっさまー……!」
「あれ? 真ちゃん、怒ってる? 何で?」
 オレの純情を弄んで。オレがお前にどんな気持ちを持っているか気づきもしないで……。オレは逆エビ固めを高尾に食らわせた。高尾は理不尽だと言ったが、オレには通用しないことはわかっているはずだ。オレは理不尽な男なのだよ。それでも、オレは、高尾が好きだ。傍から見るととてもそうとは思えないかもしれないが。愛しているとさえ言っても良いのだよ。
 黒子は――嫌いではないが、人のものなのだよ。火神とも呼吸が合って来たし。もしかして、青峰とよりも相性がいいんじゃないか?
 だが、オレ達は負けない。高尾と一緒に、お前らに勝つ!
 そうだ――来年は新入生が入ってくる。大坪先輩や宮地先輩達も卒業する。遊び心のわかった、なかなかいい先輩達であった。高尾が絡んで、よくお仕置きされていたけれど。
「うー、あの『轢くぞ』というセリフが聞こえなくなるのは寂しいっすね」
「オレもなのだよ」
「でも、宮地サンいい大学入ったし――成績いいってのはほんとだったみたいね」
「お前も見習って勉強しろ」
「真ちゃん教えてくれる?」
「人事を尽くすか?」
「もち」と、高尾は答えた。
「じゃあ、教えてやる。来い高尾」
 オレは歩き始めた。高尾が鞄を片手にぱたぱたとついてくる。今日は家族に遅くなるって言っとくわ。高尾がそう言い、スマホで家に電話した。男友達と一緒なら大丈夫だろうと、高尾の家族も安心するに違いない。――本当に大丈夫かって? オレが抑制できればな。
 ――オレ達は並んで歩き出した。きっと、この時代のことをオレはずっと記憶に留めているであろう。

後書き
ずっと前に書いた、緑→高小説。
今日は緑間クンの誕生日なのでお披露目することにしました。Extra Gameの前に書いたものかな。
緑間クン、誕生日おめでとう! 緑間クンは今でも沢山の人に誕生日祝われているよ!
2018.07.07

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