ラブラブマンハッタン2 ~高尾編~

 今日さ、大学の図書館でキミに会う夢を見たよ。――大学なんか足も踏み入れたことないのに。
 それに、キミはマンハッタンの夜景より綺麗だったよ。――マンハッタンどころか、日本から一歩も外に出たことないのにね。おかしいね。
 喫茶マンハッタン。そこにキミはいる。
 流れているのは『ラブラブマンハッタン』という曲。オレの気持ちにぴったりだ。
 夢は壮大だが現実はしょぼい。だから、オレは現実離れな夢を見る。
 オレの想い人――図体はでかいし緑の髪だからすぐにわかる。すっげー美人なの。でも、男なのが残念だよなぁ……。
 オレ、高尾和成はただ今絶賛片思い中であります……。
 今はキミはまだ来てないみたいだな。
 妄想を楽しむしかねぇんだよなぁ……今はそれでいいと思う。
 ああ。キミのところに飛んで行きたいよ。それに抱き締めたいけど。
 翼があればいいのに。――でも、飛び方知らないしなぁ……。
 とりあえず、コーヒーを注文して、キミが来るまで粘ろう。

 いつもキミに話しかけようとするけど。
 キミを見るといっぱいいっぱいになっちゃって。
 自慢のコミュ力はどうしたんだってオレも自分で思うけど。
 あー、今日は髪型が決まらねぇ!
 こんな髪じゃキミに会うこともできないぜ……。

 キミのこと考えてたら、歌ができちゃった。キミには聴かせる予定はないけどね。
 でも、ギターでワンマンショーしちゃった。
 今は暑いし、窓も開けているから、ご近所さんはさぞかし迷惑だったろうな。ゴメンね。
 キミに会いたくなってきた。だからタクシー飛ばしたいけど……金ねぇし。そもそもどこに住んでいるかもわからない。

 同じクラスの子から告白された。
 長い髪で清楚な感じで――オレの好みどんぴしゃな子。
「好きです、高尾君!」
 オレはちょっとぐらっと来てしまった。
 返事は明日ということで、逃げるようにいつもの喫茶マンハッタンに逃げてきたのだが。
 キミより好きな人ができた。そう言ったら、キミはどう思うかな。驚くかな。
 ……んなわけないか。だって、オレ達まともに口きいたことねぇもんな。
「ご注文は」
「いつもの」
 こんなの会話したうちに入らない。
 でも……緑色の髪のキミが恋しい。
 オレは一晩悩んだ末に、決めた。

「ごめん。オレ、好きな人いるんだ」
 オレは告白してくれた相手にそう告げた。
「返事、伸ばして悪かったけど……」
「ううん。そんな気がしてたんだ」
 オレは相手が少し寂しそうに見えた。その姿がオレ自身と重なる。
 オレの好きになったヤツはさ……無愛想でさ、客商売のくせに笑顔ひとつも見せやがらねぇし、しかも男だし……。
 でも、本当に好きなんだ。
「オレな……実はその人とは喋ったこともないんだ」
「高尾君が?」
 相手の女の子は少々驚いたらしい。無理もねぇか。誰かれ構わず声をかけるようなイメージ持たれてるんだろうし。
 ――最後にがんばってね、と応援されてしまった。
 チョー優しい子。彼女に早くいい恋人が見つかるといいな。

 それでも。
 少しでもキミからその女の子に目移りしたことがあるのに罪悪感を覚える。
 謝りたい。謝りたい。
 でも、キミはオレのことを知らないし、オレもキミのことを多分よく知らない。
 オレは勝手にキミのことを想い浮かべて、ごめん、と心の中で思った。

 ある日、オレがテーブルに着いて待っていると――。
「あの……最近よくやってきますよね」
 快い低めの声。いつも想っていた緑色の髪の男――キミが初めてオレに向かって注文以外のことで話しかけて来た。
 これも夢か? ううん。今度は夢じゃなかったけど……☆

後書き
『ラブラブマンハッタン』という歌を題材に書いた連作。
前回より歌の内容に即していると思います。
緑間の名前が最後まで出て来ないのがあれなんですけどね……。
『ラブラブマンハッタン2』ということになっていますが、本当は『3』です。高緑高でも書きましたが、他のジャンルでも同名の(中身は違うけど)小説書いたことがありますので。
読んでくださった方々、ありがとう!
2013.7.21


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