ローカルサイトでラブラブ8 ~エア冬コミをやるのだよ~

「高尾君、緑間君、エア冬コミやらない?」
 朝倉ひな子が誘いをかけてきた。面白いししっかりしてるし、確かに美少女なのだが、どうも何かわけのわからない女だ。高尾が諸手を上げて賛同した。
「いいねぇ、やろうやろう!」
「エア冬コミとは何なんだよ!」
 わけがわからず、ちょっと苛ついたオレが怒鳴る。オレの相棒、高尾和成と、ひな子はオレを珍種の動物でも見るかのような目付きで見る。
「緑間君、エア冬コミって何のことかわからない? 察することできない?」
「つか、真ちゃんのことだからリア冬コミも知らないんじゃね?」
 二人が呪文を唱えてる……じゃなくって!
「えーと……緑間君、コミケは知ってるよね。コミックマーケット」
「知らないのだよ」
 オレは堂々と答えた。高尾とひな子がこそこそと囁き合っている。
「さすが緑間真太郎。高校生になってもコミケを知らないとは……ある種の天然記念物?」
「温室育ちなのねぇ……」
 高尾とひな子は憐れみに満ちた目でこちらを見遣る。
「そういえばテレビで何かやってたような……変なかっこの男や女が出てきてたのだよ」
「――コスプレのことね」
「……みたいだね」
「まぁ、今回はエアコミだから、私はコスプレやらないけどね」
「えー、ひなちゃんのコスプレ姿見てみたいー」
「高尾君は緑間君のコスプレを見てみたいんじゃなくって?」
「その通り! それに、オレもコスプレ一度やってみたいんだー」
「秀徳のユニフォーム着てみただけでコスプレにならない?」
「そかなー」
 高尾とひな子がオレの知らないことで盛り上がる。
「コスプレとは一体何なのだよ」
 オレは首を傾げた。高尾とひな子はぷるぷると震えている。
「やべー……真ちゃんかわええ……」
「今度の本はコスプレを知らない汚れなき緑間君と、変なコスチューム進めてくる高尾君の本に決定ね!」
「つか、たかみど?」
「んー、どうしよっかなー」
「待て。二人ともそれは……もしかしていかがわしい本なのではあるまいな」
「あ、さすがの真ちゃんもわかったか」
「まぁ、そうでないと張り合いないものね」
「オレ、秀徳バスケ部のギャグ本でも描くよ。ひなちゃんはエロ本だよね」
「当然!」
「――んで、エア冬コミの場所は緑間邸ね、決定ー!」
「おい、高尾!」
 高尾は何度か遊びに来ているうちに、すっかりオレのうちが気に入ってしまったようだった。まぁ、オレの妹の春菜はあんまり面白い顔しないけどな。

「エア冬コミか……何なのだよ」
 オレがパソコンで調べてみると、エア冬コミについて書いてあるサイトを見つけた。エア冬コミが楽しみだ、という記事で埋まっている。ローカルサイトの流れでエア冬コミというの遊びが流行っているらしい。
「なるほど……」
 スマホが鳴った。バッハなのだよ。
「あ、もしもし。真ちゃん」
 高尾のあっけらかんとした声が聞こえた。
「真ちゃん、真ちゃんも本出さない?」
 そうだな……案外楽しそうかもしれないのだよ。
「小説なら何とか書けるが?」
「オッケー。真ちゃんの小説楽しみにしてるね。ローカルサイトにも通販の知らせを出すよね、もちろん」
「あ……ああ」
「オレも出しとくからさ。でさ、本のことだけど、今はオンデマンド印刷というのもあるし」
「オンデマンド印刷?」
「コピーでもいいかもしれないよ。コピーはいろいろ凝れるからねぇ」
「うちのプリンターで作ったのではダメか?」
「大歓迎! んじゃ、エア冬コミは一月半ばね。ウインター・カップが目の前だから」
「おい、高尾!」
 ツーと鳴って電話が切れた。
 ――全く、勝手なヤツなのだよ。ウインター・カップと原稿か……大変な重圧なのだよ。この時、オレとしてはウインター・カップの練習の方に力を注ぎたいと思っていたのだが――。

「おはよー」
「おはようなのだよ」
 高尾に答えたオレはさぞかしどよ~んとした空気を発していたに違いない。
「わっ、どしたの、真ちゃん!」
「……小説書いてた。原稿用紙で五十枚書いたのだよ」
「五十枚も……つか、今時、原稿用紙で小説描くやついたんだ……」
「原稿用紙でなければ何を使えというのだよ」
「パソコンのワープロ機能に決まってんだろ。ワープロ専用機なんて今はもう骨董品だからさ。スマホで小説書くやつもいんのかもしんないけど、オレは不安だからやらない。つか、ノベルゲーム作ったことあるよね。真ちゃん。あの時どうしてた?」
「ゲームと小説は違うのだよ。ゲームの時は確かにワープロソフトを使っていたんだが」
「小説だから原稿用紙持ち出して張り切っちゃってんの? まさか今時純文学とか書いてないよね?」
「オレとお前の恋愛小説書いていたのだよ」
 高尾がぼっと顔を赤くして、それから俯いた。
「オレとの恋愛小説をわざわざ原稿用紙に書いてたなんて……真ちゃん、案外腐男子の要素あるね」
「腐男子とは何なのだよ」
「――まぁ、いいや。ひなちゃんが聞いたら喜ぶと思う」
「おかげで徹夜になったのだよ」
「黒子? あ、違うか。夜更かしの方の徹夜ね。真ちゃんも今度リアコミに行かない? 勿論、暇な時でいいからさぁ」
「考えとくのだよ」
 ――ひな子も徹夜明けなのか元気がなかった。
「ひなちゃん、原稿どこまで行った?」
「んー。46P……」
「もうそんなに書いたの? 高尾ちゃんびっくり!」
「高尾君は?」
「1P……」
「高尾君、やる気あるの?」
「あるある。4Pは描く予定」
「全く……緑間君は?」
「原稿用紙で五十枚……」
「五十枚?!」
「まだまだ続くのだよ……夜更かししてしまったが、何事にも人事を尽くさねば……」
「えらい! 緑間君、同人者の鏡!」
「おかげで眠いのだよ……先生が来たら起こしてくれ高尾……」
 オレは、そう言って眠ってしまった。高尾はわざと起こさなかったらしいが、先生は怒るどころか緑間らしくない、と心配してオレの睡眠を認めてくれたらしい。日頃から人事を尽くすという効能が、こんなところで発揮されるとは知らなかった。

 エア冬コミの日――。
 オレの邸は客人(約二名)で賑わっていた。春菜どこかへ行っていて家にいなかった。父さんと母さんはデートらしい。
 オレは高尾とひな子の本を買って読んだ。なかなか面白かったが――正直言ってオレの小説の方が面白いのだよ。特にバスケの描写や3Pシュートの描写には力を入れたのだよ。ワープロで清書して(結局ワープロを使うことになった)高尾の言っていたオンデマンド印刷で入稿日には何とか間に合わせた。
「緑間君がこんなにエッチな小説書くとは思わなかった……」
「まぁ、真ちゃんはムッツリだからな……」
 お茶会を兼ねて本を眺めていたオレ達だった。――ひな子と高尾が顔を見合わせて絶句する。しかし、オレが書いたのはエロ小説なんかではなく、恋愛小説なのだよ。心外だ。
 オレは後でこの天才作家にメールフォームで感想を送る予定なのだよ。

後書き
ローカルサイトの話です。わー、懐かしい!
オンデマンド印刷のことは実はよくわからなかったりする……。
緑間クンのエロ……いや、恋愛小説は読んでみたいですねぇ。
2020.01.08

BACK/HOME