ローカルサイトでラブラブ7 ~宮地先輩も作っていたのだよ~

「今日、サイトにまたみゆみゆの写真あげたんだぜー」
 宮地先輩が木村先輩相手にそんなことを言っていた。
「え? 肖像権とか大丈夫か?」
「馬鹿、ローカルだよ」
 そして、宮地先輩はこっちを向いた。
「なぁ、緑間。ローカルサイトって知ってるか?」
「――はぁ」
「何だ、知ってんのか。お前のことだから『ローカル線のサイトですか?』とでも言うかと思ったぜ。んで、お前は作ったことあんの?」
 オレはつい、
「はい」
 と返事をしてしまった。
「なぁんだ。あるんなら見せてくれよ。でないと轢くぞ」
 オレは返事に困った。あのちょっとエッチなノベルゲームはどうしよう……。
 ――その時オレは、がっ!と後ろから高尾に体をホールドされた。
「いいに決まってんじゃん。ねぇ、真ちゃん」
 オレ(緑間真太郎)は仕方なく頷いた。

「何で二人ともリアカーに乗ってるんですか!」
 高尾が抗議の声を上げた。
「お前がじゃんけんに負けたからなのだよ」
「くっそ。宮地サンにまで乗られると重いんすよ」
「いいから漕いでろ。――しかし、爽快だな。緑間、お前がリアカーに執着しているわけがわかったよ」
 オレは別に執着しているわけではないのだが……。
 オレは家に着くと宮地先輩を母に引き合わせた。どういうわけか、宮地先輩はぼーっとしているみたいだった。
「どうしました? 宮地先輩」
 オレは心配になって訊く。
「え? いや、緑間。お前の母さん美人だな。つい見惚れちまったよ」
「ありがとう」
 母が笑った。
「ちょっとみゆみゆに似てるかなぁ」
「宮地先輩……母は既婚者ですよ」
「知ってるわい。パソコンどこだ」
「二階です」
 オレが先頭を歩き、宮地先輩と高尾がバタバタとついてきた。
「これです」
 オレは『緑間真太郎のローカルサイト』という、高尾に言わせれば「面白くない」タイトルが出てきたのを確認した。
 宮地先輩は、オレのサイトを見ながら、
「かってーなー。バスケとラッキーアイテムのページは面白いけど。でもなぁ……親に見られたら恥ずかしい絵とかSSとかねぇの? それか、せめてアイドルの写真とか」
「――あるわけないのだよ」
「えーっ?! 真ちゃん嘘つき!」
 高尾が声を上げる。あれか……。しかし、先輩には見られたくない。
「何っ?! やっぱり何かあるのか?!」
「大したものではありませんが……」
「なに遠慮してんだよ。オレには自信満々で見せてくれたくせに」
 高尾がバンバンとオレの背中を叩く。
 オレは自作のノベルゲーム、『不思議の森』を起動させた。
「うわっ。何コレ本格的!」
「説明書を見ながら作ったらできたのだよ」
 オレはやはり内心得意だった。
「あ、ちょっとエッチなのもあるんだな……相手は高尾か。お前らしいな」
「からかわないでください」
「怒るなって。ま、程々にな。高尾に変なことしたらお前を轢くから」
「高尾のことは轢かないんですか?」
「お前の方がムッツリスケベだもん」
「そうだよね。真ちゃん、ムッツリだよねー」
 高尾もあはは、と笑う。でもオレは知ってるのだよ。宮地先輩が高尾を好きなことを。その上で温かい目で見守ってくれていることを。まぁ、言葉遣いはあれだが。オレも宮地先輩のことは敬愛している。彼は決して高尾に不埒なことはしない。
「緑間。今度はお礼にオレのサイト見せてやる。明日部活後オレの家に来い」
 宮地先輩はそう誘ってくれた。オレは言った。
「わかりました。お伺いします」

「だから、何でチャリアカーで宮地サンとこまで行かなきゃいけないんだよー」
「黙れ高尾」
 オレはそう言って高尾を黙らせる。高尾はブチブチ呟きながら運転する。――昨日のお返しなのだよ。オレは何となく悦に入っていた。
「ここですね。宮地サン」
 高尾はチャリアカーを止めた。そこはどこにでもありそうな日本家屋だった。
「さ、あがれ。おーい、お袋」
「何だい?」
「客」
 宮地先輩がぶっきらぼうに言う。宮地先輩の母親の顔立ちはきつめだが整っていた。宮地先輩の母だけのことはある。
「あんまりうるさくしないでね。清志」
「わぁってるよ」
「わぁ……家でも宮地サンは宮地サンなんだね」
 高尾が呟いたのを、オレの耳は捉えた。こいつは何を言いたいのだろう。
「ほら、これだ」
 パソコンがふぃーんと軽やかに起動して、宮地先輩がマウスを動かす。サイトのタイトルは『みゆみゆと俺』
 みゆみゆと思しきアイドルの写真がこれでもかというほどあった。みゆみゆと『みゆみゆ命』のハッピを来た宮地先輩の写った写真が現れる。
「わー、すげぇ! でも重くないっすか?」
「重いだろう! みゆみゆへのオレの愛は地球より重い!」
「オレは写真のことを言ったんだけど……こんな大容量でさ」
「高尾、忘れたのか? これはローカルサイトなんだぞ」
「あは、そうでした。大きい写真でもさくさく見ることができるんですよね」
「そういうこと、次」
 ――オレ達の目は点になった。さっきのとどこが違うんだろう。
「あの……宮地先輩」
「何だ? 緑間後輩」
「そのギャグはやめてください……さっきのとどこが違うんですか?」
「このみゆみゆの目線が違うだろっ! よく見ろ! 轢くぞ」
「わかんないすよ。そんなん」
「うっせ。高尾」
 宮地先輩が高尾を小突く。可哀想な高尾は宮地先輩にみゆみゆの二つの写真の違いについて延々と聞かされていた。しかし、高尾は懲りるということを知らなさ過ぎるのか、
「エッチな小説とかないんですかー」
 などと、とんでもないことを訊いている。――あ、宮地先輩も同じようなこと昨日オレに訊いたか。
「馬鹿! 神聖なみゆみゆを例え想像の中でも汚せるか!」
 ――宮地先輩の想いは相当一途であった。オレは幾分ひきながらも、宮地先輩の純愛に心を打たれずにはいられなかった。みゆみゆや高尾に想いを寄せながらも大事にしている宮地先輩は、確かにピュアなところの多分にある先輩だった。性格はきついところがあっても。
「ほら、これ見ろ」
 またみゆみゆか――宮地先輩の情熱はわかったが少し食傷気味になっていたオレは画面を覗き込んだ。
 それは、秀徳バスケ部の皆の写真だった。オレも高尾もいる。中央には、中谷仁亮監督が。やはり、宮地先輩はバスケ部を愛しているのだ。ちょっと感動が甦ってきたオレは言った。
「この写真――プリントアウトできませんか?」
「馬鹿。お前も同じ写真持ってるだろ? 自分のでやれ」
 そう答えながら宮地先輩は何故かニヤニヤしていた。もしかすると照れ笑いだったのかもしれない。それにしても、みゆみゆとやらの二つの写真の違いについてさっきまで熱く語っていた男とは思えないほど、投げやりな口調だった。

後書き
ローカルサイトの話、アップするのは久しぶりです。これはずっと前に書いた作です。
何となく、宮地先輩も作ってたら面白いかな、と思って。
みゆみゆ一色なだけでなく、バスケ部の思い出の写真も飾ってあるのは彼らしいと思います。
それでもって、宮地先輩と高尾にムッツリ呼ばわりされる真ちゃん……自業自得とは言えちょっと可哀想です。
2017.2.10

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