ローカルサイトでラブラブ6 ~高尾のサイトに荒らしが来たのだよ~

 今日、バスケ部の練習が終わった後で高尾の家に行く。決して邪な思いは抱いていないのだよ。
 大体、夏実や高尾の母のいるところでやれるかっ!
 だから、決して邪な気持ちで来たわけではないのだよ。……ほんとなのだよ。
 え? 念を押すところが怪しいって?
 まぁ……できれば、ペッティングぐらいは……と思ってるのだが、高尾が人事を尽くしてくれるかどうかが心配なのだよ。
「しーんちゃん♪」
 高尾和成の声だ。ちなみにオレ――緑間真太郎――は、どういうわけかこいつに構われるのだよ。で、それがそんなに嫌でもないのだよ。
 ……気付けば好きになっていたのだよ。
 高尾に対するオレの気持ちは狼で、高尾をいつ食べ尽くそうか思案の真っ最中なのだよ。
 リコも中学時代のマネージャーもオレのことを紳士と言ってくれたし、実際そうだと思っていたけれど……こと、高尾に関しては紳士も何もない。
 ほら、高尾……早くしないとお前のことを食ってしまうのだよ。
「夕飯欲しいの?」
「いや……今は、まだいい」
「お腹空いてるような顔したからさぁ……」
 高尾は鋭いようで鈍い。オレはお前に飢えているのだよ。さぁ、食わせろ。
 その代わり、お前のことはオレが全力で守る。中島みゆきの『空と君との間に』でもあったじゃないか。君が笑ってくれるなら、僕は悪にでもなる――と。
「まぁ、高校生なんて食べざかりだしね」
「高尾」
 オレが呼ぶと、高尾は「んー?」と間延びした返事をする。
「ローカルサイトの方はどうなのだよ」
「着々と進んでまーす。ああっ!」
「ど、どうしたのだよ、高尾!」
「オレのサイト……荒らされてる!」
「掲示板か?!」
 オレが慌てて覗いてみるものの、何故か高尾は落ち着いているようだった。さっきの叫び声も演技……?
「……馬鹿。お前とオレと夏実しか見られないサイトで荒らしに遭う訳ないのだよ」
「あちゃ。真ちゃんは誤魔化せなかったか。そうだよ。皆オレの自作自演」
 掲示板の荒らしによる書き込みは一生懸命高尾が考えたのであろうが、はっきり言って型通りだ。
 高尾のサイトに行くには、超絶技巧を持つハッカーでも難しい。
「こんなことして楽しいか? え?」
 オレは高尾に詰め寄る。襲うチャンスだったが、オレの頭からはそんなことすっぽ抜けていた。
「うん。荒らしと信者による炎上ごっこ。楽しいよ。んでもって最後は大団円!」
 オレは少し頭が痛くなってきた……。
「ローカルでやれるところがいいんだよね。オンでこんなこと書き込まれたら、さすがの高尾ちゃんも少し落ち込むなー」
 男子高校生が自分のことを『高尾ちゃん』と言うとは何事だ。思わず可愛いと思ってしまうではないか。……いやいや。
「それで、荒らしが嫌で閉鎖しますとか言うんじゃないだろうな。ローカルなのに」
「いいね、それ! ローカルでも閉鎖はできるんだよね」
「無駄な努力なのだよ。そういうことをする時間があるなら、バスケのスキルを磨けとあれほど……」
 と、言いかけてオレは止める。
 高尾は、一生懸命なのだ。何事にも。ちゃらい外見からは想像もできないくらい。
 バスケもサイトも、こいつは一生懸命人事を尽くしているのだよ。
 そんな男を前に……もっとがんばれとは言えない。
 時々理解に苦しむこともあるが、高尾は大切なオレの相棒なのだよ。がんばってる高尾が好きなのだよ。見た目も結構整っているし。ただし、鷹を思わす迫力ある顔付きだけれど。
 じーっと見てると、可愛いけど、女の子とは違うのだな……そういう風に思うのだよ。
 そんな『高尾和成』という生き物が愛しい。
 オレはぎゅっと高尾の背中を抱き締めた。高尾のつけている仄かなコロンの匂いが鼻を擽る。
「真ちゃん。書きづらいってば」
「何を書くのだよ」
「擁護の書き込み!」
 そう言った高尾の指が滑らかに動く。
『記事番号3566:天野いちご
何言ってるんですかー! それが高尾君の持ち味でしょう? 批判する人、はっきり言ってなめてませんか? 私はこの雰囲気すごく好きです。それを壊さないでください!』
「お前……天野いちごって……」
「んー、何かいそうじゃん。ネットのスイーツ系女子。でも、真ちゃんの方が綺麗なの」
「そうか……おい、高尾。そこをどけ」
 オレはブラインドタッチを駆使してやった。高尾が目を瞠っている。ま、無駄な能力と言われればそれまでなのだが。
「おー。さすが真ちゃん。素早いタイピング」
「ピアノをやってたからな」
「それって関係あるの?」
「さあな」
「自分で言っておいて『さあな』って……」
「できた」
『記事番号3567:緑間真太郎
何だかわからないが、悪いところがさっぱり見当たらないのだよ。むしろ、人事を尽くしている標本として尊敬するところもある。
バスケも勉強も余暇の時間もこいつにとっては戦いなのだ。それをめいっぱい楽しんでいるところもあるが。
このサイトだって、本気の遊び場なのだよ。それがわからないヤツらは一度座禅でも組むといい。
高尾は求道者だ。攻撃するならオレはどんな手立てをもってしても守る。
炎上させるヤツはもう一度胎児から人生やり直した方がいい。高尾は悪くない』
 ――と、こういう感じか?
 後ろでは高尾がプスススと笑いを堪えている。
「擁護してくれるのは嬉しいけどさ……真ちゃん、座禅を荒らしに勧めるの?」
「悪いことではないだろう」
「むしろ笑われるね。あー、そういう真ちゃんだから好き!」
「もっと書くか?」
「うん。――この書き込みは永久保存版にしよう。それとも殿堂入りの方がいいかな?」
「どっちでもいいのだよ」
「じゃあ、オレからも返信書くね」
『いちごちゃん、緑間君、書き込みありがとー。漏れ、がんがる!』
「何だ? がんがるってのは」
「あー。真ちゃん、知らないか。知らなくてもいいよ。そのまんまピュアな緑間様でいてください」
「気になるのだよ」
「んー、じゃ、一度ぐぐってみたらー。それしか言えないよー。答えが出て来るかどうかはわからないけど」
 高尾が遠い目をした。おい、高尾、とオレが目の前で手を振る。
「ん、でも、真ちゃんが守ってくれるなんて、オレ嬉しいよ。ありがとう。求道者なんてガラじゃないけどさ」
 このふにゃんとした笑顔がオレの理性を狂わせる。
「高尾……」
「ん……」
 オレ達は口付けを交わす。もっとしようとすると高尾が、
「この続きは後で」
 と、オレの唇を人差し指で押す。
『記事番号3568:高尾
オレ、今、真ちゃんといいことしてまーす。どうです。真ちゃんクラスタ及びファンの人。みんなの緑間君を取っちゃってごめんねー☆』
 画面が記事で埋まった。
『なにー?! 真太郎様と高尾がいちゃついてるんですって! キーッ!』
『緑間はオレ達のモノだ! 高尾には渡さーん!』
『まぁまぁ、滾ってないでお茶でも一服( ^^) _旦~~』
『落ち着けみんな! いいことというのは、ボランティアとか空き缶拾いのことかもしれないんだぞwwwwwww』
『いや、それはない。反省の色のない高尾。ぬっ殺す』
『やっだー。緑間って高尾のことが好きなのー? ショックだから宿題して来るわw 追伸:後でどうだったか教えてね』
『緑間っちhshs(*´д`)』
 よくやるのだよ、高尾も。最後の方ちょっと変なのが入ったが。高尾をどかせてオレも書き込みを始める。
『さっきはいいところで止められたのだよ……皆さんの書き込みは絵文字がたくさんで賑やかですね。オレもアスキーアートには興味があります。絵は苦手ですが』
「真ちゃん……この場合敬語はいらないから。しかもオレら自作自演だし。まぁ、いろんなキャラ演じたいならいいけどー」
 腸捻転でも起こしそうな高尾の笑いっぷりに、オレは引くのを通り越して心配になってきたのだよ……。
「和成ー。真太郎さんー。ご飯ですよー」
 高尾の母が呼ぶ。――タイムリミットだな、とオレは思った。

後書き
ローカルサイト、ツワモノは自作自演で炎上させて遊んでいるようです。
ひとり遊びなのによぉやるなぁと思いながら、何となく気持ちわかります(笑)。
私がローカルサイトにハマっていたのはいつだったかな。ローカルサイト作りたいなぁと思いながら緑高のローカルサイト作ってた気がする。
因みに『天野いちご』とは小六の時に考えた私のペンネームです。 
2016.5.26

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