ローカルサイトでラブラブ5 ~ノベルゲームを作るのだよ~

 高尾のローカルサイトは順調にできている――。オレもちょっと焦るのだよ。
「高尾。オレでも作成できるようなゲームはないか?」
「なになに? 真ちゃんもゲーム作るの? 楽しみ~」
「あくまで、初心者ができるようなヤツ、だ!」
 オレは念を押した。
「ああ、はぁはぁ。真ちゃんのような超初心者でも作れるようなゲームね」
「超はいらん」
「真ちゃんさぁ、読書好きだったじゃん。だからさ、ノベルゲームなんてどうかな?」
「それはサウンドノベルのことか?」
「なんだー真ちゃん、わかってんじゃん。フリーソフトもいっぱいネット上にあるよ。でも、ローカルで作るんだよね」
「無論なのだよ」
「がんばってね~」
 高尾の声を背に、オレ――緑間真太郎――は、意気揚々と引き揚げていった。

「ふむふむ……これなんかよさそうだな」
 宿題を終了した後、適当なノベルゲーム用フリーソフトをダウンロードして、早速作業を始める。しかし、この頃はネットも怖いから、十分注意せねばならない。アドウェアなんてのもあるし。――高尾に散々念を押された。
 インターネットに繋ぐ時は十分気をつけてねって。注意してても入ってくるものらしいのだが。
 説明書を読みながらさくさく作っていく。これはいい。さっさと作って高尾に見せよう。
 その時、スマホが鳴った。
「あ、もしもし。真ちゃん」
 高尾だ。
「今、何してる?」
「ゲームを作っているところなのだよ」
「宿題終わったの?」
「とっくに」
「へぇ~、オレなんか勉強そっちのけでローカルサイトに夢中だよ」
「さっさと勉強に戻れ! バカ!」
 そう言って電話を切った。

 一週間後――。
 オレは母と一緒に高尾を家に出迎えた。
「いらっしゃい。高尾君」
「こ……こんにちは」
 高尾は柄にもなく緊張しているようだった。いつも通りでいいのに。
「これ、うちの母からです」
 それは、月世界だった。高尾によると、この間、高尾の母が旅行のお土産に買ってきたものだったらしい。
「母が、緑間さんの分も買ってきたのです。緑間家に遊びに行くと言ったら、ちょうどいい機会だから持っていきなさい、と渡されました」
「まぁまぁ、ありがとうございます。真太郎、いただきましょう」
「そうだな……」
 断る理由もない。オレは頷いた。

「ゲームどんな感じ?」
「ふふふ。まだ完成はしてないが、なかなかいい感じなのだよ」
「えー、マジ?! 超見てぇ!」
「高尾君、真太郎。ゲームって何のお話?」
「おー、そうそう。真ちゃんノベルゲーム作ってるんだよね」
 ローカルサイトのことは内緒の話じゃなかったのか? オレはちょっとムッとした。
 まぁ、夏実も高尾のサイトのことは知ってるけどな……。
「すごいわねぇ、真太郎。でも、私は機械音痴だから、ゲームのことはわからないわ」
 母はにっこりと笑った。我が母ながらふわふわした感じだ。しかもこれで天然なのである。
「まぁ、母さんに見せるものではありませんよ」
 母はふふ、と笑った。
「真太郎がゲームをねぇ……すごいわねぇ」
 母が感に堪えたように言っている。殆ど尊敬の眼差しだ。
「あ、お母さん、真太郎君はちゃんと勉強もしているので、そこんとこお忘れなく」
 と、高尾。何が『真太郎君』なのだよ。
「ええ。自分の息子のことですもの、わかってるわ」
 母は相変わらずふわふわした感じで応対している。おやつもお茶もなくなった。
「じゃ、オレ達ちょっと真太郎君の部屋に行ってます」
「はい。わかりました。どうもお構いできませんで」
「いえいえ。充分お世話になりました」
「高尾、早く来るのだよ」
「はーい。それでは、ありがとうございました」
「早くしないと春菜が帰ってくるのだよ」
「はーい」
 春菜のことは母はもう知っている。春菜は夏実に夢中である。どうしたらいいかしらね、と言っていたが、相談を持ち掛けられても困る。オレだって和成(高尾の下の名)に夢中なのだ。
 高尾が春菜に、オレが夏実に恋していたなら、上手くいったんじゃないかと思うのだが、こればっかりはどうしようもない。
 ノートパソコンを起動させてUSBメモリを差し込む。
「おっ、真ちゃんのお宅もなかなか充実してきましたなぁ」
「お前には敵わないけどな」
「へへっ」
「でも、オレも負けないのだよ」
 そう言って、ノベルゲームを披露した。
「すげぇ! 本格的じゃん」
「だから、言っただろう。オレも負けないと」
「プレイしていい?」
「当然」
 タイトルは『不思議の森』。音も出せるようにしてある。
「へぇー、『弟切草』みたい」
 そのゲームは知らなかったが、オレは黙っていた。『かまいたちの夜』は名前だけは知っているが。
「真ちゃんが主人公ね。おうおう。オレも出てきましたな」
「大坪主将と宮地先輩と木村先輩も出てくるのだよ」
 高尾は集中してオレの制作したゲームを堪能している。
「すげー! 真ちゃん、すげーよ、このゲーム!」
「だろう?」
 オレは内心鼻高々だった。
「オンに上げないの? 勿体ない」
 それは散々心の中でオレがお前に言っていた言葉なのだよ。
「まぁ、人に見せるもんじゃないしな。それに、これはまだ未完成品なのだよ」
「それにしてもすげー。宿題の合間にこれ作ってたんだすげー。あ、前にはなかった分岐がある」
「何度か遊んだら分岐を増やす設定もしたのだよ」
「これで誰にも見せないなんて言ったら、すごく無駄なこだわりだよね」
「ふん」
「あ、ちょっとエッチな話……ふふふ、真ちゃんも好きなんだなぁ。しかも、相手はオレじゃん」
「オンに上げない理由がわかっただろ」
 ゲームを続けていた高尾がこう言った。
「……あは。そう来たか。――真ちゃんて、ほんと、ムッツリスケベだね」
「うるさいのだよ。今ここで襲われたいか」
「きゃあ、カンベンカンベン」
 高尾は満更でもなさそうだった。……まぁ、オレの主観だけどな。でも、ゲームをプレイしている高尾が嬉しそうなので、まぁいい、こいつを襲うのはまたの機会にしようとオレは思った。

後書き
真ちゃんの作ったノベルゲームで遊びた~い、と思っているTomokoです。
ちょっとエッチな話も見てみたいですね。
『不思議の森』のモデルは『弟切草』です(笑)。あれ、プレイステーション版は画像が怖いんだよな……。
2016.5.14

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