ローカルサイトでラブラブ4

「真ちゃん、見て見て」
 パソコンを起動させた高尾和成が緑間真太郎を呼ぶ。
「どうした?」
「これこれ。オレが作ったんだよ」
 ディスプレイにはドット絵で作られた可愛いミニキャラが。高尾に似ているような気もするけれど……。
「これ、お前か?」
「そうだよー」
「実物より可愛いのだよ」
「ひっで! 真ちゃん」
 高尾が笑い転げている。笑い上戸なのだ。
 ミニキャラがゆったりと芝生の緑と黄色い道のある背景をゆったりと動いている。
「しかし、よく作ったのだよ」
「えへ。真ちゃんに褒められて嬉しいな♪ 自信作なんだ。真ちゃんの分もあるよ」
「ほう……」
「ほら、この緑色の髪のヤツ」
「すぐわかったのだよ」
「今、こんだけしかないんだけどさ。ドット絵って面白いよね。後、友達なんかのキャラも作る予定。キセキのヤツらなんかさぞ髪の色が映えるだろうな」
「無駄にカラフルになる気がするのだよ。――これもローカルか?」
「そう」
「web上にあげないなんて、勿体ない気もするのだよ」
「でも、それを敢えてあげないところがローカルサイトの醍醐味なんだよ」
「お前の家に今度遊びに来た時には、ローカルで国を作っていそうだな」
「いいねぇ、ローカル国! 城や城下町でも作ろうかな」
 緑間は気に入ったらしく、じーっと画面を見つめている。
 緑間は195cmの高身長だが、ミニキャラになると可愛くなる。見ていると心が和む。
 もう、高尾のローカルサイトはすっかりローカルサイトではなくなったような気がするのだが……。
 これはこれで、良いかもしれない。
「オレもドット絵作りたいのだよ」
「おう。コツさえつかめば誰でも描けるよ。やり方教えてやろうか」
「頼むのだよ」
 緑間はあまり高尾に物を頼むということはしないが、今は気安くそう言った。
「じゃあねぇ、まず……」
 高尾の台詞の途中で、コンコンコンとノックの音がする。
「お兄ちゃん、真太郎さん、おやつですよー」
 高尾の妹、夏実なのであった。高尾がのんびりと答えた。
「おう、わりーな、なっちゃん」
「えーと……入ってもいい?」
「いいよー」
 夏実はこの間の件で懲りたらしい。高尾の部屋に入る時はノックして必ず、入っていいか訊いてから入るそうだ。
「クランベリージュースだよ。お兄ちゃん」
「きんきんに冷えたクランベリージュース?」
「うん!」
「わー、オレ、大好きなんだー。ねぇ、真ちゃん、見てないでおやつにしようよ」
「……わかったのだよ」
「――何見てたか、訊いていい?」
 と、ジュースとお菓子を乗せたお盆を置いた夏実。
「うん。見て見て。――オレと真ちゃんのミニキャラ」
「どれどれ――わぁ、可愛い! 二人とも可愛い!」
 夏実も大喜びだ。
「何これ。どうしたの?」
「オレが作ったの」
「えー、カズ兄すごーい!」
「カズ兄?」
「ああ、あたし、昔、お兄ちゃんのこと、『カズ兄』って呼んでたの」
 ――微笑ましいな。緑間はそう思った。
「なっちゃんのも作るね」
「ほんと?! わーい!」
「これ、バスケするようにはできないのか?」
「そうだね! 真ちゃん! ミニキャラ同士、バスケさせんのも面白そうだね!」
「――作るのが大変そうなのだが」
「まぁ、そこはそれ、何とかするよ。だってオレ、ハイスペックだもん」
「キセキの人達とバスケできるようになったら面白いかもね」
「なっちゃんもアイディアサンキュー。滾って来たぜー」
「あんまり興奮するな」
「真ちゃんこそ、あんまり冷めた目で見るな」
「さぁさ、おやつにしよう」
「うん。なっちゃんもこっち来て」
「――あたしもいていいの?」
「勿論!」
「あたし、自分の分は持って来なかったんだけど」
「じゃ、オレ持ってくる。クランベリージュースは冷蔵庫だろ?」
「そうだけど」
「じゃ、なっちゃんはそこにいて」
「う……うん」
 ――夏実は高尾が来るまで、緑間と四方山話をしていた。

 三人は円形に座った。ノ―トパソコンの置いてあったちゃぶ台は隅に追いやられた。
「しかし、お前ら兄妹は本当に仲がいいのだよ」
「あ、うん、えへへ……」
 夏実が照れ笑いをする。
「なっちゃん。なっちゃんのミニキャラできたら見せるね」
「うん!」
 夏実もクッキーをもふもふ食べている。緑間はしきりに床を気にしている。高尾が訊いた。
「どしたの? 真ちゃん」
「……食べカスが床に落ちたのだよ」
「ああ。後で掃除しとくから」
「お前は意外と部屋を綺麗にしているし、女だったらいい嫁になるな」
「うーん。ちょっと複雑な気分」
「ねぇ、あたしもキセキの人達と対戦できる? ミニキャラゲームの話よ、勿論」
 夏実が話題を変えた。
「できるできる。つか、本当にできるかどうかわからないけど、できるようにしたいな」
「ほんと?! 楽しそうだね」
「つくづくオンに上げないのが勿体ないのだよ」
「こんなに凝っててローカルというのがミソなのさ」
 パソコン上にある、自分だけの秘密空間。自分だけが楽しめる、電脳楽園。高尾もすっかりハマってしまっているらしい。バスケと同じくらい……。
 高尾のサイトの場合、緑間も夏実も見ているわけだから、厳密には自分だけの世界とは言い切れないかもしれないが……。
「なっちゃんも作ってみなよ。なっちゃんだったら作れるよ。ローカルサイト」
「うーん。あたしだけのサイトかぁー。憧れるけど、お兄ちゃんみたいに上手く作れるかな」
「だーいじょうぶだって。好きなように作ればいいんだから」
 高尾、妹にローカルサイトを布教しているな――と、緑間はふっと笑う。高尾が言った。
「オレもssやイラスト載せようかなぁ、と考えているところなんだ」
「あ、それ見たいかも」
「むちゃくちゃエロいのもあるから、それはオレ、なっちゃんにはオススメしない。普通の小説や絵だったら見せてもいいけど」
「見せたいものだけでいいよ。楽しみにしてるね」
 夏実が笑う。この笑顔に、春菜も惹かれたのかな、と、緑間は思う。――春菜は緑間の妹である。
「高尾。オレもドット絵作るのだよ」
「真ちゃんが? できたら見せてくれんの?」
「ああ――約束だ」

 後日、緑間の描いたドット絵を見て高尾が、
「これ、何のモンスター?」
 と訊いてきたので
「高尾だ」
 と答えたら思いっきり笑われたのだった――。

後書き
今回は緑間視点かな。ドット絵私も作りたいなぁ。ミニキャラゲームでも遊びたいし。
思考回路がなっちゃん並……(笑)。そういえば今回はなっちゃんも出張ってますね。
2015.1.30

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