ローカルサイトでラブラブ24 ~再びエアコミケをやるのだよ~

 ――オレのスマホが鳴った。誰だろう。送信者は中学時代からの友、赤司征十郎だった。悪友と言った方が正しいかもしれない。
「もしもし――」
『あ、緑間か? 『フリハタクエスト』、誕生日に贈ったら降旗に喜んでもらえたよ』
「それは良かったな」
 友人が嬉しいなら、オレも嬉しいのだよ。
「オレが降旗だったら、絶対喜ぶと思ったのだよ」
『ありがとう、緑間。――お前少し優しくなったんじゃないか?』
「え? あ? そうか――?」
『やっぱり誰かさんのおかげだね』
「た……高尾は関係ないのだよ」
 赤司がクスクス笑った。――しまった! 語るに落ちたのだよ!
『でも、オレの方も少しは降旗に近づけたような気がしたよ』
「――良かったな」
『ああ。お前や――仲間達のおかげだ。ありがとう』
「お前も随分素直になったのだよ。――それとも、それが元々の性格だったかな?」
『うん、まぁ、オレにも降旗光樹という大切な人がいる訳だし。――お互い大切な人達の為に頑張ろうな』
「ああ」
 電話は切れた。――赤司にしては随分惚気てくれたものだよ! オレは階下へと降りた。今日の味噌汁はなんだろう。微かに酒粕の匂いがする。粕汁か。オレの大好物だ。
 それにしても、赤司も大人になったのだよ。負けないようにオレも頑張ろう。夕食をしたためた後、オレは宿題予習復習を終えて、ゆったり風呂に入って歯を磨いて、ラッキーカラーの緑色のパジャマを着て寝た。

 ――冬が近付いてきている。オレは朝の冷たい空気を吸った。冬の凛冽とした空気は心をしゃんとさせる。秋田の紫原はもっと冬を感じているのだろうか。
 あいつのことだ。「雪、うざ~い」とか、相変わらずのゆるい感じで呟いてるんだろうか。まぁ、紫原のことはどうでもいい。
「あ、真ちゃ~ん」
 高尾の甘い声がする。高尾はチャリアカーと共に来た。
「真ちゃん、じゃんけんじゃんけん」
「馬鹿め。お前が負けるに決まってるのだよ」
「えー、そんなん、やってみないとわかんないだろ?」
「……そうだな」
 帝光中時代のオレだったら、やってみなくてもわかるのだよ、と反発したかもしれない。だが、秀徳に来て、人事を尽くすメンバーの背中を見た。そう、高尾でさえ、人事を尽くしている。――おちゃらけているように見えても。
 いや、オレの会った中では、一番人事を尽くしているのではなかろうか。高尾和成という男は。
 ――しかし、やはりじゃんけんはオレが勝った。
「くっそう。次は絶対負けねぇ!」
「――せいぜい頑張るのだよ」
「余裕ですね。緑間様は。ったく」
 オレは、高尾のちょっと子供っぽいところにくすっと笑った。
「あ、真ちゃん。来年は受験だね。どこに行くの?
「東大以外考えてないのだよ」
「えー? じゃあ、オレ、真ちゃんとは別の学校だね。――だって、オレ東大行けっこないもん」
「お前だって成績は悪くないだろう」
「うーん。中の上って辺りかな」
「……明日から勉強みてやるのだよ。人事を尽くすのだよ」
「ほんと?! いいの?!」
「ああ――オレもお前と一緒の大学に行きたい。だから、オレの学力に合わせるのだよ」
「げー。真ちゃんのキチクー!」
 そう言いながらも、本気を出せば大したものなのだ。この男は。やらないから出来ないだけで。ゲームを作っている時も、この男は一生懸命だったのだよ。
「あのさ……ウィンター・カップも控えてるけどさ、ウィンター・カップが終わったら――エア冬コミやんね?」
「去年やったやつか」
「そうそう」
 オレもコミケのことは調べてある。というか、赤司が黛に説明を頼んだのだ。オレにコミケがどんなところか教えてやって欲しい――と。
 ビックサイトで行われているという同人誌即売会にもいつか足を運んでみたいものだ。
 けれど、内輪だけでやるエア冬コミも捨て難い。客は高尾にひな子か――ふむ。何だ。結局前と同じではないか。だからこそエアコミなのだろうが。
「今度もお前は何か描くのか?」
「うん。実は春から準備してたんだよね」
 朗らかに言う高尾にオレは、
「勉強をやれ!」
 と、怒鳴ってしまった。

 帰って勉強した後、オレは来年のエアコミに向けて原稿を書いたのだよ。乗りに乗って三十枚も書いてしまった。頑張ればもっと書けそうだ。オレの創造力は上がっているのだよ。オレは進化しているのだよ。
 まぁ、それには高尾の存在が大きいのは否めないが。
 原稿を見て、オレは胸が熱くなってしまったのだよ。オレと高尾のことを書いたのだが――高尾のことをこれ程までに想っている男はそうはいまい。
 ――スマホが鳴った。高尾だ。
「高尾?」
「あ、真ちゃん。勉強終わった?」
「終わったのだよ。お前は?」
「オレも終わったとこ。――肩凝ったからフリハタクエストで遊んで力を抜きたかったんだけど……かえって熱中して疲れたかもしれねぇな」
 フリハタクエストのソフトを赤司が作って、友人限定で配布してもらった。オレも高尾ももらったのだよ。フリハタクエストには飽きが来ない。赤司征十郎は本当に何でも出来る男だ。ゲームに疎いオレでもあれは名作だとわかったのだよ。
 オレは赤司のように完璧ではないから、人事を尽くす。赤司にはどうしても敵わないのだよ。黒子も――あれはあれでオレは尊敬しているのだよ。
「――真ちゃんは、エアコミに何出すの?」
「そうだな――小説の続編でも書こうかと思っているのだよ」
「うっわ。マジ? あのエロエロのヤツ?」
「――エロとか言うな」
「わりぃわりぃ。でも、オレあれ読んで思わず勃っちゃったからさ――エロ大歓迎。真ちゃんの書くエロだったら超歓迎」
「ところで、フリハタクエストはどうなったのだよ」
「ん? 妹ちゃんにじゃんけんで負けて取られた……なっちゃんゲームが好きなんだ」
「どうせお前が勧めたんだろ?」
「あ、わかった? だって、あんな名作、可愛い妹のなっちゃんにも紹介したくってさぁ……」
「――何だかローカルではなくなって来たような気がするのだよ」
「まぁ、オレもね……そろそろ潮時かな、と思ってるんだ」
「何がなのだよ」
「ローカルサイトさ。来年はオレもお前も三年。オレ、東大行かなきゃなんないから、勉強しなくちゃだしさぁ……」
「そうだな。では、今度の冬コミでローカルは休むということにして」
「――いつでもやめられるところが、ローカルのいいところだよね」
「――だな」
「でも、ローカルやめて寂しい時はまた始めればいいんだし――ローカルっていいよね」
「そうだな。――今まで楽しかったのだよ」
「フリハタクエストも面白いけどさ――オレ達の作ったゲームもなかなかじゃね?」
「ああ。受験が終わったら、お前と一緒に続編作りたいのだよ」
「でもさー、シナリオ作りは難しいし、真ちゃんの描く絵はモンスターにしか見えないし」
「悪かったな」
「あのゲームもエアコミに飾ろうね」
「――そうだな」
 今まで楽しかった。ローカルサイトで、オレ達の絆は強くなったような気がする。バスケだけでなく――。
「エアコミの場所は真ちゃん家でいい?」
「全く構わないのだよ――春菜がいるかもしれんが」
「春菜ちゃんもローカルやエアコミに興味示すかな」
「わからんな。夏実がいたら大喜びだろうがな」
「んー、オレの妹ちゃん、女の子にモテちゃうなんて、兄としては複雑だな――」
「切るぞ――今日は……楽しかった」
 いやに寒いと思ったら、雪が降っていた。どうせならクリスマスに降って欲しかった。ホワイトクリスマスは嫌いじゃないのだよ。取り敢えず、まだ冬本番でない時期に降る雪も、それはそれで乙なものだ。異常気象かもしれないが。
 オレは火照った頭と体を冷やす為、テラスに出た。幸せが風呂のお湯のようにひたひたと、オレの体内に緩やかに溜まって行った気がした。

後書き
緑間クンのような文才が私も欲しいッ!
今年は冬コミケやるのかな……。
2020.09.21

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