ローカルサイトでラブラブ23 ~フリハタクエスト2~

「やぁ、緑間――また来たよ。今度は黛さんも一緒だ」
「黛千尋です。本日はお招きいただきありがとうございます」
 別に黛さんはよんだ覚えはないのだがな――。赤司は笑いを噛み殺しているようだった。何だ? 赤司のこういう表情は珍しいのだよ。
「黛さん、緑間に対してそんな改まった挨拶はいらないんだよ」
「そっか。アンタ、赤司とタメだったよな」
 ――何か、さっきと態度が違うのだよ……。
「ところで、餡子の匂いがするんだが――」
 赤司は鼻がいい。身体能力も優れている。特にバスケは天才級だ。オレ達を率いてあのJabberwock戦も勝利に導いたのだからな。
「相変わらず鼻がいいな。赤司は。……そういえばいい匂いがして来るな」
「――あがるのだよ」
 既に高尾が来ている。高尾が言った。
「あっ、こんちは。赤司」
「やぁ、高尾」
 高尾と赤司はもう意気投合したようだった。高尾のコミュニケーション能力はチートなのだよ。オレは険しい顔をしているらしかった。赤司が笑った。
「緑間、そんな怖い顔しなくても高尾は取らないよ」
「えっ、真ちゃんもしかして妬いてくれてたの。高尾ちゃんウレシ~」
 高尾が笑った。こいつ……そのでっかい口に何か突っ込んでやろうか……。
「黛さん、お願いします。緑間。今回のゲームも黛さんが手伝ってくれたんだよ」
「――と言っても、オレにはやることはなかったのだけれどな。赤司が有能過ぎて」
「黛さんの助けがあったからこそですよ」
 ――赤司と黛は仲がいいらしい。どうでもいいが、降旗はどうなったのだよ。
「今日はこれを持ってきた。『フリハタクエスト2』だよ」
「――この間のの続編か。どうでもいいがタイトルにひねりがなさ過ぎるのだよ」
「今回も降旗が主人公なんでね。わかりやすいだろ?」
「わかりやすいのはいいが――早くプレイするのだよ」
「はいはい」
 赤司がにっこり笑う。昔からは想像出来ない笑顔だ。凄みのあるにやり笑いは散々見てきたが。
「はーい、オレやるオレやる!」
 高尾が張り切って挙手した。赤司が苦笑する。
「じゃあ、やってみようか。高尾」
「うん!」
 起動音がなって、赤司が持ってきたUSBメモリを差し込んだ。お洒落なメニュー画面が現れる。
「そいじゃ、スタート」
 高尾が言った。オレも一応眺めてみる。
 降旗のドット絵が変わった。前よりも可愛い気がする。赤司の愛の賜物だろうか。
「すげぇな……進化している……」
 それはオレも思ったのだよ。しかも、前作の長所も生かされている。しかも、ゲーム性は今回の方が上。
「黛さんにも手伝ってもらったんだ」
「オレも楽しかったぜ。お礼に勉強見てもらったりしたんだ」
「赤司は大学の授業もわかるのか?」
「まぁ――わかるところだけ。数学と英語かな」
 ――こんな男に勝とうと一瞬でも思ったオレは馬鹿だったのだよ。オレも高三レベルならまだついていく自信はあるが――大学の授業はどうだろうな。少なくとも現役の大学生を教える程の学力はないのだよ。
 高尾は夢中でキャラを動かしている。イベントも前より充実している。モンスターの絵も綺麗だ。
「ねぇ、真ちゃん。このキャラ殺したくないよ~」
「何でだ?」
「だって好みなんだもん」
 その敵キャラがオレに似ていると思ったのは気のせいだろうか。
「ああ、それは緑間をモデルに作ったキャラなんだよ。戦闘が終わったら、運が良ければ仲間にすることも出来るよ」
「そうか。ようし、頑張るぞ!」
 パソコンのキーボードの上を高尾の指が滑るように踊る。高尾はドヤ顔でオレの方を振り向いた。
「真ちゃん! 真ちゃんのことを仲間にすることが出来たよ!」
 高尾が興奮して喋る。――だから、それはモンスターキャラであって、オレ自身ではないのだよ。――まぁいいか。高尾も喜んでいることだし。
 けれど、これは降旗が主人公なんだよな……。
「高尾そっくりのキャラもいるんだけどね」
「え? どこどこ?!」
「それは秘密」
 赤司は唇に指を当てて『秘密』のジェスチャーをした。
「けどこれって、勇者フリハタ、最初はあんま強くないだろ? 育てるのも楽しいんだよな~」
「前作のとリンクさせて強くなったフリハタでプレイすることもできるけど」
「マジ?! すっげー! フリハタチートじゃん!」
 いや、チートなのはフリハタじゃなくて、これを完成させた赤司だろ――そうツッコむのを忘れる程夢中になってしまった。
 これがローカルなんて……勿体なさ過ぎるだろ……。流石は赤司なのだよ。
「今回はテストプレイなんだけど――バグは今のところなさそうだな」
「お前――散々チェックしただろうが」
 黛さんが呆れ顔で言う。やはり赤司も陰で努力しているという訳か。
「もう少し改良をした方がいいと思ったところがあったら遠慮なく言ってくれ」
 赤司がニコニコしながら言う。これは――商品として売れたらかなりの売り上げが期待出来そうなのだよ……。
「改良するところなんて、ないんじゃない?」
 と、高尾。
「でも――愛しい人に贈るゲームなんだから、少しでも完成度の高い物をあげたいじゃないか」
 赤司が目を伏せながら頬を赤くした。その気持ちはわかる。けれど、赤司にも人並みに人に恋する感情があったのだな――。
 しかし、降旗には赤司の相手は荷が重いんじゃないだろうか。赤司は降旗にメロメロだけれど。気が知れないのだが、降旗は悪いヤツじゃない。まぁ、ちょっと迷惑しているようだが。
 それに赤司と降旗は男同士だ。赤司もオレも気にしないが、降旗は気にするだろうな。
「ようし――これを超えるゲームをオレ達も作ってやる! な、真ちゃん」
 そんな高尾を可愛いと思うオレも、充分病んでいるな……。
「ふふん」
 黛さんが嗤った。何なのだよ。
「お前ら――このゲームに敵うと思うか? ん?」
「う……かなり難しそうだけど、オレ達はやると言ったらやるもんね。黒子達やひなちゃんの力も借りて――うわぁぁぁぁぁっ!」
 高尾がのけぞった。
「どうしたのだよ。高尾――」
 そこでオレは言葉を飲み込んでしまった。
 中ボスのドラゴンの絵が迫力あり過ぎるのだ。オレも驚いてしまった。
「赤司も美術は最高だったが――これは、上手過ぎるのだよ……」
 いつの間にこんなに上達していたのか――オレが目を見開いていると。
「ああ、それ、描いたのオレ」
 と、黛さんが言った。
 チートはチートを呼ぶか――黛さんは去年のウィンター・カップでもいい仕事をしていたのだよ。
「オレにラノベを紹介してくれたのは黛さんなんだ。それで、同人界というものを知ったんだ」
「そうは言っても、赤司のヤツ、あっという間にオレのサークルを追い抜いてさ――」
「あははは。黛サン。赤司と張り合ったって無駄っスよ~。赤司は天才なんだから……」
 高尾が笑いながら黛さんの方を向く。
「そんなことはない。オレも悩んだり嫉妬したりしたこともあったよ。まぁ、今は克服しつつあるけれどね……」
「へぇ~。赤司にも悩みなんてあるの」
「いっぱいあるよ。高尾。黒子にも、勝てないなぁ――そんなことを思ったりもしたし」
「あいつの存在は反則なのだよ」
「まぁ、突然変異なのは確かだな。緑間の言う通り」
「黒子みたいなヤツにそうそういられては困るのだよ。赤司――お前のようなヤツにもな」
「それはどうも」
 フリハタクエスト2の出来栄えにオレ達は感激してしまった。降旗も喜ぶことだろう。このプレゼントの裏に秘められた、赤司の鬱陶しいまでの恋情に目を瞑れば――だが。

後書き
降旗クン、愛されてますねぇ。
黛サンを出したのは私の趣味です。あのラノベ読んでて、実は隠れオタクかな、と言うところがツボった……。
2020.08.31

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