ローカルサイトでラブラブ22 ~フリハタクエスト~

『もしもし、赤司だが――』
「? ――何の用だ」
 オレと友人の赤司征十郎は電話で喋っている。
『今度の日曜、お前の家に行っていいか?』
「わざわざ京都からか? ――何しに来るんだ?」
『実は――またゲームを作った』
「――お前は一体何をしているのだよ」
『緑間、お前には言われたくないな……ちゃんと勉学やバスケにも励んでいるよ』
「……それでいて余暇はゲーム作りにあてている訳か。他人事ではあるが、オマエのそういうところが気に食わないのだよ。――しかも、結果は常に最高と来ているし」
『それは誉め言葉と取っていいのかな。素直じゃない緑間がオレのこと認めてくれるなんてな。――誰かさんの影響かな』
「……オマエのそういうところも気に入らないのだよ」
『そうかい。じゃ、秀徳の影にも宜しく言っておいてくれ。それじゃ』
 電話が切れた。秀徳の影か。――ったく。
「おーい、真ちゃん」
 秀徳の影――当の本人が言った。
「おやつ食べちゃうよ」
「――太るのだよ」
「だって、美味しいよ。甘い物好きでしょ? 真ちゃん」
「ああ――そうだな」
 実は、ダイニングから漂って来るメープルシロップの甘い香りに気にはなっていたのだ。高尾が作ったのだ。高尾は菓子を作るのも上手だ。この間オレが真似して作って失敗した時はそんな自分に対して落ち込んだのだよ。
 まだか……まだ人事の尽くし方が足りないのか……。そう思って蹲ったのだよ。……赤司や高尾には見せられない姿だったのだがな。
 これではリコや桃井のことは言えないではないか……くっ。
「あ、そうだ――真ちゃん、誰と話してたの?」
「赤司だ」
「ふぅん」
 そう言って高尾はまたお洒落にデコったパンケーキを口にした。――旨そうなのだよ。パンケーキは飽きが来ないからいい。
「あれ? 真ちゃん食べたい?」
「ああ。高尾――これからもオレの為にパンケーキを作ってくれ」
「――今作ったばっかだよ。それに、真ちゃん、しるこの方が好きでしょ」
 ……通じなかった。オレの一世一代の告白。今のはプロポーズのつもりだったのだよ。――降旗の後を追いかけている赤司とそう変わらんのじゃないか。そう思ってオレはまた沈んでしまったのだよ。
「はい。真ちゃん、あーん」
「……あーんはしないのだよ」
「オレがしたいの!」
 高尾が駄々をこねる。可愛いな――じゃなかった。仕様がないヤツなのだよ。オレは口を開けた。
 ぱくっ。
「――どう?」
「高尾にしてはよく出来てるのだよ」
「――何だよ、素直に旨いって言えよ!」
 そう言いながら高尾がぎゃははと笑う。この笑い声も嫌いではない。最初は随分煩いと思っていたものだが。――まぁ、オレは癪だがこいつに惚れてるってことなんだろうな。一度赤司みたいに堂々と惚気てみたいのだよ。
 ――でも、こんな性分なんだから仕様がない。
「てか、真ちゃん、口小さいね。真ちゃんの新たなデータゲーット!」
 そう言うのはデータとは言わない。そう突っ込みを入れる気も失せた。
「んで? 赤司は何だって?」
「ゲーム作ったから持ってくると言っていたのだよ」
「へぇー、楽しみだな。この間のもマジ良かったじゃん!」
「そうだな……あいつは勇者というより魔王の方が向いているがな」
「赤司無双とか? やべぇ、超見てぇ」
「ちょっと待て。お前も来るのか?」
「あったりまえっしょー。いつ行けばいい?」
「――今度の日曜日に」
 オレも何だかんだ言って高尾に甘い。赤司が降旗にメロメロなようにだ。――母が帰って来た。高尾はオレの母の分も忘れていない。そうでなくてはハイスペックと呼べないのだよ。パンケーキの味に母は目を丸くしていた。

 ――日曜日。
 赤司がやって来て一通り挨拶を済ませた後、オレの部屋でパソコンを立ち上げる。フィーンと起動音が鳴る。
 題名は――『フリハタクエスト』
 これを見た時、オレは赤司がふざけているのかと思った。高尾は笑い過ぎで声が出ないようだった。――勝手に腸捻転でも起こして死んでしまえ。
「お前が勇者ではないのか?!」
 自分でも理不尽だとは思いつつも、オレは怒鳴る。
「そう。これは勇者フリハタの成長物語。――ビルドゥングスロマンさ」
「降旗には見せたのか?」
「見せないよ。だって――恥ずかしいじゃないか」
 赤司の頬がぽっと赤くなる。――友の一面にオレは少々引いた。
「ま、まぁ、そんなことはいいか――」
「真ちゃんがね、赤司が恥を知ってたなんて驚きだってよ」
 ようやく笑いが少しは収まったらしい高尾が横から口を出す。
「な――何を言い出すんだ……!」
「当たったでしょ」
「まぁ、外れてはいないが……お前は真の赤司の怖さを知らないのだよ」
「はいはい」
 勇者フリハタのパートナーは赤司だ。そして、フリハタはいろいろな人と会って冒険を重ねていく。オーソドックスなストーリーだ。
「なんかロ〇サガに似てね? オレもいるなんて感激ー」
「どんな時でも赤司――いや、アカシは離れないんだな……」
 赤司のような男につき纏われるなんて一般人にはさぞ鬱陶しかろう……オレはこっそり降旗に同情した。
「俺はパートナーだからね。降旗の。人生のパートナーにもなれるといいんだけど……」
 赤司よ。どうしてその台詞を降旗の前で言ってやらん。――降旗にとっては迷惑この上ないかもしれんが。
 ゲームはサクサク進む。ゲームバランスも良い。フリハタもアカシの力を借りながら順調に成長している。
「ふむ……」
「どうだい?」
「もう一度だけ訊く。赤司。このゲームには降旗には見せてやらんのか?」
「いつか見せる予定だよ。――降旗のことばかり考えてたらこのゲームの着想が湧いてきてね――緑間だってそうだろう?」
 まぁ、確かに。皆で作ったRPGはともかく、一人でノベルゲームを作った時は高尾のことも考えていたのだよ。
「このゲームもまぁまぁ面白い」
「まぁまぁ面白いどころじゃないよ! すっげぇいいじゃん! これもローカル? 勿体ない――」
「恥ずかしいんだ――」
 俺司は僕司より照れ屋なようだ。ちょっと可愛い。降旗のもんだがな。
「高尾。そろそろ帰れ」
「待って。このボス倒してから――」
 高尾が舌なめずりをする。――弱点を上手く突いて大柄のモンスターを倒した。そのモンスターも造形が素晴らしかった。
「高尾……このゲームは降旗の誕生日にあげたいんだ。降旗の誕生日はいつだったかな」
「そのぐらい覚えておくのだよ。恋してるんだろう? あいつに」
「では、そう言う緑間は知っているのかな?」
「知ってる訳ないのだよ」
「あ、待って、真ちゃん。誠凛の奴らに訊けばわかるから――あ、もしもし、リコさん?」
 オレは飲んでいたジュースを噴き出した。いきなりリコか?
「うん。降旗の誕生日、いつだっけ? うんうん、わかった。11月8日ね。ありがと。それじゃ」
「11月8日か――メモしておこう。……いい時期に生まれたな。降旗は」
「赤司――あまり降旗を怖がらせるなよ」
「わかっている。犬を手なずける要領で少しずつ恐怖を取り除き懐かせてみせるよ」
 真ちゃん、赤司って元々の性格も怖いね――高尾がオレの袖を引っ張りながら言う。オレは床が噴いたジュースで汚れたので洗面所に行って雑巾を持ってきた。
 手伝おうか、真ちゃん――高尾が言ってくれたが、赤司が、「俺達はゲストなんだし、緑間が悪いのだから緑間に任せておけ」と言ったのだよ。確かにその通りなのだが、それは俺の言うべき台詞であって、赤司、お前の台詞言うこっちゃないのだよ。

後書き
今、私の中で赤降が熱い!
フリハタクエスト、私もプレイしてみたい!
2020.08.11

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