ローカルサイトでラブラブ21 ~赤司も来たのだよ~

『やぁ、緑間』
「赤司――」
 赤司征十郎が電話を寄越したのは秋もたけなわという時だった。
『今から東京の実家に帰るよ。――お前の家に遊びに行ってもいいか?』
「それは構わんが――」
『件のゲームというヤツも見てみたいしね。水臭いじゃないか。なかなか誘ってくれないなんて』
「ああ、いや――悪かったな」
『まぁいい。降旗も連れて行くからな』
「あ、ああ――」
 赤司は一方的に降旗を気に入っている。どうせ無理矢理連れて来る気だろう。――オレは降旗に同情した。

 今、秋の夕陽を堪能しているところなのだよ。秋の匂いがオレにとっては一番かぐわしい。オレは浴衣姿で庭で涼んでいた。
 はて、何か忘れていたような――。
「真太郎ー。お客さんよー」
 そうだ。赤司達が来るんだ。降旗は強制として、福田や河原といった連中も来るんだろうか。――オレが思った時だった。
「やはりここにいたか。――緑間」
「――こんにちは」
 赤司――そしてやはり降旗が一緒だった。後から福田と河原も来た。ところで、あいつは来ないのだろうか。ほんの少しの期待を込めて思う。
 ――来るわけないか。その時だった。
「真ちゃーん!」
 聞き慣れた声がやって来た。……高尾だ。
「オレは降旗と二人で来たかったんだけどね……」
 赤司が溜息混じりに言う。
「降旗がどうしても福田君や河原君と一緒に来たいって言うし……高尾とは途中で会ったし」
「オレも真ちゃん家に遊びに来たかったしね」
 高尾が嬉しそうだ。降旗が福田や河原を巻き込んだ――というか、引っ張り込んだ気持ちもまぁ、わかる。
「賑やかで、たまにはこういうのもいいっしょ」
 そう言って高尾がへらりと笑う。
「オレは降旗と二人だけの方がいいな……」
 赤司がぼそっと呟く。降旗が慌てた。
「あ、オレはみんな仲良しの方がいいっス!」
 そうだな。降旗はそう言うしかないだろうな。赤司に限ってそんなことはあるまいが、降旗だって貞操の危機を感じているのだろうし。
「朝日奈や夜木も来たんだって? 楽しかったって言ってたよ。後、皆さんにお礼言ってくださいって、伝言」
 と、福田。
「オレ達も緑間達のゲームプレイしてみたぜ。すっげぇ楽しかった」
 河原が笑っている。
 ――良かったな。降旗。このぐらい人数いれば、赤司に襲われることはまずないぞ。
「そうか。なら、オレも早くプレイしてみたいな。実はオレもゲームを作ってみたんだが――緑間や降旗達にも見せようと思ってな」
 赤司のゲームか! どんなゲームを作ったのか見ものなのだよ。赤司に不可能はまずないからな。
「黒子達に負けてばかりもいられないからね」
「妙なライバル心を起こすななのだよ」
「そうそう。ゲームは楽しく作らなくっちゃ」
「まぁな。オレも楽しく作ったよ」
「んで、ジャンルは? ノベルゲーム? RPG?」
「……RPGだ。一からプログラムを組み立てたよ」
 これにはオレも唖然とした。オレ達はツクール頼みだったのに。――まぁ、それでこそ赤司と言うべきか。
「すっげー!」
 ――星が飛んでるぞ、高尾。オレはちょっとイラっとした。
「バグとかあったら教えてくれ」
 ――赤司は一応そう言ったが、赤司征十郎ともあろう男がバグのあるゲームを他人にやらせる訳がない。だから、これは謙遜と言うか社交辞令と言うか――ちょっと違うか。まぁいい。

 ゲームの出来はオレ達が作ったのと何ら遜色はないものだった。というか――。
「真ちゃん。……こっちの方が面白くない?」
 とは、高尾の言。河原も福田も訳がわからなそうにしながらも遠慮がちに頷いた。
「オレも初心者だからいろいろ思考錯誤したけど――」
「売れ!」
 オレは叫んでいた。
「このゲームは売れ! 絶対売れる! オレが保証するのだよ」
「はっはっは。馬鹿だな緑間。それを敢えて売らないのがローカルじゃないか」
「それはそうだが……」
 オレはうーん、と唸った。高尾が口を挟む。
「でも、真ちゃんの言う通りだと思うよ。これ、絶対話題になるって。赤司一人で作ったの?」
「いや、黛さんもいたが」
「じゃ、黛サンにも宜しく言ってください。黛サンも売りたくないとか言ってるんですか?」
「いや、黛さんも『このゲームは商品になるな』とか言ってたが」
 高尾と赤司が黛とやらの話をする。――黛はもう大学生だったな。
「赤司さん、黛って誰ですか?」
 よせばいいのに降旗も話に加わる。
「黛さんはオレの先輩だよ。ウィンター・カップで黒子と互角の戦いをしていただろう。ああ、でも話しておかなかったのは悪かったね。安心していいよ。オレが好きなのは降旗だから」
「……そういや思い出した。黒子にプレイスタイルが似ていた」
 降旗は赤司の台詞の最後の方をスルーする。福田が続ける。
「黛千尋さんですね。オレ達を苦しめた」
「黛さんには悪いことをしたよ。でも、楽しかったって言ってくれた。今では仲のいい友達だよ。ラノベを勧め合う仲でもあるしな」
「赤司もラノベを読むのか……」
 オレは少々驚いて目を丸くしていた。
「あ、何か気が合いそうっスね、オレ達。ラノベはオレも好きっスから」
 高尾。お前はハードカバーぐらい読め。
「ラノベの魅力を教えてくれたのが黛さんなんだ。いつか文学的な香りを持たせつつエンターテイメントとしても一級品のラノベを書くのがオレの夢のひとつなんだ」
 ……赤司は何でも出来るからな。
「けど、緑間。お前達のゲームもプレイしてみたいな」
「えー? 赤司サンのゲームの後じゃ見劣りがするなぁ」
 そう言いながらも高尾、へらりと笑っているのだよ。オレ達もこのゲームには、まぁ、自信がある。
 そして、早速プレイしてもらったところ――。
「あれ、ここ、漢字違わないかい?」
 赤司が早速誤字を指摘する。本当だ。こんな基本的なところでミスをするなんて――。オレは少々落ち込んだ。
「何やってんの? 真ちゃん」
「高尾……オレは今、赤司への敗北感に打ちひしがれているのだよ」
「そんなメンタル弱くないだろ。緑間は」
 赤司はオレを慰めようとしているのだろうか。気を使われるとますます落ち込むのだよ。
「まぁまぁ、真ちゃん。後で直そうよ。幸いこれはローカルなんだぜ」
 そうだ。これはローカルだ。自分や少数の仲間達に見せれば満足なのだよ。降旗がドンマイ、と励ましてくれた。降旗はチワワみたいに気の弱そうな奴だが、実際はそうでもないらしい。
 ――赤司がしーんとしている。何も言葉を発さない。やがて、横顔にすーっと涙の筋が流れた。
「――赤司?」
「このエピソードを考えたのは誰だ?」
「……黒子の発案なのだよ」
 赤司が目元を拭く。オレはティッシュケースを差し出した。
「悪いね、緑間。……やられたな。黒子には」
 何だかわからないが、黒子は赤司の泣きのツボを押したらしい。オレは考えていたことがある。赤司が敵わない相手は誰かと訊かれたら、それは黒子テツヤである――と。
「オレも同じシーンで泣いたのだよ」
 赤司とオレは、またひとつ、理解し合えたような気がした。元帝光中の幻のシックスマン、黒子テツヤのおかげで――。そう、たかがゲームと侮ってはいけないのだよ。

後書き
赤司様はどんなことでも出来そう……。黛サンと組んだら最高ですね!
緑間クン、ドンマイ!
2020.07.20

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