ローカルサイトでラブラブ20 ~ローカルじゃ勿体ないのだよ~

「こんにちはー、緑間さん」
 インターフォン越しに誠凛のルーキーコンビが言う。どうでもいいけど、あんまり秀徳の生徒と仲良くするのはどう思われているのか、こいつらにはわかってるのか――と思うのだよ。リコ達はそんなこと気にする奴らじゃないが。
「よぉ、朝日奈、夜木」
 仕様がないから、オレも答えてやる
「ひんはん、はへはひはほ?」
「高尾……ちゃんと飲み込んでから言うのだよ」
 高尾はオレの言うことを聞いて、メープルシロップのかかったパンケーキをごくんと飲み込む。
「誰か来たの?」
「ああ。ほら、誠凛の朝日奈大悟と夜木悠太なのだよ」
「ふーん。何だろうね。練習試合の打ち合わせとかかな」
「それだったらリコが来るはずなのだよ」
「――そうだよな。あ、真ちゃん、今、残念だなって思わなかった?」
「まさか……なのだよ」
 今は高尾しか目に入らない――なんて、こいつに言える台詞じゃない。創作物では一生懸命愛を謳っているのにな。――高尾が恥ずかしがる程。
(真ちゃん、もう止めて)
 なんて、言いながら悶えるのも再三にわたる。そんな高尾も可愛いのだが。――いやいや。
「鍵は開いているのだから勝手に入ってくるのだよ」
「じゃ、お邪魔しまーす」
 朝日奈と夜木の声が揃った。
「わぁ……いい匂い」
 夜木が空気を胸いっぱいに吸い込んでいる。朝日奈はパイナップルを持っている。
「緑間さん。これ、お土産のパイナップルっス」
「木村青果店のだな」
「……どうしてわかったんスか?」
「木村さんの息子さんは秀徳の生徒だったのだよ。木村さんには二人の息子がいてな、兄の方には随分世話になったもんだ。今は弟が頑張ってる」
「あ、そうっスよね」
「ああ。だが、お前らこんなとこで油売ってていいのか? インターハイはもうとっくに終わったが、ウィンター・カップもあるだろう。お前ら、負けたら好きな子に告るんだろ? ――全裸で」
「ぶふぉっ。何それ誠凛」
 オレの台詞に高尾が吹き出した。勿論、秀徳ではそんなことは許さないのだよ。全裸で告白――言ったのはリコだったが、言い出しっぺは日向サンだと聞かされた。日向さんは真面目だと思ってたので意外な感じもする。
「うん――でも、ローカルの先輩として、どうしても緑間さんや高尾さんには見てもらいたくて」
「何か作ったのか?」
「はい」
「――何を作ったのだよ」
 朝日奈と夜木の目が輝いた。
「オレ達の作成したRPGです!」

 母が作ったパンケーキを朝日奈と夜木に振る舞ってから、オレ達は二階の自分の部屋に上がった。
「さてと――君達はどんな作品を作って来たのかなー」
「あ、オレ達のオリキャラっス。本当は火神先輩を主人公にしたかったんだけど」
 朝日奈が説明した。
「お前らが主人公になればいいのだよ」
「そうなんスけど――何となく、柄じゃないというか……」
 朝日奈がぽりぽりと頭を掻いた。どうでもいいが、こんなに引っ込み思案で大丈夫か? 朝日奈大悟。
「まぁま、真ちゃん。楽しませてもらおうぜ」
「――そうだな」
 オレはパソコンを起動させた。朝日奈の持って来たUSBメモリを差し込む。メニュー画面が出て来た。
「おー、本格的じゃーん」
 高尾に言われて、夜木は「いやぁ……」と照れ臭そうに答えていた。
 タイトルは、『北北東に進路を取れ』。
「ヒッチコックだな」
 オレが言った。
「うん。――朝日奈君にタイトル何がいいかな、と訊いたら、『これがいい』って」
「有名っスからね。観たことないけど、タイトルは頭の中にあったから。でも、きっと中身は全然違うと思う」
「――後でDVDを貸してやるのだよ」
「ほんとですか?!」
 朝日奈の細い目が開く。
「良かったね、朝日奈君」
 夜木が朝日奈の肩を叩いた。微笑ましい友情なのだよ。オレと高尾と違って――まぁいい。オレと高尾は恋人同士――なんだと思う。
「真ちゃん。何羨ましそうに見てんの?」
「オレ達にもああいう時期があったかなぁと思うと――」
「オレは、今の方がいいと思うぜ。真ちゃん、大好きだぜ。誰が何と言おうと」
「止すのだよ……」
「あ、緑間さん、照れてる……」
「深くツッコまない方がいいと思うぞ。夜木」
 そういう朝日奈だって人のことは言えないだろう。
 早速ゲームを始める。――この間のノベルゲームより格段の進歩を遂げていた。前に朝日奈達が作ったゲームもなかなかの物だったが――。
「……これはローカルでオレ達だけが楽しむには勿体ないのだよ」
「おー。真ちゃん。オレもそう思っていたところなんだよね」
 高尾が同意を示してくれる。そもそも、ローカルサイトという楽しい遊びを教えてくれたのは高尾なのだ。
「これは体験版なんだ」
 ――朝日奈が説明してくれた。
「ハイクオリティなのだよ」
「ありがとうございます。緑間さん」
「これをさ、動画にアップしたいと言っても、朝日奈君きかなくって」
「当たり前だろ。オレ達ゲーム作りばかりにかかずらってもいられないもん。バスケもあるし」
 朝日奈の言葉に、夜木は溜息を吐いた。
「勿体ないですよねぇ。緑間さん」
「――ああ、勿体ない」
「シナリオは夜木。マップとかドット画とかは共同で作ったんだ」
「シナリオ、夜木クンなの? すごいね。一人で書いたの?」
「そうです」
 また嬉しそうに高尾に答えるんだよな。夜木……。
「オレ、頭悪いから話とか考えるの苦手でさ……」
 朝日奈がぽりぽりと頭を掻く。黒い髪の毛だ。綺麗な髪なのに、手入れを怠ってるな。
「朝日奈君は自分を知らないだけだって……」
「そう言ってくれんの、お前だけだよ、夜木」
 朝日奈が面映ゆそうに微笑んだ。こいつはあまり表情とか変わらないようなのだが。朝日奈はそれでもしっかりと嬉しそうに口角を上げていた。
「バスケ部の皆も言ってるよ」
「そ……そうかな」
「火神先輩も言ってるよ」
「……後で礼を言っといてくれ」
「朝日奈君が言いなよ」
 そのやり取りを聞いて、高尾は言った。
「いいね。ああいうの。ねぇ、真ちゃん」
「ああ」
「誠凛ていい奴ばかりだよな。黒子が惹かれたのもわかるよ」
 高尾が一人頷く。前に黒子に、
「何で誠凛なんかに言ったんだ、と訊いたら、
「一番楽しそうにバスケをしていたからです」
 と答えた。朝日奈と夜木も楽しそうだ。秀徳も誠凛に負けず劣らずいい高校だとは思うが。ルーキーに幸あれ、とオレは願った。

後書き
ルーキーに幸あれ! 本当ですね。
どんなゲームを作ったか、朝夜コンビのゲームも私、気になります!
2020.07.01

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