ローカルサイトでラブラブ2

 緑間家のチャイムが鳴った。緑間真太郎が出てみると、そこには高尾和成と朝倉ひな子の姿が。
「お待たせ。緑間君」
「はーい、真ちゃん」
 ひな子と高尾がそれぞれに言う。
「高尾、ひな子、まぁ入れ」
「お兄様、図書館行ってまいりますわ」
「ああ」
 真太郎の妹、緑間春菜が兄達に伝えた。ひな子のそばを通る時、つんと鼻を聳やかす。扉が閉まった時、ひな子は呟いた。
「何あれ」
「ああ――まだひな子には紹介してなかったな。オレの妹の春菜なのだよ」
「そんなことはどうでもいいの。何あの態度」
「悪かった。春菜は一見お嬢様風の女の子が大嫌いなのだよ。同族嫌悪もあるかもしれないのだよ」
「まぁ! 私がお嬢様ですって?」
「ひなちゃん、勘違いしちゃいけないよ。真ちゃんは『一見お嬢様風』って言ったんだよ」
 高尾がにやにやしながら指摘する。
「じゃあ、逆に訊くけどどんな人が好みなの?」
「――夏実だな」
「なっちゃんね」
「誰それ」
「オレの妹ちゃん。オレと違ってマジメで出来がいいの」
 と、高尾。
「春菜は夏実のような昔の可愛い女学生タイプが好みなのだよ」
「ふーん……春菜さんて、今時吉屋信子読む方?」
「お前も今時吉屋信子読んでいるのか? ひな子。――少し用があって妹の部屋に行った時、本棚を見たら――」
「見たら?」
「――全集が置いてあったのだよ……」
「それはそれは……でも、私だって森茉莉は全集で揃えているし、栗本薫も読むし――」
「妹をお前のようにはしたくないのだよ……」
 ベクトルは違っても、妹とひな子はやはり何となく同類のような気が緑間にはしている。何というか――匂いが同じなのだ。
「まぁ、失礼ね」
「ささ、ケンカしてる場合じゃないよ、二人とも。ローカルサイトの編集するんじゃなかったの?」
「ああ、そうだったな。こっちだ」
 ぴかぴかのノート型のパソコンが、テーブルに鎮座ましましている。
「わぁ……緑間君のノートパソコンて新しくて綺麗ねぇ……!」
 ひな子は感激している。何故他人のパソコンでそこまで感激するのか、緑間にはわからない。
「触っていい? ねぇ、触っていい?」
「無論だ」
 緑間が頷いた。
「じゃ、緑間君のサイト開いていい?」
「ああ」
 緑間はUSBを取り付けた。一応、ハードディスクにもバックアップは取ってあるのだけれど。
 一通り見終わったひな子が言った。
「固いわねぇ……さすが緑間君のサイト」
「だよねぇ……あ、そうだ。真ちゃんバナー作った?」
「まだこれからなのだよ」
「そっか……じゃ、一緒に作ろう」
「真ちゃんの部屋ってスキャナーないの?」
 高尾がきょろきょろする。
「ないのだよ」
「そっか。買っても損はないと思うけど」
「父の書斎にはあるのだよ」
「書斎ね。後で借りられるかな」
「ああ。借りられるのだよ」
「じゃ、ひなちゃん、よろしくー」
「はーい」
 ひな子はスケッチブックを取り出すとさっさか鉛筆を動かした。
「はい、完成ー」
 ひな子はイラストを二人に見せた。緑間は息を飲んだ。躍動感のあるバスケ選手だ。
「さすがだな……絵が上手いのは知っていたが」
「やだー。もう。緑間君たら」
「これ、マイケル・ジョーダン?」
「うん。その人しか知らないから」
「ふーん……おや? このユニフォーム……秀徳……6番……」
「あ、それ、緑間君と同じユニなの」
「ありがとう……なのだよ」
 緑間はしげしげと紙に書かれたジョーダンを眺めている。
「オレにも描いて欲しいな」
「オーケイ!」
「でも、同じマイケル・ジョーダンでは芸がないからこんなヤツ」
 高尾は下敷きを取り出した。
「高尾。お前は自分でも絵を描けるんじゃないのか?」
「オレ、アマチュアなら上手い方だという自信あるけど、ひなちゃんには敵わないからなぁ。プロになれるよ、ひなちゃんは」
「あらやだ、ありがとう」
「この絵、額に入れるのだよ」
 緑間はすっかりひな子の絵が気に入ってしまった。
「その前にサイトに掲載しないとね」
「父のスキャナーを貸してもらおう。いつでも好きな時に使っていいと言ってくれてたからな」
 緑間は父の書斎のスキャナーを使って絵を取り込み、USBに落とした。
「何か、えらく豪華なローカルサイトですなぁ。発表しないのが勿体なくなってきた」
「それでも、自分だけの城として公開しないで一人で見て楽しむのがローカルサイトの醍醐味なのだよ」
「ほうほう。わかってますなぁ、真ちゃん」
「高尾君、親父口調面白過ぎ……」
 高尾のいつもと違う口調がひな子にはウケている。
「嬉しいね。それからさ……後で真ちゃんの女装姿も描いて」
「わかった!」
「わかったじゃなーい!」
 緑間が叫んだ。
「破廉恥なのだよ、ひな子! そんな絵描いてみろ! タダじゃおかないからな!」
「タダじゃおかないからって、どういうことするの?」
「え、えーとえーと……」
 考え込んでいる緑間を放っておいて、高尾とひな子はキャッキャッと笑いながら相談を始めた。
「オレ達、エロゲ作ろうかな、と考えているんだけど……」
「いいんじゃない? 私にも遊ばせて!」
「いいよー。でも、もうローカルサイトとは呼べなくなってくるかな」
「レンタルサーバーに上げなければ立派なローカルサイトよ」
「んでさぁ、真ちゃんの格好はさ、和服が似合うと思うんだけど……」
「アイドル系も素敵じゃない?」
「そういうのは高尾の方が似合うのだよ」
 うっかり口を出して、高尾とひな子に注視された緑間は、しまった、という顔で口元を押さえた。
「なぁんだ。真ちゃんもノリノリじゃないかー」
「こういうのをムッツリスケベというのね。勉強になるわぁ。――普段の学生服もいいわよね」
「オレで遊ぶのはやめて欲しいのだよ……」
 いたたまれない気持ちになりながら緑間はテーピングした手でアンダーリムの眼鏡ごと顔を覆った。

後書き
モブキャラのひな子、大活躍!でも、ひな子は彼氏持ちの腐女子なので密かに高尾と緑間を応援しています。
あ、それから緑間春菜。オリキャラに近い捏造緑間妹。Sと呼ばれる関係に憧れている子です。
いつぞやのweb拍手お礼画面小説の続きです。
『レンタルサーバーに上げているのはローカルサイトではない』、『脳内サイトもローカルサイトだ』と諸説紛々ありますが、私は緑間と高尾のサイトは既にローカルサイトではないと思ってます。ローカルサイトはあくまで自分だけのもの。
私も作ろうとしていますが、なかなかはかどりません(笑)。
2014.7.23

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