ローカルサイトでラブラブ19 ~ルーキーも頑張っているのだよ~
ピンポーン、ピンポーン。
インターフォンが鳴る。もしかして高尾かな。――などと、少し期待しながらドアを開けると。
そこには誠凛のルーキー二人組。朝日奈大悟と夜木悠太。
「こんにちは。緑間さん」
「こんにちはー」
夜木が元気な表情をしているのに比べ、朝日奈はどうも眠そうだ。夜木について来たんだろうか。
「真太郎、お友達?」
廊下に母の声が響く。やがて、母が姿を現した。
「誠凛の朝日奈と夜木なのだよ」
「――お久しぶりねぇ」
「はい。この間のお菓子美味しかったです。これは母からです」
夜木が紙袋を渡した。
「まぁ……わざわざ気を使っていただいて。今、ちょうど紅茶を淹れようとしていたところなのよ。アップルティーよ」
母のアップルティーはいい匂いがしてすごく旨いのだよ。高尾が一生懸命覚えようとしてくれていたのだよ。俺の為に――と言ってくれてたけど、本当は高尾本人が飲みたいのだろう。でも、悪い気はしないのだよ。
「今日は皆さんいないのですか?」
「高尾が来るはずなのだったが、ちょっと用事が出来たとかで――」
「あー、それで緑間さん元気なかったんスね」
朝日奈がふわぁ、と欠伸をしながら言った。
「な……これでも充分元気なのだよ」
「ダメだよ、朝日奈君。本当のこと言っちゃ。高尾さんといた時の緑間さんはもっと生き生きしていたなんて――」
夜木も結構言っているのだよ……。
「まぁ、ノベルゲームでもわかるように、緑間さんは高尾さんを愛していますからね」
夜木に悪気はないのだろう。ニコニコしているからな。でも、オレは頭が破裂しそうになった。
「た、高尾とは、愛しているとかそういう関係とかじゃなく……た、大切な相棒なのだよ……!」
「はいはい。わかってますよ。――夜木がゲーム作ったんで持って来たんスよ」
「ほう……どんなのだ?」
ルーキーがどんなゲームを作ったか、オレは興味を惹かれた。
「オレもプレイしたけど、そんじょそこらのゲームより数段面白かったっス。アメリカの子供達が主人公でさ」
「MOTHER2みたいなの作りたかったんですよね。あのゲーム、人気があるから未だに高額なんですよね。だから、自分で作った方が安上がりかな、と思って。オレが作ったのはノベルゲームだけど」
「よく頑張ったのだよ」
「おっと、その台詞はゲームをプレイしてから言ってくださいよ。な、夜木」
「オレ、緑間さんからどんな感想をもらえるか楽しみです」
「まぁ、緑間さんのゲームと違って、エッチな要素は全然ありませんから」
むっ、朝日奈のヤツ、一言多いのだよ。そう言われるとオレがエロ人間みたいな気がするのだよ……。
「あ、すみません。緑間さん」
「何故夜木が謝るのだよ」
「だって、朝日奈君はオレの友達ですし」
「お前は朝日奈の女房か」
本当は、そう言ったオレの台詞でわたわたしている夜木を見たかったのだが――。
「えー、冗談きついですよー。緑間さん」
そう言って夜木は明るく笑う。ああ、この二人、本当に何もないんだな。何かあったらそれはそれで面白いのだが――。
朝日奈は、早く行きましょうと急かす。
「朝日奈君は火神先輩のファンですものね」
「はぁ、まぁ……」
夜木の台詞に朝日奈が頭を掻く。ふぅん、火神目当てか。結構趣味が悪いのだよ。
「オレ、朝日奈君とバスケの話をよくするんですよ。――で、毎回出てくるのが火神先輩。オレ達、バスケのゲーム作りたいんだけど、やはり火神先輩の存在は欠かせないよね。朝日奈君」
「当たり前だよ。火神先輩と黒子先輩は光と影なんだから」
「まぁ、それ以上の存在でもあるかもしれないけど」
「夜木――お前も朝倉さんの影響を受けたのか?」
朝日奈が少々呆れた様子で溜息を吐いた。
「うーん、結構BLって女子の間では流行ってるし――オレも『夜木君と朝日奈君てどういう関係なの?』と訊かれたことあるし」
「げぇっ!」
朝日奈が心底嫌そうな顔をした。ああ、お前は正常なのだよ、朝日奈……。オレはもう正常ではなくなってしまったのだがな……。
「まぁさ、ゲームの入っているUSB持って来たからやりましょうか」
「楽しみなのだよ」
「タイトルは『ぼくらが勇者』。緑間さんのと違って健全ですよ」
夜木のヤツ、またオレのことを引き合いに出したのだよ……。
「結構面白いんですよ。夜木のヤツ、結構ちょいちょいギャグ入れるから。夜木のヤツ、割とシャレがわかるんスよ」
朝日奈が得意そうに言った。友達が偉業を達成したような顔をして。まぁ、そうには違いないのだが。
「バスケや勉強と両立するの、大変だったんスよ」
夜木も満更でもなさそうだ。
――USBメモリを入れて、パソコンを起動させる。可愛らしい――というか、小学生の男子が喜びそうな画面だ。女の子もだけど。
登場人物は八人。体験版だということで、一人の視点しかわからない。
けれど、これがなかなか面白い。怪獣との戦闘とか、よく出来ている。――因みに、この怪獣は後に仲間になるのだ。
「ほう……ノベルゲームでこれだけやれるとは立派なのだよ」
「オレ達、RPGも作りたかったですよね。でも、ツクールはお金かかるから」
「ノベルゲームは無料の作成ソフトもあるから便利だよな」
朝日奈が夜木に言った。夜木がわかってくれた、といったように頷く。
「緑間さんはどんなソフト使ったんですか?」
「オレのは……」
――コンコンコン。ノックが鳴った。母が来たのだ。
「真太郎。おやつよ。アップルパイも焼いたから皆にもあげてね」
「わかったのだよ」
扉を開けると、林檎のいい香りが部屋中に漂う。朝日奈と夜木が目を輝かせる。
「お前ら、お茶でも飲むか?」
「いただきます」
「というか、こんないい匂いがしたら、もうアップルティーのことしか頭になくなるっスよ。――緑間さんのお母さん、ありがとうございます」
朝日奈に続いて夜木もオレの母に礼を言う。夜木というヤツが利口なのはわかるが、朝日奈もなかなか賢そうなのだよ。母が笑顔を見せながら出て行く。
「バスケは楽しいか? 二人とも」
湯気の立っているアップルティーを飲みながらオレは訊いた。
「あったりまえっスよー。火神先輩もいるっスからね。すごい人達のすごいプレイを毎日見られて、オレ、幸せっス!」
朝日奈は素直な質らしい。ま、それを言うなら夜木もなんだけれど。
良かったな。黒子に火神。頼りになる後輩が出来て。
――まぁ、朝日奈はちょっと火神に心酔しているようだけど。
「オレもバスケ部入って良かったです。――朝日奈君もいるし、黒子先輩もいるし」
夜木は黒子派か。
「火神先輩と黒子先輩のようなコンビになるのがオレ達の夢なんです!」
夜木の瞳が澄んでいる。――火神と黒子も恋人同士だと知ったら、こいつらはどう思うのだろう。だが、それを言うのはやめておいた。そのうち、わかるだろうからな。
オレにとっても、こいつらは眩しい。火神や黒子はどう感じているんだろうな。こんな憧れの目で見られて。
「あ、そうだ。ゲームの話なんですけど……バスケの要素も入ってんですよ」
夜木が説明してくれた。まだバスケのシーンには入っていないのだが。
「なるほど。――流石だな」
「後、隠しシナリオも作りたいなと思っているんですけど……」
「ほう」
オレは面白そうに笑う。それをどうとってか夜木は焦った。
「あ、でも……エッチなのはありませんからね」
「――別に期待してはいないのだよ」
「でも、緑間さんは顔に似合わずあんなシナリオ作っているから――」
夜木がカップに視線を落とした。朝日奈がぷぷっと吹き出す。こいつら――オレをどう思っているのだよ……。
オレはちょっと不愉快になって残っていたアップルティーに口をつけた。さぞかし眉間に皺が寄っているに違いないのだよ。緑間さん、怒ってるようだぜ、と朝日奈が夜木に小声で喋る。
後書き
朝夜コンビも流石だね。二人ともいい友達になって……。
まだ高一だから健全なゲーム作ったんですよ、ね?
2020.06.14
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