ローカルサイトでラブラブ18 ~ローカルゲームが熱いのだよ~

「わぁっ……!」
 夜木悠太が歓声を上げた。
「このグラフィック、すごいですね……」
「別に……素材集から拾って来ただけなのだよ……」
「素材集?」
 朝日奈大悟が首を傾げる。夜木が言葉を引き継いだ。
「パソコンにこういうのいっぱいあるんですよね! でもこれは……文章もすごい丁寧で綺麗……」
「真ちゃんが書いたんだもん」
 高尾、余計なことは言うななのだよ……。
「素材も文章も、これだけハイクオリティなのはボクも見たことがありませんでした。緑間君のゲーム作りに関する情熱はすさまじいですね」
「何事も人事を尽くして天命を待つ、なのだよ」
 黒子の台詞にオレは些か得意になってくい、とアンダーリムの眼鏡を直した。
「オレも参考にしたいな……」
 夜木のオレの見つめる目には尊敬の念が確かにあったのだよ。だけど、それは隠しシナリオを読むまでであって……。
「緑間さんて、案外ムッツリなんですね……」
 うぐっ! 年下に馬鹿にされたのだよ! それにオレだって男なのだよ! ムッツリで何が悪い! 大体男は助平でなければ子供は生まれないのだよ!
 まぁ……オレの好きなのは高尾だから、このまま行っても子供は作れないのだが……。
「本当。人は見かけに寄りませんね……」
 朝日奈のオレを見る目が冷たいような気がするのだよ。オレはそんなにムッツリか? え?
 火神達が笑いをこらえている。くそっ。
「でも、こんなゲーム、オレ、作りたいです!」
 夜木が話題を変えてくれたおかげで、オレは相当ほっとした。朝日奈が頷く。
「だな」
「んでもって、RPGも作りたいです。緑間さん、お仲間に入れてください!」
「別にいいよな。真ちゃん」
「その辺の采配はお前に任せてあるのだよ。高尾」
「あ、それからその……ちょっと疑問に思っただけですけど……緑間さんと高尾さんてデキてるとか……」
 夜木が遠慮がちに質問して来た。
「そうよ」
 さらっと言うななのだよ、朝倉ひな子! この少年愛オタク!
「緑間君と高尾君はそれはそれは熱い絆で結ばれているんだから」
「へぇー、お二人さんはそういう関係だったのですか」
 朝日奈、ますます引く。
「ねぇねぇ。私、学校で友達に朝ひなって呼ばれてるんだけど、大悟君も朝日奈なんだねー、なんか親近感持っちゃう」
 ひな子が急に話を変える。朝日奈はますます照れたようだった。
「朝日奈君、嬉しいんだー」
 高尾がニヤニヤして近付く。
「だ、だって、その……朝倉さんは美少女ですし、いい匂いもしますし――だからオレ、光栄っす」
「じゃあ、ひなちゃんが二目と見られないブスだったとしたら、朝日奈君はどう思っただろうね」
「うう……」
「高尾。そんな質問で朝日奈を困らすななのだよ」
 オレは一応止める。
「ちょっとからかっただけじゃん」
 高尾はあっさり引っ込んだが、朝日奈はまだ考えている様子だった。全く、真面目な男なのだよ……。高尾の冗談を真に受けて。
「朝日奈はいい人だから、オレ、朝倉さんがブスでも構わないと思います!」
 夜木という男も真面目なのだろうが、どこかズレているのだよ。目の寄るところへ玉も寄るとはよく言ったものなのだよ。
「ていうか、私がブスだったらということ前提で話してるの? 何か腹立つなぁ」
 ひな子がむつける。
「あ、すみません」
「すみません、朝倉さん」
 朝日奈と夜木が同時に謝った。火神と黒子は平然としている。そうでなけりゃこいつらとは付き合えない。まぁ、火神は多少笑いを噛み殺しているが。
「火神君、何笑ってるんですか、失礼ですよ」
 黒子が火神の足をつねる。高尾がいやに静かだなと思っていたら声も出せない程笑っているのだよ。
 ったく、どいつもこいつも……。
「朝日奈、夜木、こいつらの言うことはまともに受け取るななのだよ……」
「はい!」
 朝日奈と夜木が声を揃えた。初々しいな。これが一年ということか……。
 オレらが一年の時はどうだっただろうか……。
「高尾。オレらが一年の時はどうだったと思う?」
「あん? 何訊いてくれちゃってんの真ちゃん」
「いや、朝日奈や夜木を見て、オレ達が一年の時はどうだったかな、と……」
「おー、それ、オレも考えた」
 足をつねった黒子を睨みながら涙目で火神が言った。
「今とあんまり変わんなかったんでない?」
「それはお前のことなのだよ。高尾」
「そうだな。後、黒子は――」
 黒子はきょとんとしながらこっちを見ている。オレは言った。
「――あんま変わった様子見えないのだよ」
「そうか? オレは結構変わったように見えるんだけどな」
 火神が首を捻る。オレも続けてやった。
「ヤツは中学時代からあんな感じなのだよ」
「うーん、でも、頼りになるように成長したというかなんと言うか……」
「黒子先輩は頼りになります!」
 そう火神の言葉を遮ったのは夜木だった。
「黒子先輩は誠凛の大黒柱です!」
「おー、そう来たか。まぁ、さっきの話じゃないけど、人は見かけによらないって言うよね。黒子って結構熱血漢だししっかりしてるし――真ちゃんよりしっかりしているかも?」
「おう、勿論」
 高尾の言葉に火神が頷いた。ひな子も頷く。畜生……オレの味方はいないのだよ……。
「あ、そうだ。緑間君、あれ見せたら? あなたの書いた恋愛小説」
 ひな子が話に割り込んだ。黒子がぴくっと反応した。流石本好き。黒子は中学時代はオレの次に本の虫だったのだよ。
「へぇ……緑間君はそんなのも書いているのですか」
「ローカルでな。どこかにしまってあったはずだが……多分お前らが見ても楽しくないのだよ」
 オレは滾るがな。
「濡れ場もしっかり描いてあって……」
「恋人役は高尾君がモデルなんですか?」
「そうよ! 決まってるじゃない! 黒子君も鋭いわねぇ」
「オレ、緑間と高尾の絡みには興味ねぇ――つうか、男同士の恋愛に興味ねぇ」
「火神君……君にそんなこと言う資格あるんですか?」
 黒子の色素の薄い目が火神をじっと見つめているようなのだよ。――黒子の視線に抗えるのは赤司だけだ。オレは少し火神が気の毒になった。
「――おめぇは別だよ」
 火神がわしゃわしゃと黒子の頭を撫でた。
「ありがとうございます」
 ――ひな子は、涎を垂らさんばかりにデジカメで火神と黒子を撮っている。朝日奈も夜木も気の迷いから覚めたようだ。いくら美少女でも、少年愛マニアでは意味がない。そして――ひな子には多分オレ達よりいい男が彼氏だって噂なのだよ。正体はオレにもわからん。
「オレ、緑間さんの文体に惚れました。――そりゃ男同士というのはちょっと苦手っすけど……緑間さんと高尾さんだったら何とか我慢出来そうっす」
 夜木……しなくていい我慢はしなくていいのだよ。――写真を撮り終わったひな子が夜木の頭を撫でる。
「いい子ね。夜木君」
 と、言いながら。朝日奈が口を挟む。
「オレ、RPGの話したいんだけど……あのゲームに出て来たモンスター。あれ、誰描いたんですか?」
「主にひな子とオレだ」
 朝日奈はそれでオレとひな子を見直したようだった。朝日奈は特にオレのモンスターを可愛いし素晴らしいと言ってくれた。世辞を言われても何も出ない――と思いつつも、朝日奈の評を嬉しく思うオレがいた。他のヤツらは散々に言ってくれたからな……。

後書き
緑間クンの文章に感銘する夜木クン。 朝日奈クンは緑間クンのモンスターに惚れたようです(笑)。
2020.05.31

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