ローカルサイトでラブラブ17 ~神ゲーと呼ばれたのだよ~

 アメリカのJabberwockというチームを倒した後、俺達にはまた普段通りの生活が戻って来たのだよ。
 いや、違うな。
 勉強とバスケはオレ達の本分だ。それはわかる。
 ――だが、オレはその他に夢中になるものを見つけてしまったのだよ。
 それが……ローカルサイトでのゲーム作り。
 あまり威張れたことではない。勉強やバスケに時間を取られるのは当たり前のことだ。しかし、その合間に、ゲームを作成する。
 ――人生間違えているのではないかと思う。
 オレ達はRPGの続編を作った。今度はバスケの要素も取り入れた――と思う。しかし、その調整をやったのは主に高尾で……。
 悔しいが認める。高尾はやはりハイスペックなのだよ。
 ――その日、オレは居間にいた。
 電話が鳴った。母が出る。1オクターヴ高い声。
「はい、緑間でございます」
 いくらかのやり取りがあって、母が訊いた。
「真太郎。朝日奈大悟くんという人から電話」
「――ひな子?」
「ううん。名前は似てるけど別の方。男の子よ」
 だよな……大悟って言うからには男なのだよ。オレは電話を受け取った。
「もしもし――」
「……あ、あなたがあのバスケRPG作った人ですか?」
 ああ、小金井さん辺りが喋ったのだな。内緒にしてくれと一応言っておいたのだが。今更言っても仕様がないけど、約束は守ってもらいたかった。
「はい。高尾や黒子達と一緒に――」
「あ……あなたが神か……!」
「はい?!」
 オーバーなのだよ。オレは人事を尽くしているだけなのだよ。本当はただの人間なのだよ。――そういえば、日向さんも『お前が神かー!』と高尾に抱き着いていたが。……あの時はちょっと嫉妬してしまったのだよ。
「あのゲーム、すっげぇ神ゲーっス」
「神ゲー?」
「傑作です! 夜木や降旗先輩達ともすっげーって騒ぎました。あ、夜木というのは同じ誠凛高校の一年なんスけど。オレも夜木もバスケ部っす」
 ふぅん、誠凛の生徒か。
「夜木のヤツ、これを超えるゲーム作りたいなぁ、と言ってました。だいぶ難しそうだけど」
「オレも高尾や黒子達がいなかったら作らなかったのだよ」
「黒子先輩も一枚噛んでるんスね。黒子先輩が機械に強いことは知らなかったですけど」
「黒子はシナリオ担当だったのだよ」
「黒子先輩も神だったのか……!」
 朝日奈というヤツは感極まって言葉が出ないようだった。
「グラも超上手いしシナリオは笑って泣けるしBGMは聞いてて気持ちいいし戦闘はバランス良く調整されてて、これがフリーかと思えるほどの出来っす!」
「は、はぁ……」
 畳みかけられて、嬉しいとか照れるとかいうより、圧倒される……。
「オレ、バスケの合間にはゲームやってるけど、こんな神ゲーにはお目にかかったことありません!」
「はぁ……」
「小金井先輩には秘密にしとけって言われたけど、勿体ないですよ、こんなゲームを埋もれさせておくなんて。配布とかしないんですか?」
「配布……?」
「ああ。サイトとか作らないんですか?」
「悪いが、それ以上ゲーム作りに時間を割くわけにはいかないのだよ」
「何でですか――と言いたいとこですけど、オレにもバスケがあるんですよね。でも、このまま放っておく訳には行かないと思って。あ、そうそう。夜木もゲーム作ってるみたいですよ」
「へぇ……」
「今度遊びに行ってもいいですか?」
「いいけど、我が家の場所は知らないだろう」
「黒子先輩に案内してもらいます。黒子先輩ってすごいですよね。火神先輩もだけど。オレ、黒子先輩のこと、ちょっと馬鹿にしてたけど、考え改めました」
「そうか――それは良かったな」
 良かったな。黒子。
 黒子に会ったヤツ、最初は大抵あいつを馬鹿にする。影が異様に薄いし、シュートもドリブルも下手だし。けれど、黒子の凄さはあの変幻自在のパスなのだよ。
 それに、この頃、黒子もシュートやドリブルが上手くなっている。
 ――負けていられない。
 けれど、ゲームを作る時は黒子も火神も仲間だ。高尾がいるから、和気藹々とした雰囲気で話せる。高尾がいなかったらどうなるかわからない。
 高尾の役割は案外大きいのかもしれないな。
「今では黒子先輩も尊敬する先輩っす。火神先輩といいコンビっす」
 いいコンビね……。
 その尊敬する二人が出来てたとしたら、この哀れな後輩は卒倒するかもしれんな……。まぁ、黙っておくのだよ。
「朝日奈――と呼んでいいか?」
「はい」
「誠凛は楽しいか?」
「はい! 毎日とても充実してます」
「それは良かった。誠凛はウィンター・カップでオレらを降した学校だからな!」
「はい! ――あ、そうそう。夜木も連れて行っていいですか?」
「構わんが?」
「そうですか! ありがとうございます! ――あの、いつ頃なら訪ねて行ってもいいですか?」
「そうだな……高尾も来たがるだろうし、おいおい相談しよう」
「あざっす! 宜しくお願いします!」
「ところで質問なんだが、オレの家の電話番号はどこで知った?」
「あ、黒子先輩から聞いたっす。ゲームのことについて話を聞いてみたいと言ったら、親切に教えてくれました!」
 朝日奈は犬ころみたいだな。なかなか素直な男みたいだし、オレも黒子の人の見る目は信じているのだよ。黒子の趣味は人間観察だからな。
 黒子も朝日奈を可愛がっているのだろう。オレも朝日奈が好きになった。
「わかった。携帯番号を教えるのだよ」
 オレは携帯――いや、スマホの番号を教えた。朝日奈のも教えてもらって、またいつか連絡する旨を話した。――そして、オレはその後、高尾に電話した。
「へぇー、神ゲーとまで呼ばれるなんて、オレ達やるじゃん!」
 高尾も嬉しさが隠せなかったようだった。
 高尾やひな子と相談して、オレは朝日奈達を迎え入れた。
 朝日奈は意外と大男だった。まぁ、バスケをやる分には有利だろうか。黒子と火神、そして、見慣れない少年がいた。少年は夜木悠太と言った。あまり逞しくなさそうだが、芯が強そうなところは黒子に共通しているなと思った。
 二人ともインターハイで姿を見かけたことがあるなと思ったが名前までは知らなかった。というか、覚えていなかった。
「お邪魔しまーす」
 朝日奈と夜木はきょろきょろしている。朝日奈が言った。
「緑間さん家って広いんですね」
 そうだろうか。まぁ、確かに平均よりは広いとは思うが……。
「ひなちゃーん、お客さん来たよー」
 高尾が呼ぶと、ひな子がぱたぱたと足音を響かせて現れた。
「こんにちはー、朝日奈君に夜木君。どっちが朝日奈くん?」
 ――だめだ。朝日奈、ひな子を見てぼーっとしている。夜木が突っついてはっと我に返るようなていたらくだ。ひな子の本性も知らないで――。黙っていればひな子は可愛い美少女なのだがな。
「お、オレが朝日奈です」
 朝日奈が答えた。頬がほんのりと赤くなっているのは気のせいだろうか。
「来て。朝日奈君に夜木君。――お久しぶりね。黒子君に火神君」
「どうも」
「ちわっす」
「私、朝倉ひな子。宜しくね」
 ひな子に邪心はないのだろう。だが、それが純情な男の心を掴んでしまう。名前、似てますね――それだけ言って後は朝日奈は黙ってしまった。
「こんにちは。緑間さん、高尾さん、朝倉さん」
 夜木の方がよっぽどしっかりしている。
「オレもゲームを作っているんですが、緑間さんや高尾さん達が作ったような神ゲーには初めて会いました。もう、心が躍りました」
 オレの部屋で夜木は高尾とゲーム談議を始めた。朝日奈も時々混じる。けれど、落ち着かない様子であった。黒子が小声で朝日奈に「大丈夫ですよ」と囁くのが聴こえた。
「あ、夜木クン、真ちゃんの作ったノベルゲームやる?」
 高尾! それは自信作だが同時にオレの黒歴史なのだよ! 夜木が目を輝かせて頷いている。ああ、もう! 高尾め後で覚えてろ……!

後書き
私も神ゲー作ってみたい。
プレイするより、作ってみる方に興味があります。
朝日奈クンと夜木クンが真ちゃんの家に来てどうなることやら。
2020.05.19

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