ローカルサイトでラブラブ16 ~みんなでRPGで遊ぶのだよ~

「真太郎ー、お客様よー」
 母が呼んでいる。どうせ青峰と黄瀬だろう。
「勝手にあがって来るよう言うのだよ」
「女の子もいるわよ。真太郎も隅に置けないわね」
 そう言って母が微笑む。女の子――もしかして。
「おい、そいつはピンク色の髪をしていなかったか?」
「まぁ、女の子に向かってそいつなんて――ええ、確かに綺麗なピンク色をしていたわ」
 俺は頭痛になりそうな気がして来た。誰かなんてすぐわかる。――桃井さつきなのだよ。
「あがってもらっていいわね」
「――どうぞ」
 多少捨て鉢になりながら俺は母に答えた。そういえば、桃井が俺の部屋に来るのは初めてなのだよ。
「こんにちはー、ミドリン。あ、リコさんもいるんですね」
 桃井、ミドリンは止せと言ってるだろう……。桃井はリコに一方的な友情、というかシンパシーを覚えているらしい。――だが、リコも、「はぁい」なんて喜んで手を振っている。
「よーっス」
「約束通り来たっスよ、緑間っち」
「青峰、黄瀬……お前ら――勉強は大丈夫なのか?」
「多分大丈夫っス」
 黄瀬が親指を立てて笑った。青峰は他人事のようにこう言う。
「ま、何とかなるだろ」
『多分大丈夫』に『何とかなる』――か。他人事ながらこいつらの将来が心配なのだよ。まぁ、こういった奴ら程本当に何とかなるので憤懣やるかたないが。
 お邪魔しまっすと、火神も入って来る。オレの部屋は広めだとは思うが、ちょっといつもより窮屈になってきたのだよ。大男も何人かいるからな。
「俺達、ストリートコートで練習してたんだよね。そしたら青峰と黄瀬が来て――そのちょっと後で桃井サンとも会って」
 高尾が説明する。青峰が遮った。
「それより、ゲームやらせろよ」
「へいへい。いいよね。真ちゃん」
「こうなっては仕方ないのだよ――」
 俺は溜息と共に言った。
「あー、青峰。この戦闘が終わったら代わるから」
 日向が言った。――日向は誠凛のバスケ部主将だ。なかなかのシューターでもある。まぁ、このオレには敵わないけれど。
(だって、おめーのチートさ、化け物だもん)
 いつだったか高尾がオレを評してこう言っていた。一応褒め言葉と受け取っておくのだよ。
「早くしろよ――つか、かっこいいな」
「ひなちゃんがデザインしたモンスターだよ」
「早くしろよ。日向」
「くっ、青峰め……俺は一応年上だというのにタメ口などと……」
「日向サン 、怒っちゃダメっス。青峰っちはこういう人なんス」
 黄瀬がフォローに回る。――日向には『~っち』使わないのだな。尊敬してない訳ではないと思うが。
「それにしても、BGMもしゃれてるっスね」
「ああ、それはオレが作曲したのだよ」
「ええっ?! 緑間っちが?! ――そりゃ、ピアノ弾けることは知ってたっスけどねぇ……」
 黄瀬が目を丸くして驚いている。正直悪い気はしないのだよ。まぁ、高尾に褒められた方が嬉しいけど――って、何を考えているのだよ。オレは。
 でも、高尾のコミュニケーション能力は天性のものだからな……。
「ね。真ちゃん上手いでしょう。バスケ以外でも潰しきくよ。例えばバーの弾き語りとか」
 オレは、静かで人気のないところで弾き語りをしている自分を思い浮かべた。うん、なかなかなのだよ。
「ほい、青峰」
「あ、どもっス」
 日向と青峰が交代したらしい。今度は青峰も敬語らしき台詞を言う。
「ごめんね。日向さん。青峰君が」
「いやいや。いいですよ。桃井サン」
「全く、日向君ったらデレデレして」
 リコは桃井に対する日向の態度が気にくわなかったらしい。まぁ、いいではないか。リコも充分可愛いのだよ。――口には出さないけれどな。
 ――それから数分。青峰が言った。
「――緑間」
「何なのだよ」
「これ、本当にお前らが作ったのか? ゲーム作ってる会社とかじゃねぇのか?」
「信じられないのも無理はないけどね。オレ達が作ったんだよ」
 高尾が得意そうに胸を張る。
「――高尾の言う通りなのだよ」
「お前ら、バスケ辞めても食ってけるな」
 青峰からは最大級の賛辞を贈られた。バスケを辞める気はないけどな。
「それはどうも――なのだよ」
「あ、ちょっと黙ってろよ。今、大事なとこなんだ」
 青峰が言ったのでオレ達は黙った。――台詞を読みながら皆が息を飲んでいるのがわかる。小金井がまた感動の涙を流した。
 オレも――展開は知ってるけど、思わず涙を流しそうになったのだよ。
「誰? 何? この台詞書いたの」
「オレっス」
 ――高尾が手を挙げた。
「お前が神かー!」
 日向が高尾を抱き締めた。オレはちょっとむっとした。それはオレの役割なのだよ。日向はすぐに「悪い」と言って高尾から離れてくれたが。
「こんな感動大作見たことないっス。――赤司っちと紫原っちにも教えてあげるっス」
 と、黄瀬。オレ達キセキは黒子の誕生日に会って以来、多少距離が縮まりつつある。あくまで多少、だが。
 けれど、感動出来たのなら良かった。
「火神君も協力してくれたんですよ」
 黒子が言う。青峰が軽く鼻を啜った。
「そっか――火神もか。ただのバスケ馬鹿じゃなかったんだな」
「つか、火神も制作スタッフだってこと、高尾っちから聞いたじゃないっスか」
 黄瀬が言った。まぁ、オレらが巻き込んだんだけど――と、ちょっと済まなそうに高尾。いいんじゃないか? 火神達もノリノリだったのだから。
「ボク達も興味がありましたし」
「物語の骨子は黒子が作ったのだよ」
 オレが言うと――
「流石っスね! 黒子っち!」
 と、黄瀬が黒子を尊敬のまなざしで見つめていた。
「――いいえ。皆で考えましたし」
 黒子はいつでも謙虚なのだよ。異様な程に影も薄いし――それは関係ないか。
「テツくーん。こんな素敵なお話書けるなんて惚れ直しちゃうー!」
 桃井が黒子に抱き着く。オレは黄瀬が言うまで、桃井が黒子を好きなことを知らなくて黄瀬にサル呼ばわりされたのだよ。――あ、嫌なこと思い出したのだよ。
 リコがごほんと咳払いをする。
「そういうことはよそでやりなさい。――桃井さん」
「……はぁい」
 桃井もリコの言うこときくのだな。ゲームで遊んでいる青峰と、画面を眺めている高尾以外の男性陣の目がこう言っているような気がしたのだよ。
『いいなぁ、黒子、死ねばいい』
 そこへ、母がやって来た。――グッジョブなのだよ。母さん!
「おやつ、持って来たわよ」
「ありがとうございます」
 一同はおやつに気を取られた。
「でも、すごいなぁ。黒子達って。こんなすごいゲーム作るなんて」
 土田さんが手放しで褒めてくれる。部活の先輩に褒められて、黒子も満更でもないらしく照れ笑いを見せた。幸せそうなのだよ。伊月も隣で微笑んでいる。この男もミステリアスなのだよ。そんな伊月も実はダジャレ好きだというから。人というのはわからない。
「水戸部がさ、続編もあるのかって訊いてる」
 水戸部が小金井の通訳に二度程頷いた。小金井はどうやって水戸部の言いたいことを察しているのであろう。これも、謎と言えば謎である。
 続編か……考えたこともなかったが、検討してみようか。勿論、バスケが第一だけど。

後書き
私もゲームで感動の涙流してみたい!
……まぁ、ゲーム自体から離れてるんですがね。今の私は。
出戻ってもいいかと思いますが、創作活動の方が楽しいんで。
2020.05.05

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