ローカルサイトでラブラブ14 ~RPGが完成したのだよ~

「こんにちはー。真太郎さん!」
「夏実!」
 玄関で高尾和成の妹、夏実が歓迎してくれる。
「なっちゃんもいたんだ。あ、こいつらオレの友達ね。左から順に――」
「黒子テツヤです」
「火神大我だ」
「朝倉ひな子よ」
「高尾夏実です。兄がお世話になっております」
 夏実がぴょこんとお辞儀をする。
「もういいだろ。ささ、上がって上がって」
 高尾が先導する。靴を脱いで揃えるまで待って欲しい。
「オレ達、部屋にいるから」
「そうなの。後でお菓子持っていくね。お兄ちゃん」
「なっちゃんの手作り?」
「――違うけど」
 夏実の作るお菓子は旨い。料理も上手らしい。将来いいお嫁さんになるのだよ。
「もっと早く連絡してくれれば用意出来たんだけどなー」
「ごめんねー」
 流石の高尾も妹に関しては形無しだ。オレはつい眺めてほんわかとしてしまう。これが所謂一般家庭か。
 火神の家は独り暮らしにしては広過ぎると黒子は言っていたし、黒子の家に関しては存在すら謎だ。ひな子の家には行ったことがない。オレの家はお世辞にも普通とは言えないし……。
 だから、俺の考える『普通の家』のモデルケースが高尾家になってしまうのも無理はないであろう。
「勉強会なの?」
「ううん。ローカルでRPG作ったからそれで遊ぼうと思って」
「勉強もやるのだよ。高尾」
 オレはきっちり釘を刺した。
 オレ達は勉強を終えてからゲームをプレイしてみることにした。火神も今回はそんなに勉学に関して苦戦しなかったようだ。黒子のサポートもあったおかげだろう。それに、この間オレがみっちりしごいてやったからな。
 高尾が持って来たUSBメモリを差し込むとRPGのプレイ画面がパソコンに映り音楽が流れる。題名は『バスケ部と愉快な仲間達』なのだよ。高尾が軽いノリで決めたのだよ。
 内容はまずオレ達が異世界に飛ばされるという、オーソドックスな流れから始まるのだよ。
 勇者が黒子、火神は戦士、高尾が魔法使い、そしてオレが僧侶なのだよ。
 属性もそれぞれ違っていて、黒子は闇(勇者の属性が闇なのはどうかと思うのだが)、火神が火と光の混合、高尾が雷、オレは緑と風と土なのだよ。
 このパーティー以外にも話によって意外な人間が主人公になったりするのだよ。
 顔グラはひな子が描いた。ひな子もゲームに登場する。
「かっこいいな~、このオレ」
 高尾がしまりのない声を出す。だらしがない。
 オレのはまぁまぁなのだよ。黒子と火神は実物よりハンサムだとは思うが。
 必殺技名は『炎樹』だの、『銀色の雨』だのと、高尾が主に考えたらしい。いいけれど、どうして技名がこんなに凝っているのにタイトルはああなのだよ。高尾によれば、『これは仮の名前で後から正式に付ける』と言うことらしいが。
 アイテム名も凝っている。高尾が『緑間特製コロコロ鉛筆』と言うのをアイテムに加えた。装備すると頭が良くなるらしい。火神辺りにぴったりのアイテムではないか。
 エンカウント率はランダムだ。バトルバランスについてはかなり拘っている。バトルもRPGの重要な要素だからだ。属性についても力を入れてみた。
 しかし、これを火神があらかた作ったという事実に驚く。数学の計算はてんで出来ないくせに。
 トントントン。扉が鳴る。夏実だろう。
「おやつ持って来たわよー」
 可愛らしい明るい声が聴こえる。高尾がいなかったら、オレは夏実に惚れていたことだろう。閑話休題。
「済みません」
「どうもありがとう」
「ありがとうね、夏実ちゃん」
「ご苦労様だったのだよ」
 お礼を言われて夏実は照れているようだ。因みにレモンティーなのだよ。
「今クッキーも運んでくるから待ってて」
「気を使わなくていいのに」
「そうそう。なっちゃんもこっちに来ない?」
「誘ってくれるの? ありがとう」
「なっちゃんもゲームに出てくるからね」
「ほんと?! すごい!」
「真ちゃんと黒子のシナリオが良く出来てるから。オレは監修。桃井姫が黒子と火神の為に身を引いたシーンは泣けたな。明るく振る舞って物陰で泣く辺り」
「緑間君が偽の高尾君に騙されて疑心暗鬼になっているところで、高尾君が緑間君と彼にしかわからない合言葉を言って本物だとわかる場面は感動的でした」
「ああ、そこ? いいよねぇ。真ちゃんが考えたエピソードなんだけど」
「面白そう! やりたい!」
「じゃあやるか? 夏実」
「うん!」
 夏実が目を輝かせて頷く。オレ達は製作者サイドだから、この先の展開が既にわかっているから、初めてこのゲームをプレイする夏実が羨ましかった。
 パソコンに座って操作をする夏実。だが、程なくして疑問が出て来たらしい。
「何でこのゲームの私、お兄ちゃんのこと『カズ兄』って呼んでるの?」
「可愛いから!」
 高尾のヤツが即座に答えた。
「高尾君は妹萌え属性なのね。まぁ、気持ちもわからないでもないけど」
 ひな子が訳のわからないことを言う。ただ、夏実を可愛く思っていることはわかった。確かに夏実は可愛い。オレの妹、春菜が惹かれる訳だ。
『カズ兄、頑張って!』
 この一言で瀕死の高尾が立ち上がる。高尾、オマエはこのゲームで何がしたかったのだよ。――因みにこのシーンは高尾が勝手に書き加えたのだよ。それに、この女の子はかなり幼い。高尾の奴、ロリコンの気でもあるのかな。
「なぁ、高尾ってシスコ――」
「しっ。それ以上は言わない方がいいですよ。火神君。緑間君に呪われますから」
 何で高尾のことでオレが火神を呪わなければならないのだよ。――ま、相棒をけなされたら面白くはないがな。
「そうだよーん。オレにはこの緑間大魔王がついてるんだもーん」
 高尾がオレにしなだれかかる。し、心臓に悪いのだよ……。
「お兄ちゃん達仲いいね。良かった」
 一度ゲームを中断した夏実が嬉しそうに言う。うう、汚れない瞳が眩しいのだよ……。オレも高尾共々反省した方がいいと思った。
「これ、どのぐらいかけて作ったの?」
 夏実が兄の和成に訊く。
「そうだな――なんだかんだで一ヶ月くらいかかったかな。真ちゃんが勉強とかに拘らなければもっと早く出来たんだけど」
「学習は生徒の本分なのだよ。それにオレ達にはバスケがあるのだよ」
「まぁ、私と高尾君と緑間君は成績いいから問題ないけど」
 ひな子に向かって高尾が『イェーイ』とブイサインしながら体を揺らしている。
「黒子君は普通みたいね。で――」
 ひな子は火神に向かって冷たい目を向ける。
「火神君はどうしようもないわね」
「テストの時にもオレ特製のコロコロ鉛筆に頼っていたようだしな」
 オレが追い打ちをかけてやる。
「――黒子、オマエ……」
「ええ、喋りました」
「オレはなぁ、緑間だけには頼りたかなかったんだよ!」
「でも、結局あの鉛筆使ったでしょう」
「う……それはまぁ……」
 火神は黒子に反論出来ないようだった。オレは眼鏡のブリッジを直しながら言ってやった。
「ゲームではアクセサリでコロコロ鉛筆を装備することも出来るのだよ。せいぜいそれつけて頑張るのだよ」
「うう、緑間なんかに馬鹿にされるなんて……でも、事実だから反論できねぇ……カントクもバスケは馬鹿じゃ出来ないって言ってたしな……」
 ほう。リコ、なかなかいいこと言うではないか。流石去年WCで誠凛を優勝に導いた名カントクなのだよ。まぁ、今年は俺らも負けないがな。
「お兄ちゃん。隠し扉とかある? 罠とか、プレミア物のお宝とか」
「そういうのは自分で探し給え、妹ちゃん」
 高尾がつん、と夏実の額を押す。実は……俺もああいうのに憧れるのだよ。うちの春菜はやってくれないし、オレの方がやって欲しくないからな。全く、上手くいかないものなのだよ。
 ――でも、ゲームの完成度自体は高い。BGMも最高だった。オレが作曲したからだ。
 他の人間には勝手に配布しないと皆で決めたけれどそれが少し残念に思う。オレ達はこのゲームをそれぞれ自分のUSBメモリに落とした。

 勉強も終わってオレ達はキャラデザにそれぞれ夢中になる。火神も結構絵は上手かった。キャラデザや設定は確かに楽しい。つい皆黙ってしまう程。
 頭の中にあるうちは全ての作品が名作かもしれないが、これはオレ達だけのゲームだ。オレ達にとって名作ならばそれでいい――その他の誰にもプレイさせないのだよ。オレはローカルゲームの楽しさを覚えてしまったのだよ。

後書き
なっちゃんは高尾クンの妹として登場させたのですが、なかなかいい娘です。
ゲームが完成したようで。おめでとう!
2020.04.03

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