ローカルサイトでラブラブ13 ~もっとRPGを作るのだよ~

「ご飯よー」
 ひな子がオレの部屋に呼びに来た。
「あー! ひなちゃーん!」
 高尾がひな子に飛びつく。――あれは女子がするスキンシップと同じなのだよ。だから、気にする必要など全然ないのだよ――。
 オレが心の中で唱えていると――。
「あ、ひなちゃん、シナリオ出来たよ」
 高尾がひな子の肩に手を置く。
「それはおめでとう。じゃ、私はキャラデザに専念出来る訳ね。――それで、緑間君はどうして怖い顔をしているの?」
「ほっとくのだよ」
 まさかひな子に対して妬いていたとは死んでも言えない。
「あ、高尾君が私にハグしたから面白くないんだ」
 ――すぐバレた。
「そうなんでしょー、緑間君」
「煩いのだよ。……夕食が出来たならさっさと行くのだよ」
 夕食は旨かった。
「私とウメさんとひな子ちゃんで作ったのよ」
 母が何故か得意げに胸を張る。道理でいつもより豪華だったはずなのだよ。
「オレ達、もう帰る……です」
「あら、いいじゃない。もっといてくれても。それとも、火神君の家はここから遠いの?」
「ええ、まぁ……それもあるけど……」
「じゃあ、皆泊まっていけばいいじゃない」
「オレも泊まっていいんですか?」
 高尾の声が弾んでいる。
「勿論よ。黒子君はどう?」
「僕も――お泊りセット持って来てますので」
 意外にちゃっかりしているのだよ。黒子。
「私も泊まっていいですか?」
 ひな子。嫁入り前の娘が男の家に泊まるななのだよ。――オレがそう言おうとした時。
「勿論、ひな子ちゃんなら大歓迎よ! 一応真太郎とは別の部屋を用意するから」
「あ、オレらは真ちゃんの部屋で雑魚寝します」
 ――高尾と二人きりになれないのは残念だな。……何考えているのだよ。オレは。
「じゃあ、今から勉強見てやるのだよ。特に火神。オマエ成績悪いだろ」
「オレら、ゲーム作りに来たんじゃねぇの?」
「緑間君、よく火神君が勉強苦手ってわかりましたね」
「そんな感じがするのだよ。勉強よりバスケを優先とか」
「う……何で読まれてんだよ。黒子が教えたのか? でなかったらこえぇな、緑間」
「ふん。お前のような筋肉馬鹿は勉強が苦手と相場が決まっているのだよ。青峰も勉強が苦手だったしな。さぁ、ビシビシ行くのだよ!」
「げええええええええ!」

「――おはよ」
 高尾が声をかけた。
「――緑間……てめぇは鬼だ……カントクにも負けてねぇ……」
「お前の理解力が悪いだけなのだよ」
「まぁまぁ。これ見て元気出して」
「おおお、すげぇ。これ、ドラゴンだな」
「RPGにドラゴンは必須! かわいいっしょ、これ。それともかっこいいのもいいかな。ひなちゃんと考えたんだけど。この可愛いのがオレが描いたのね。かっこいいのがひなちゃんの描いた方」
「――おお! テンション上がって来たぜ」
「仕方ない。火神もよく頑張った。ゲーム作りに戻っていいのだよ」
「マジか?! やった!」
「火神君、バスケの他に好きなもの出来たんですね。良かったです」
 黒子が嬉しそうに微笑んでいる。
「あ、オレ、ランニングしてからゲーム作りに参加しまっす」
「僕もお供します」
「オレも行くのだよ。朝走るのは気持ちいいのだよ。――高尾、オマエも来ないか?」
「仰せのままに」
「じゃ、私、異世界のキャラとかモンスターとかモブキャラのデザイン描いてるから」
「ひな子は来ないのか? ダイエットになるぞ」
 オレは一応ひな子にも声をかける。ひな子はこう宣った。
「私、動かなくても太らない質なの。運動は人並みにするけど」
 そして、ひらひらと手を振った。

 ランニングが終わった後――オレ達はそれぞれ無言で作業を続ける。オレはさらさらと……でもないが、モンスターの絵を描いてみる。それを高尾に見せる。
「うおおお! 真ちゃんのモンスターかわええ! 倒したくない!」
「何を言ってるのだよ。高尾。モンスターとは戦わなければ意味がないのだよ。経験値も金ももらえないのだよ」
「うーん、だけど、可愛いんだもんな」
「高尾君の贔屓の引き倒しじゃないんですか?」
「そうじゃねぇって。黒子。オマエも見てみろよ。火神も」
「どれどれ。――わぁ、愛嬌がありますね。高尾君の気持ちがわかりました」
「やるじゃん。緑間。――モンスターも仲間に出来るシナリオに出来ねぇの?」
「出来ると思います。それにしてもますますドラクエじみて来ましたね。――朝倉サンも何か描いてたようですが?」
 黒子がひな子の方を見る。ひな子は柄にもなくもじもじしている。
「えー? 緑間君の可愛らしいモンスターの後じゃ恥ずかしいよぉ」
 何言ってるのだよ。絵なんかオレより上手いくせに。しかし、オレも悪い気はしなかった。
 ひな子の描いたのは鉛筆で描いたラフ画で、完成度はオレなんか足元にも及ばないのだよ。かっこいいモンスターがいっぱいいる。気持ち悪い奴もいるけど。
「すっげぇ、かっけぇ!」
 火神が感心している。
「そうですね。緑間君とはまた違って正統派のモンスターという感じがしますね」
「――オレも正統派のモンスターとやらを作ってみるのだよ」
「あー、緑間君、無理はしないでください。せっかくの君の特質が壊れてしまいますから」
「どう言う意味なのだよ、黒子」
「ヘタウマってことじゃね?」
 高尾が言った。なるほどそうか。絵は上手ければいいとは限らないということだな。
「またやる気になったのだよ。それよりもまずは勉強なのだよ」
「それよりさ、キャラチップはどうするの? マップとかは?」
「高尾、お前が作れ」
「ひなちゃんも作れそうだけど」
「勿論、腕が鳴るわぁ~」
 ひな子も張り切っている。良いゲームが出来そうだ。しかし、学生はまずは勉強が本分なのだよ。
「火神君。終わったらゲーム作りましょう。終わったら好きなことしていいんですから」
「ううう。くそっ!」
 黒子の正論に火神が毒づく。こいつらはいつもこうなのか?
「私も教えてあげるから、ね」
「まぁ、確かにひなちゃんは教えるの上手だよ」
「ウチのカントクも教えるのは上手ですよ」
 高尾の台詞に黒子も口を差し挟む。
「そうだけど……あれは地獄だった……」
 火神が頭を抱える。思い出してはいけないことを思い出したらしい。

 勉強も終わってオレ達はキャラデザにそれぞれ夢中になる。火神も結構絵は上手かった。キャラデザや設定は確かに楽しい。つい皆黙ってしまう程。
 頭の中にあるうちは全ての作品が名作かもしれないが、これはオレ達だけのゲームだ。オレ達にとって名作ならばそれでいい――その他の誰にもプレイさせないのだよ。オレはローカルゲームの楽しさを覚えてしまったのだよ。

後書き
キャラデザをする高尾クン達。
火神クンは、勉強では緑間クンにもだいぶしごかれたようで……(笑)。
2020.03.16

BACK/HOME