ローカルサイトでラブラブ12 ~またまたRPGを作るのだよ~

 ひな子はオレの後ろで何やらごそごそとやっている。スケッチブックに絵を描いているようだ。
「何描いてんの、ひなちゃん。見せて?」
 高尾が覗き込もうとする。
「うん――出来た」
 それは勇者の姿をした黒子だった。
「わっ、これは……」
「かっこいいじゃねぇか。本人よりいい男だぜ……」
 黒子と火神は息を飲む。そうだろうそうだろう。ひな子は絵が上手いのだ。この女は何でも出来る。成績も優秀だしな。
 ――え? どうしてオレが得意げになるんだって? それは、ひな子もオレの友達だからだ。まぁ、オレの本命は高尾だが。このことは高尾には言うなよ。
「さっすがひなちゃん! コミケのスケブで鍛えた腕は伊達ではないね!」
「しーっ! 高尾君、コミケに行ってることは学校とかでは内緒なんだから――緑間君はまぁ、口止めしなくても大丈夫そうだけど」
 どういう意味なのだよ、ひな子。ついでに言うと、緑間というのはオレの名前だ。本名、緑間真太郎。
 コミケなどに行くのは特に校則で禁じられている訳ではない。だから、ひな子がそんなこと気にしているとは少々意外だった。
「コミケ行ってどこが悪いのさ」
 オレもそう思う。例えひな子が売っているのが破廉恥な男同士の物語だとしても。
「あのー……」
 黒子が口を出す。影が薄いからすっかり忘れていたのだよ。
「これ、もらってもいいですか?」
「えー? でも、これただのラフ画よ。もっとちゃんとしたのあげるから。ペン入れして色もつけて」
「はい。でも、これ気に入りましたから」
「ありがとう!」
 ひな子はがしっと黒子の手を握った。確かに、ラフ画であってもこれなら売ったら買う者が出てくるだろうな、という出来であった。高尾も絵が上手い。オレは――訊かないでくれ。
「黒子君にはもっといい絵をあげるからね」
「あのさ、朝倉サン――だっけ?」
 朝倉とはひな子の名字である。それにしても火神のヤツ、ひな子だけ『さん』づけか。
「何? 火神君」
「オレも――描いてもらっていいかな」
「勿論! 戦士姿の火神君描くわね!」
 ひな子は生き生きしている。ひな子は流石にゲームにも詳しい。あっと言う間に戦士姿の火神の絵が出来上がった。
「これがオレかぁ。――すげぇな。後で額に入れて飾っとこ。朝倉サンってすごい特技持ってんスね」
「もう――褒め過ぎだよぉ。それに、朝倉でいいってばぁ」
 ひな子が火神の肩を揺さぶる。
「ひなちゃん、いずれ大物になるよ。今でも大物だけど。火神も黒子もラッキーだったね」
「はい」
「そうだな」
 自慢するように言う高尾に、黒子と火神が同意した。クラスメートが褒められるのは高尾にとっても嬉しいらしい。
「あ、そうだ。ひなちゃん、シナリオ書くのに参加しない?」
「いいの?」
「高尾。俺や黒子もシナリオを作るのだよ。ひな子まで加わったら船頭多くして船山に登るということにもなりかねないのだよ」
「そっかぁ、残念」
「いいじゃんかよぉ、ひなちゃんの作る話面白いんだし」
「高尾君、いいのよ」
「――ひな子にばかり頼っていてはひな子が大変なのだよ」
 オレのこの台詞を聞いて高尾がにやりと笑った。
「何だぁ。ただのツンデレかぁ。なぁ、黒子。真ちゃんてほんとツンデレだよね」
「――はい、ボクもそう思います」
「ぶふっ!」
 黒子の隣で火神が笑いを堪えている。何で笑ってるのだよ。火神のヤツ――。
「ありがとう、緑間君」と、ひな子がオレに礼を言う。

 火神は高尾と膝を付き合わせてゲームバランスについて語り合っている。
「高尾はともかく――火神にゲームバランス任せて大丈夫なのか?」
「大丈夫です。火神君は学校の勉強は出来ませんが、バスケとゲームに関してはなかなかの物です」
 ――黒子、最初の方でさりげなくディスっているのだよ。
「ねぇ、真ちゃん。ひなちゃんは?」
 高尾が顔を上げる。
「母を手伝っているのだよ。『家事手伝いは女の仕事だから』って」
「オレも手伝おうかと思ったんだけどな。雑談しながらやるから平気だって」
 と、火神。そして続けた。
「いい子だよな。朝倉って」
「え? 何々? 火神、ひなちゃんに惚れちゃった? でも、あの子彼氏いるんだよ」
「――わかってるよ。あんな美少女に彼氏いねぇ方がおかしいもんな」
 じゃあ、桃井は変なのか? ――変だろうな。今でも決まった相手いなくて黒子一筋。青峰とは夫婦みたいな関係だったけどな。
 ひな子の彼氏は新聞部の部長だと言う噂がある。新聞部の部長は話がわかる先輩で、なかなかハンサムなのだよ。
「なぁ、高尾。ゲームにはバスケの要素取り入れた方がいいんじゃねぇか?」
「バスケRPGか。新しいね」
 火神と高尾は何だかんだ言って気が合っているようだ。尤も、高尾は誰とでも話を合わせることが出来る。人間関係が器用過ぎてかえっていまいち信用出来ない、と言うヤツらもいるが高尾は本当にいい男だ。
 オレは交流はいまいち苦手な方だが、それがオレなのだから仕方がない。高尾のコミュニケーション能力を羨んだって仕方がない。
 黒子はシナリオを描いて来た。大学ノート五冊にも上る。それぐらいゲームに入れ込むぐらいなら勉強しろと思うのだが、黒子はバスケでも勉強でも一生懸命努力している。同じ中学だからわかる。高校に行っても、その性分は変わらないだろう。だから、オレは黒子を尊敬しているのだよ。
 オレは眼鏡を直してシナリオを読む。
「――どうですか?」
「訊くな!」
 オレはつい怒鳴ってしまった。この話はあだやおろさかに読むべき物ではない。迂闊だった。今まで気付かなかった。――黒子にこんなに文才があるとは……。思わず涙が滲んで来たのだよ。
「どうしました? 緑間君!」
 黒子が詰め寄る。感動して泣いたなんて言う訳にはいかない。例えそれが事実でも。
「黒子――このゲームは名作になる予感しかしないのだよ……」
 それしか言えなかった。
「どんな話書いたの? 黒子は」
「もう出来てんのか?」
「まだ最後まで書いてないんですけど……」
 シナリオを読んだ火神と高尾は滂沱の涙を流している。
「感動したぜ……黒子、お前もすごいんだな……こんなに泣いたのは初めてだぜ……オマエ、作家になれる! 絶対なれるぜ!」
 火神は手放しで褒めている。横顔の黒子が控えめに笑った。
「ボク、本はいっぱい読んでますから……」
「真ちゃんもシナリオ書いてきた?」
「ああ、だけど――」
 黒子のシナリオの後では恥ずかしいのだよ……そう言いたかったが言えなかった。何か、それを口にすると黒子に負けるような気がして。
「これもなかなか良くできたシナリオだな。また涙が……」
「面白くて泣けるなんて何だよ……このパーティー、天才ばかりじゃねぇか」
 火神と高尾が褒めてくれるのは嬉しいが――。
「……こんなのまだまだなのだよ。書き直して来るのだよ」
「――黒子に刺激されたとか?」
 ぐむっ。高尾のヤツ、ズバッと核心を突いて来るのだよ……。
「緑間君。ボクもこれ気に入りました。イベントの台詞とか面白いですね。謎解きの完成度も流石です」
 黒子……。
「後はどうやってゲームに組み込むかですが……」
「はいはい。そんな時こそオレの出番!」
 高尾が手を上げた。
「オレが二人のシナリオのいいところを取ってまとめるから」
 オレは高尾に頷きかけた。頼んだのだよ――高尾。

後書き
天才ばかりのパーティー……どんなシナリオが出来たのでしょう。
想像すると結構楽しい……。
オリキャラのひなちゃんはこのシリーズでもすっかりレギュラー化したけど……えーんかいな。
2020.02.27

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