ローカルサイトでラブラブ

 緑間真太郎は高尾和成の家に勉強しに来た。
「真ちゃん、家庭教師になって!」
 ――と頼み込まれて。
 だが、高尾の成績ならゆうゆうパスできる授業内容のはずだ。つまりは、緑間を自分の家に招ぶ為の口実なのであった。それを知りながら、緑間は高尾の家にやってきた。
 勉強が一通り終わると、高尾は言った。
「真ちゃん。ちょっと見せたいものがあるんだ。待ってて」
 そう言ってパソコンを起動させる。パソコンから大音量が流れた。
「うっ……」
「あ、ごめん、真ちゃん。音低くすんの忘れてたわ」
 パソコンの画面には緑間と高尾がバスケをしている画面が。
「すごい壁紙だな」
「えへへー、ひなちゃんに撮ってもらったんだ」
「よく撮れているのだよ」
「ひなちゃんに伝えとくね。――これ、オレ専用のサイトなんだ。こっちも見て」
 他の写真が現れる。さっきと同じくらいの大きさのやつが――。
「ちょっと待った」
「何? 真ちゃん」
「この写真――これだけサイズがあると重いんじゃないか? 見る者に優しくないサイトなのだよ」
「ああ。だってこれ、オレが作ったオレだけのサイトだもん。アドレス見ればわかるっしょ」
「――すまんが意味がわからんのだよ」
「だからね、オレのローカルサイトなんだわ。これ。オレしか見れないという。だからネット上に上げてないんだよ」
「ますますわからんのだよ。サイトは見てもらってこそじゃないのか?」
「でも、批判とか荒らしとか、めんどくさいだろ。いちいち対策すんの。だから、ローカルサイト作ってオレだけの城を築いているんだ」
「サイトの意味がないんじゃないか?」
「でも、見てると愛おしくなるんだよね。幸せにもなれるし」
「ほう……」
 緑間は興味をそそられたようであった。
「だって、オレの萌えを遠慮せずに注ぎ込んでいるんだもん。バスケの次に楽しい作業だぜ」
「とか言いながら、ちゃんと掲示板もあるのではないか」
「あ、これ、管理人はオレ、書き込みは全部オレ。拍手もあるんだけど……見る?」
「――遠慮しておくのだよ」
 高尾が何だか自分とは違う世界に行ってしまったようで緑間は引いた。
「女名前のもあるのだよ」
「あ、それもオレ。やっぱり女の子がいた方が潤いがあるじゃん?」
 緑間は頭が痛くなってきた。
「もっと他のことに頭を使うのだよ」
「だってオレ、絵上手くないし、文字書く時間だってないし――これだったら思いついたことの断片とか、お気に入りの画像とかとっておけるだろ?」
「つまり豪華なメモ帳ということか」
「うーん。ちょっと違うけどその解釈でいいや。ローカルサイトは人それぞれ」
 そう言った高尾の顔は――輝いていた。
「真ちゃんもやってみたら? ハマるよー、これ」
「そうだな……」
 緑間は帰って来てからホームページを作る作業をしてみた。誰にも見せないつもりの……。
「これは――楽しくないこともないのだよ」
 緑間は新しい世界の扉を開けた。

 数日後――。
「なぁに? 真ちゃん。急に遊びに来いだなんて」
「来ればわかるのだよ」
 誰にも見せるつもりはなかったが、高尾には披瀝してみたかった。
「オレもローカルサイトを作ったのだよ」
「ほんと?! マジハマるよね、あれ!」
「まぁな……」
 緑間はパソコンを起動させる。サイトの情報はUSBメモリにとってある。
「さーてと、真ちゃんの城にお邪魔しまーす」
 高尾が小声で言った。
「それにしてもさー、真ちゃん……真ちゃんのサイトって固いねー。脱原発について考えるだの、改憲についてだの……」
「大事なことだろうが」
「もっと柔らかい話題はないの?」
「豆腐の作り方というページがあるが?」
「うわー、超需要のなさそうな情報。確かに真ちゃんにはローカルサイトが合ってるかもね」
「バカにされたような気がするのだよ……」
「後は……おっと、バスケのページがある」
「オレ達はバスケ部員だからな」
「なになーに? 密かにここが一番充実してんな」
「当たり前なのだよ」
「高尾和成……鷹の目を持つPG。いつも元気だが煩い。――ひっでー。真ちゃん、煩いってひっでー!」
 そう言いながらも高尾はゲラゲラ笑っている。
「おっ、宮地サンの紹介もある。宮地清志……頼りになる先輩。キレると怖い。ぶっは! 確かに!」
「この人物紹介はこれから充実させていくつもりなのだよ」
「そうだね。これ、見るからに覚書って感じだし。更新したら見せてよ」
「わかったのだよ」
「真ちゃん、cgi使う予定ある?」
「使ってみようかという気持ちはあるのだよ」
「ぶっは! 真ちゃんローカルサイトにずっぱまりじゃん!」
「今、勉強中なのだよ」
「一緒にゲーム作んない? オレさぁ、試しに作ってみたいんだけど、いまいち実行に踏み切れなかったんだよね。でも、真ちゃんと一緒ならがんばれる気がするんだ♪」
「どんなゲームなのだよ」
「すっげーエロエロなヤツ!」
 高尾は爽やかとすら言える笑顔でさらっと言った。
「断る!」
 と、緑間は言下に言い放った。
「えー、何で? オレ達の声をあてるんだぜ。超楽しそうだと思わない? オレ、言われてみたいなぁ、ゲーム内の真ちゃんに『愛してるのだよ、和成』とかさぁ……」
「……恥ずかしくないのか」
「だってー、オレ得サイトだもん。クリアしたらオレの声で、『真ちゃん……オレ、真ちゃんにだったら抱かれてもいいよ』って言ってあげるからさぁ……」
 緑間はついそんな画面を想像してしまった。
「あ、満更でもないって顔してる」
「う……うるさいのだよ」
「ねー、作ろうよ、ねー」
「オレはそういうゲームを作る技術は持ち合わせていないのだよ」
「じゃあ、技術があれば作ってもいいんだね?! オレ、一生懸命勉強するし、イメージイラストはひなちゃんに描いてもらうからさぁ」
「その情熱をバスケに生かすのだよ」
「勿論、バスケにも生かすよ。だけど、オレにも心の憩いが欲しいのよ」
「お前の掲示板の女に慰めてもらえ」
「ちぇー。真ちゃんのいけず。じゃあさ、相互リンクはしていいでしょ?」
「お前の変なサイトとはリンクしたくないのだよ。それにどうやってリンクするのだよ。ローカルサイト同士ではリンクできないのだよ」
「バナー作ってリンクページ作ってニヤスカするんだよ」
「なるほど」
「今度までにバナー作っといてね」
「お前もな」
 高尾は帰って行った。緑間は黙々とローカルサイト作りに取り組んだ。
「――なかなか、楽しいな」
 自分で掲示板を設置したり、拍手を置いたりするまでには至らないが、緑間もすっかりローカルサイトの魅力にとり憑かれてしまった。
 高尾のページともリンクしたつもりになって充実した気分になろうと思っている。

後書き
たっつんや小野Dが声をあててくれるエ○ゲ……それ何て俺得?!(笑)
2014.7.2

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