キミノイナイ世界 ~高尾編~

「え? 緑間――?」
「そう。オレ達のクラスメートの……知らない?」
「知らねぇなぁ」
「何でよ! 緑間真太郎って言ったら、キセキの世代のNo.1シューターだぜ! 有名人だぜ! それなのに知らねぇの!」
「うん。知らん」
 ――或る日、朝起きたらオレ、高尾和成は緑間真太郎のいない世界に、いた。

「キャプテン!」
 オレは、三年の大坪サンのところにいた。大坪泰介。オレらバスケ部の大黒柱だ。
「キャプテン! 緑間どこっすか?」
「緑間……」
「やっぱり知らないんですよね……」
「ああ」
 大坪サンはきっぱり言った。
 どうせそんな気がしたんだ。かなり早くからわかっていたような気がする。オレには。――この世界に真ちゃんはいないと。
 大坪サンはオレの話を聞いてこう言った。
「お前の助けになるかどうかわからんがな……こういうことに詳しい人物がいる。電話かけてみるから、訪ねてみたらどうだ?」
「ありがとうございます!」
 ――そうしてオレは、学校を早退して、『こういうことに詳しい人物』の元に行ったというわけだ。

(大坪サン、オレを精神科に紹介したのかな)
 ぽくぽくと歩きながらオレは考える。それもムリはないかもしれない。まぁ、それでも、行ってみることにした。
 チャイムを押す。
『どなた~』
 覇気のない声がする。かなり高めの男の声だ。
「高尾です。大坪から連絡来ませんでしたか?」
『待って~。今開ける~』
 扉から顔を出したのは、幽鬼のような男か女かわからない人物だった。黄色い長い髪を後ろで一つにしばっている。白衣を着ている。
「う、うわっ!」
「ああ、ごめん。今、大変なところにさしかかっている途中だから」
 すると、その人はにこりと笑った。でも、やつれているから――怖い。
「僕、グンマ。宜しくね。入って」
 オレは部屋に案内された。見事なピンク色だ。
「あ、あの――」
「君も『時震』のことを調べに来たんでしょ?」
「ん? うん、まぁ――」
 何のことかわからないながらもオレは頷いた。
「今ね、高松達が『時震』――時の震と書いて時震ね――で起きた時空の歪みを元に戻すのに大忙しなんだ~。異次元に飛ばされた人を引き戻したり、巻き込まれた人の記憶を消したり――。僕は説明係」
「あの――『時震』って何なんすか?」
「時々起こるんだよ。いつもはこんなに大規模じゃないんだけどさ――昨夜すごい大揺れが起きて……」
「ああ。揺れましたねぇ。3.11の再来かと思いましたもん」
「でも、待ってれば僕達がいつもの世界に戻してあげるからね」
 何なんだろう。このグンマという男は。話は突拍子もないことだが、ウソじゃないってわかる。大体、オレ、突拍子もないことなんて真ちゃんで慣れてるし。
 グンマはひとしきり、『時震』の話をした。オレがうんうんと頷いていたので、気を良くしたのか、おいおい、そんなことまで喋っていいのか?ということまで喋った。
「じゃ、オレ――帰るわ」
「うん。君も大事なお友達に会えるといいね。待っててね。僕達が何とかしてあげるから。数日はかかると思うけど」
「友達じゃないです――相棒です」
「そっか。じゃ、これ、名刺ね。いつでも相談に来ていいよ」
 グンマ博士が名刺を渡してくれた。

 待つこと。
 それがオレのできる唯一のこと。
 でも、何もしないで待つのが一番辛い。
「真ちゃん……」
 家に帰ったオレは泣いて――泣き疲れて眠ってしまった。

 ここは、どこだろう。気がついたら靄の中にいた。
 むっ! ――真ちゃんの気配がする!
「真ちゃん……真ちゃん」
「高尾!」
 これは夢だ、夢なんだ。だって、こんな変な世界、夢の中にしか存在しねぇもん。夢の中なら――何でもできるよね。細かいことは省くけど、真ちゃんに会えて嬉しくなったオレは、真ちゃんに飛びついた。
 だって、ここ、オレの知らないところだもん。夢、なんだよね……。
 オレ、真ちゃんに「どこにいるんだよ」と言ってしまった。『時震』で飛ばされたのなら、そんなこと真ちゃんに訊いたって仕様がないのにね。でも、いいんだ。これは夢なんだから。ついでに、寂しかったことも言ってやった。オレの勘が正しければ、真ちゃんが飛ばされたのは、多分、オレのいない世界。
 夢の中でだけでも、会えて良かった。そんなことを思っていると……「高尾!」という悲鳴じみた声が聴こえた。
「真ちゃん、真ちゃーん!」
「高尾!」
 真ちゃんが何かに引っ張られて遠ざかろうとしている。オレは真ちゃんのペンダントのチェーンを握った。チェーンが壊れた。それ程大きな力でオレは引っ張られていた。
 目を覚ますと――オレの手には壊れたチェーンが。
 あれ、オレが真ちゃんに贈ったヤツだよな。十字架のペンダント。ちゃんとしてくれてたんだ。嬉しいな。オレはさぞニヤニヤしていたことだろう。そしてオレは――そのチェーンにキスをした。
 その後、オレはグンマ博士(あれでも一応博士らしい)に電話をした。夢の中で真ちゃんに会ったことを話す。グンマは、オレと真ちゃんに関することで知っていることをできるだけ詳しく話してくれた。やはり、元に戻すまで数日かかるようだ。

 再び真ちゃんに夢の中で会った時――オレは先程できなかった話をした。『時震』の話もした。真ちゃんはオレの予想通り、オレのいない世界に飛ばされてしまったらしい。

 でも――疑問は残る。
 何でオレのいない世界に、オレの贈ったペンダントがあったのだろう。
 その疑問は、元に戻った時に氷解した。
 おは朝は明日のラッキーアイテムも教えてくれる。真ちゃんは『人事を尽くして』オレからのプレゼントのペンダントを首にかけていたらしい。
 そんなことして、寝ている間にチェーンに首締められたらどうするんだと訊こうとしたが、すぐに愚問だな、と気が付いた。真ちゃんは仰向けに寝て、目が覚めるまでぴくりとも動かない。それをからかったこともあったけど。
 ――ありがとね、真ちゃん。
 それから、真ちゃんのいない世界にいた元々のオレの意識は一体どこに飛ばされたんだろう……。オレが元の世界に戻った後、あの世界の『高尾和成』はどうしているのだろう。それから真ちゃんは?
 疑問は後から後から出て来る。――平行世界や異次元を含めたら、オレや真ちゃんてどのぐらいいるんだろうね!

「しーんーちゃん」
「高尾か」
 真ちゃん、オレを見る目つきが穏やかになった。それだけではない。何となく――優しくなった。
「えへへ。また会えて良かった」
「お前はそればっかりだな」
「にへへ」
 だって嬉しいんだもん。真ちゃんと一緒にいられて。
 真ちゃんは前のようにオレを邪険にすることがなくなった。それがオレは嬉しい。ツンデレも悪くないけどさ!
 ああ、真ちゃんと元の世界でこういう風に弁卓を囲めるなんて夢のようだ……。ひなちゃんもいる。
 皆いつも通り。もしかして皆も記憶を操作されたのだろうか。ひなちゃんもふつう通りだ。
 でも、オレはあの世界のことを忘れていない。何で?
 ――まぁいいや。細かいことは気にしない(全然細かくないかもしんないけど)。真ちゃんがいて、オレがいる。大切なのは、それだけ。
「お前も変わったな。高尾」
 例えば、誰もいないところで。オレは真ちゃんに髪を梳かれながら言われる。きっといい変化なのだろう。
「へぇー、どんなところが?」
「前ほどお前が煩いと思わなくなったのだよ」
 それ、真ちゃんの方の変化じゃん。でも、好意を持たれて(好意だよね)、高尾ちゃんは幸せでっす。
 時震でも、オレ達の絆は裂くことはできないからね。真ちゃん。

後書き
黒バスとパプワのクロスオーバーです。どちらも大好きv 『時震』の設定は私が考えました。
よかったら未読の方は『キミノイナイ世界』1と2も読んでください。
2015.3.29

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