かわいいたかお4

 昨日、高尾に告白された。
 以前から好きだのなんだのとは言われてたけど。
 そしてオレは――高尾にキスされた。
 その時は幸せだったけど――そのうち考えることが増えた。
 オレは――高尾に自分の気持ちを打ち明けたことがあっただろうか。
 あったとは思う。高尾は鋭いから、オレの気持ちにもとっくに気付いている。態度でわかる。昨日告白しようとしたら先回りされた。
 でもオレは――オレも高尾に告白したいのだよ。
「何? 真ちゃん」
 オレは裏庭に高尾を呼び出した。今の時間帯なら誰もいないのだよ。
「高尾、あのな。オレはオマエのことが、す――」
「す?」
「す、酢の物は好きか?」
 ――我ながらヘタレなのだよ。
「嫌いじゃないけど?」
 高尾はきょとんとしてこちらを見ていたが、
「あー、真ちゃんさては!」
 と、にやりと笑った。
「告白しようとしてるっしょ!」
「う、まぁ……そんなところだ」
 こんな間の抜けた告白が、告白と言えるならな。
「真ちゃん。オレ、真ちゃんの気持ちはわかってるつもりだよ」
 そうだろうな。けれどもオレは――。
「オレも、自分の気持ちは伝えたいのだよ。――男だからな」
「そう? じゃ、言って」
「う……」
 オレは、高尾のことが好きだ。好きで好きで、可愛くて――。
「愛してる」
 ざあっと風が逆巻く。高尾の黒髪が顔にかかっている。
「真ちゃん。やればできるじゃん!」
 笑って高尾は親指を立てる。
「あの時はオマエが邪魔をしたのだよ」
「ごめんごめん。つーか、オレも照れてたんで。真ちゃんに好きだなんて言われたら、パニくったよ、きっと」
 その焦った高尾も見たかったのだが、チャンスを逃してしまった。
「それにしても、突然愛してるなんて……真ちゃん、案外大胆だね」
「ぐっ……弾みなのだよ」
 違う。弾みなんかじゃない。
 高尾への気持ちに気付いた時から、ずっとずっと高尾を見てきた。
 桃井やリコへの淡い恋心とも違った、身の内で燻る感情。
 どうしてオレはこいつを好きなのか――だが、そんなことは関係ない。
 高尾が好きだ。それが事実だ。
「真ちゃん、いつから?」
「いつの間にか――」
「そう。オレもいつの間にか真ちゃんに恋してたよ。真ちゃんしか見えなくなった」
 嘘吐け。ひな子だの、名前は知らんがショートカットの可愛い女の子だのと歩いていたくせに。
「嘘吐け」
「ひっでーなぁ。これでも真剣なんだよ」
「じゃあ、どうして他の女子と歩いていた?」
「そりゃあ、女の子と歩くぐらいはするよ。――何だよ。真ちゃん、妬いてるの?」
 思いっきり妬いているのだよ。
「――別に」
「気にしなくたって大丈夫。オレの本気はお前だけだから」
 高尾が抱き着いたので、オレも抱き締め返した。
「真ちゃんだってさぁ――モテんだぜ。変人だけど。どれほどオレがやきもきしていたことか」
 変人だけは余計だ。
 でも、高尾もオレに対してやきもきしていたのなら、嬉しい。
「愛してるのだよ、高尾」
「うんうん」
 本当にわかってるのか? 今のお前は――食べてしまいたいぐらい可愛いのだよ。
 オレは眼鏡を外して、ゆっくりゆっくり、少しずつ近づいて高尾にキスしようとした。そこで――。
「わー。緑間が高尾を襲っているぞー」
 デリカシーのない声が響いた。同じクラスの奴らだ。高尾がオレから離れた。何でこんな滅多に人の来ない時間帯に裏庭に来るのだよ。はっきり言って邪魔だ。やはり屋上の方が良かったか?
「おーい。高尾。大丈夫か?」
 何だよ――オレが悪者なのか?
「うん。大丈夫。だって、真ちゃんはオレの恋人だもんねー」
「高尾ッ!」
「へぇ……お前らとうとう告白したんだ」
「緑間の告白どうだったんだ?」
「それがねぇ……うん、言えないな。それは。オレ達にだってプライバシーというものがあるもん」
「朝倉達が話題にしてたぜ。お前らは既にデキてんだって。オレもまさかとは思ったけど――お前ら仲いいもんな」
「……そんな風に見えた?」
「見えた見えた。互いに互いのことしか見えてないようだったから」
「うわー。嬉しいね。真ちゃん」
「高尾。お前気付いてないかもしれないが、緑間のヤツな――」
 ――嫌な予感がするのだよ。
「お前のこと食べたそうに……」
「さぁさぁ。あっちへ行くのだよ」
 オレは口さがない同級生連中を追い払った。
「狼さんには注意しろよ。高尾」
「うん、わかったー」
 高尾が笑顔でバイバイと手を振っていた。
 ――邪魔者は去ったのだよ。
「ねぇ、真ちゃん。オレ、真ちゃんになら食べられてもいいなぁ……」
「な……滅多なこと言うもんじゃないのだよ」
 本気にしてしまうだろうが。
「というか、オレも真ちゃんのこと食べたいし?」
「な――オレよりもお前の方が小さくて可愛いのだよ」
 つい本音を漏らしてしまった。ちっちっと高尾が指を振る。
「わかってないなぁ。真ちゃん。オレだって男なんだぜ。何度お前に欲情したことか……」
「なっ……」
 オレは自分の頬が熱を持つのがわかった。
「真ちゃんて美人だしさ、睫毛バサバサだし上品だし。自覚はしてないかもしれないけど」
「…………」
「こんなこと言うオレ、嫌?」
 う……。オレに欲情していたことは初耳だが、上目遣いで訊いてくる高尾が相変わらず小憎らしくて可愛くて――。
「い……嫌ではないのだよ」
「ほんと?! よかった!」
 高尾が行ってしまおうとする。オレは高尾の腕を掴んだ。
「待て高尾」
 オレは高尾を抱き寄せて唇にキスをした。高尾は真っ赤になって俯いた。そして高尾は言った。
「真ちゃん……オレ、真ちゃんを襲うのは平気だけど、襲われるのはやっぱり恥ずかしいな……男として」
 ――ああ、やっぱりオマエはオレの可愛い高尾。そんなお前が大好きだ!
後書き
これで『かわたか』シリーズは終わりです。
高緑な緑高ですね。しかし、高尾もやっぱり男です。緑間君に欲情するなんて(笑)。ただの可愛い子じゃない!(笑)
緑高はこれからも書いていく予定ですので宜しくお願いします(ぺこり)。
2014.5.15


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