かわいいたかお2

 今はテスト期間中。だが、オレ達は遊び歩いているのだよ。仕様もない。
 まぁ、でも、一夜漬けなど人事を尽くしていない証拠だ。オレはいつでも人事を尽くして勉強しているのだよ。
 それに……今は高尾がいるから。
 でも、一応訊いておこう。
「高尾。オマエ、テスト大丈夫か?」
「あー、やなこと思い出させないでくれる? うん。一応大丈夫だよ。今から焦ったって仕方ないしね」
 高尾の言葉にオレは深く頷いた。
「ゲーセン行ったら、テスト範囲をおさらいしておくのも悪くないのだよ」
「うん。そうだね。じゃあ、真ちゃん、家来る?」
 高尾が上目づかいで言った。身長の差でそうなるのだから仕方ない。高尾は意識してもいないだろう。
 オレが……高尾の部屋に行く?
 何でもないのにかなりドキドキした。
「取り敢えずちょっとだけ遊んでこーぜ」
「本当に少しだぞ」
 オレはクレーンゲームで景品をもらった。……豚のぬいぐるみか。結構可愛いのだよ。
「あー、それ可愛い。ぶひっ」
 たかおは豚の鼻を押した。
「良かったらやるが?」
「えー、いいよぉ。真ちゃんが取ったんだし。それに……いつかラッキーアイテムで使わないとも限らないだろ?」
「う……そ、そうか……」
 おは朝は時々無茶ぶりする。人事を尽くすオレは、時には高尾に協力してもらって(高尾は『巻き込まれて』と言っているが)ラッキーアイテムを探している。
 オレは全面的におは朝を信じている。それに引いたりしないのは高尾だけだ。周りも少しは慣れてきたようだが。ただ、高尾自身はおは朝を信じていない。オレの人事を尽くす姿は気休めだと言う。でも、理解はしてくれているのだよ。オレはそれでいい。
「じゃあ、今度はプリクラ撮ろう、プリクラ」
「はしゃぐな!」
 しかし、まぁ、ここは折れてやるのだよ。
「はい、チーズ」
 高尾はノリノリで写真を撮った。オレは……ちょっと無愛想に映ったかもしれん。
「はい。真ちゃん」
 高尾はシールを渡してくれた。
「あ……ああ」
 高尾は早速自分のスマホにシールを貼った。オレは……どうしようかな。
 後で携帯にでも貼っておくか。
「じゃ、家行こうぜ。真ちゃん」

 高尾家へ行くと、高尾の妹が出迎えてくれた。
「こんにちは。緑間さん」
 高尾の妹――夏実が丁寧にお辞儀をしてくれた。
「なっちゃん。相手は緑間なんだからそんなにしなくっていいって」
「そう?」
「夏実ー。和成帰ってきたの?」
 高尾の母の声だ。
「うん。緑間さんも一緒だよー」
 暖簾から姿を現した高尾の母も相変わらず可愛らしかった。
「あらあら。こんにちは。真太郎君」
「どうも」
「オレ達、部屋で勉強してるから」と、高尾。
「あらほんと。後でジュースとクッキー持っていくわね」
「すみません。気を遣わせてしまって」
「そんな……いいのよ」
「真ちゃんだったらジュースとクッキーより、お茶と饅頭の方がいいんじゃない?」
 高尾が言う。確かにそっちの方が好物だが、高尾の母の好意を無碍にはできない。
「じゃあ、お饅頭もらったからそれ出すわね」
 助かった。高尾の母は鼻歌まじりに台所へと引っ込んだ。高尾の母親に相応しい、明るい母親だ。高尾のつやつや光る黒い髪は母親譲りかもしれん。
「じゃ、あたしも勉強して来ようっと。――ねぇ、お兄ちゃん。わからないとこあったら教えてね」
「その役目は真ちゃんでないと――あ、でも、真ちゃんにも都合というものが……」
「オレだったら構わないのだよ」
「ほんと?! じゃあね」
 夏実は可愛い。オレの妹ととっかえたいぐらいだ。高尾とは別の意味で可愛い。
 けれど――オレの心にはもう高尾が住んでいるから……。
 オレにとっても夏実は妹みたいなもんだ。
 夏実がとんとんとリズム良く階段を上がっている。その後にオレ達が続く。高尾と夏実の部屋は隣同士だ。
「じゃ、お兄ちゃん。勉強がんばってね」
「おう」
 夏実は本当にできた妹だ。
「じゃ、物理やろうぜ」
「そうだな。まず教科書の125頁を開いて……」

 ――勉強に熱中していたら、すっかり遅くなってしまったのだよ。オレは男だから、少々遅くなっても構わないのだけれど。なるたけ家族には心配をかけたくないが、大丈夫だろう。
 お茶と饅頭もしっかり堪能した。夏実は結局、わからないところを訊きには来なかった。それが残念といえば残念だ。高尾とはたっぷり勉強出来たので、その点は満足だが。
「ありがとう、真ちゃん。真ちゃん教えるの上手いね」
「わかってるじゃないか」
 オレはブリッジに手をやってズレた眼鏡を直す。
 高尾の母にはいっぱいお土産をもらったのだよ。本当に人をもてなすのが好きな家族なのだよ。
 勉強を終えたらしい夏実が玄関にひょいと顔を出した。
「緑間さん、もう帰るの?」
「ああ。――また来る」
「ほんと? 今度はゆっくりお話できるといいね」
「何か、なっちゃんに真ちゃん取られそうな気がしてきたよ」
 大丈夫だ。高尾。オレはオマエのものなのだよ。このハートごと、オマエにあげよう。――いらないかもしれんが。
「私、お兄ちゃんのことも大好きだよ」
「何そのフォロー」
 高尾は拗ねていたけれど、妹にカチューシャもらって喜んでいた男だ。妹のことは可愛いのだろう。ちなみに赤いカチューシャ姿の高尾はとても可愛かった。今度写真に撮っておきたいぐらい。
「じゃあな。真ちゃん」
 高尾……。
 オマエと別れるこの瞬間が――辛い。
 けれど、オレは家に帰らなければならない。高尾にも家がある。未成年というのは不自由なものだ。
 大人になったら一緒の家に住みたい。そんなことも夢想する。高尾に断られることも予期はしているが。――というか、普通は……断るだろうな。オレだって相手が高尾でなかったらお断りなのだよ。もしオレが大人になったら、独り立ちできるくらいの年になったら、一緒の家に住むよう高尾を必死で説得するのだろうが。友達同士が一緒に住むのは珍しいことではないとか何とか言って。
 自分の家に帰ったオレは、挨拶もそこそこに自分の部屋に閉じこもった。
 オレは――プリクラのシールを自分のケータイの裏に貼っておいた。
 高尾とオレのフォトグラフ。満面の笑みの高尾に仏頂面のオレ。もうちょっと愛想良くはできなかったのだろうか、オレ。今になって後悔する。
 高尾は、こんなんでも大事にしてくれるだろうか。オレは大事にするけれども。
 コンコンコン。ノックが三回鳴った。
「お兄様」
 オレの妹の春菜だ。オレと同じ緑色の髪が前より伸びているような気がする。春菜は開口一番こう言った。
「今日、夏実さんの家に行ったんですって?」
「ああ。高尾に勉強教えにな」
「和成さんのことはどうだっていいんです。――お兄様。夏実さんのことを取らないでくださいね」
 ――取らないのだよ。オレには高尾がいる。
 春菜は夏実に惚れていて、オレは夏実の兄の和成に惚れている。好みが似ているというか、どっちにせよアブノーマルなのだよ。
 春菜は兎にも角にも女だ。オレも女だったら、高尾に可愛いと思ってもらえたであろうか。……けれども、オレは男で良かったと思っている。高尾と対等に男同士の付き合いができるのだから。それにオレは――高尾に愛されるより、高尾を愛したい。可愛い高尾……オレは今の関係がずっと続くことを願っているのだよ。

後書き
高尾と緑間の捏造家族、また出てまいりました。
高尾ちゃんを可愛いと思っている緑間。私もそう思うのだよ。高尾も緑間を可愛いと思ってるんじゃないかな。
まだ続きがあります。それはまた今度。
2014.4.21


BACK/HOME