かわいいたかお

 あれ?
 高尾のヤツ、どこ行った?
 全く……ちょろちょろするななのだよ。落ち着きのないヤツめ。
「しーんちゃん」
「わぁっ!」
 高尾め……高尾の分際で不意をつくとは……。
「えへ。びっくりした?」
 そう笑顔で言われると――弱いのだよ。
「あまりへらへらするな」
 オレの口から出てくる台詞はそんなのばっかりで……。
「真ちゃん、ひどいなぁ」
 あまりオレ以外の人間の前で笑うな。か、かわいいのだから……。
 オレはむんずと高尾の頭を掴む。
「な、なに?」
「――小さいのだよ」
「……これでも平均身長は超えてるんですけど。このデカ」
 それでもやっぱり――小さくて可愛い。
「後で背丈追い越しちゃる」
 拗ねる姿も可愛いのだよ。
「やってみせるんだな」
「――くそっ!」
 高尾は『ネバーギブアーップ』とか叫んでいる。
 高尾はそのままで良いのに……。
 男子は成長期が遅いから、高尾がオレを追い越すことも無きにしも非ずだが……いや、無理だな。いかんせん、オレは195㎝ある。
「真ちゃんてさ、視点とか高いっしょ。どんな風に景色が見える」
「そんなこと考えたこともないのだよ。あ、店の看板にぶつかることはしょっちゅうだな」
 高尾はそれを聞いて大笑いする。
「笑い事ではないのだよ。頭をぶつけたらどうする」
「ごめんごめん。真ちゃん。でも――ぶっひゃひゃひゃひゃ」
 こういう笑いはあまり好きではない。
「笑うな」
「ごめーん。でも、でかけりゃでかいなりに苦労あんだな」
「当たり前なのだよ」
 隣の芝生はよく見えるのだよ。オレだって、バスケやってなければこの身長もコンプレックスだったろうに。
 今は――幸せだ。
 高尾の旋毛を見るのも高身長の役得だ。
 可愛い――オレの高尾。
 誰にも渡さない。
 オレはいつからこんなに独占欲が強くなったのだろう。しかも、高尾は男だ。
 オレだってそれなりに女にも恋をしたこともあるというのに。性的体験はまだだが。
 高尾は、どうなんだろうな。
 気になる。とても気になるのだよ。
 きつい鋭い光を発するオレンジ色の瞳。露わになったおでこ。さらさらの黒髪。
 いつか好きだって言おう。
 カチューシャをつけた時の高尾の可愛さは、思わず写真に撮りたくなってしまう程だったのだよ。――自制したが。
 宮地センパイにも、
「オマエら、デキてんだろう、デキてんだろう」
 と言われて困ってしまったことがある。――それが不思議と嫌ではなかったが。
 あの後、オレは高尾に恋をしたのだよ。
 高尾はオレのことをどう思っているのだろう――。
「あ、真ちゃん、見て見て」
「たい焼き……?」
「あんこ旨いんだよなー。あ、真ちゃんのも買ったげる」
「悪いな」
「いやいや。だって、オレ、真ちゃんにはいつも世話になってるしぃ?」
 世話になっているのはオレの方だ。高尾。
 オマエがいなければ――普通の高校生活なんて味わうことはできなかったのだよ。
「あ、真ちゃん、あんこついてるよ」
「む……」
「ダメだって、舌じゃ届かないって」
 そう言って高尾は自分の指でオレの口元のあんこを拭って――舐めた。
「―――――!」
 もうダメなのだよ! 心臓破裂しそうなのだよ!
 ああ、今日のラッキーアイテム、信楽焼のストラップよ、ありがとう!
 これはもう、告白するしか……。
「あ、あのな、高尾……」
「あーっ! 鳩だ鳩! エサやりてぇなぁ!」
 だからこいつはちょろちょろと! 少しは大人しくできんのか!
 でも、そんなところも――
「可愛い……」
「なーっ! 真ちゃんも可愛いと思うだろ? 鳩」
 違うのだよ。オレの言ってるのは鳩じゃない、オマエだ。
 まぁ、だが、勘違いさせておくことにしよう。
 高尾は一羽の鳩を追いかけている。鳩もいい迷惑なのだよ。もし高尾の追っているのがオレだったら――大歓迎なのだけど。
 はっ! なんて恥ずかしいこと思ってるのだよ、このオレは。
「真ちゃーん。鳩に逃げられた」
「あんまり深追いするからなのだよ。バカめ」
「真ちゃんの『バカめ』久々に聞いたー」
「そ……そうか?」
 自分の高尾に対する気持ちに気付いてから、オレはなるべく悪口に聞こえるような言葉は避けてきた。
 でも、この高尾――いや、バカ尾は、
「真ちゃんの口悪いトコも好きだよ」
 なんて、核爆弾級の台詞を放ったのだよ!
 あー、高尾め、高尾め!
 この一言で今日はいい気分で寝られそうなのだよ!
 それに、好きって、好きって……。
 いや、友達としての好きだったらわかるのだよ。
 でも、オレは――。
 高尾に恋してしまったのだよ……。
 バスケではホークアイという反則技持ってるくせに! 鳩に逃げられるバカのくせに!
 オレの心臓を鷲掴みにして離さないのだよ。
 いつもだったらシュート練習に余念がないのだけど……今はテスト期間中だからな。
 高尾はしなやかに伸びをした。そして言った。
「あー、久々にリフレッシュ。次はゲーセン行こう」
「クレーンゲームをしたいのだよ」
「真ちゃん、プリクラ撮ろうね」
「誰がそんな女子供みたいな真似を……」
「えー、いいじゃん。真ちゃんのシール持ち歩きたいからさ」
 そこまで言われると否と言う気も失せるのだよ。
 わかったのだよ。高尾和成。オマエには完敗なのだよ。

後書き
高尾は可愛いだけの男ではないはず。それに私から見れば緑間も可愛いんです。たかみども好きよv
この話にはまだ続きがありますがそれはまた別の機会に……☆
2014.4.4


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