猫獣人たかお番外編 3

「にゃっ、にゃっ、にゃ~♪」
 オレは楽しくてつい鼻歌なんぞを歌ってしまう。
「楽しそうだな。かずなり」
 低いイケボで喋ったのは、オレの飼い主、緑間真太郎。オレは真ちゃんて呼んでる。
「だあって、真ちゃんと一緒なんだもーん。あ」
 オレは足を止める。
「バスケットのコートだよ。真ちゃん」
 オレはここに来る前から何となく『目』で捉えることができたけど。真ちゃんに言わせると、
「かずなりには鷹の目があるな」
 ということなのだそうだ。
「ああ、つい最近できたらしいな」
「やってみようよ。真ちゃん。バスケ。オレ、真ちゃんの3Pシュート見たいな~」
 それが殺し文句になったらしい。真ちゃんは「ふ……」と笑った。おあつらえ向きにボールがコートに転がっていた。
「そこで見ているのだよ。かずなり」
 真ちゃんが左手のテーピングを外す。真ちゃんの超長距離シュートは、相変わらず見事なものだった。どうしてあんな風にパッと入るかねぇ。
「すごい、すごいよ、真ちゃん!」
「そうか? お前もやってみるか?」
「うん……前からちょっと……やってみたかったんだ」
「シュートをか? 難しいのだよ」
「真ちゃん、オレ、今バスケやってみたい」
「じゃあ、やってみるか?」
 真ちゃんがオレにボールを渡す。――コートの俯瞰図が見える。コートの向こうでは真ちゃんが見てる。
 よーし! いっくぞー!
 あのリングにボールを通せばいいんだな。――よし。
 オレはゴールのそばに駆けて行って、ボールを放った。ボールは狙い通りゴールに入った。
「かずなり……」
 真ちゃんが目を丸くしているようだ。何で?
「綺麗なレイアップシュートなのだよ。どこで覚えた?」
「えー、だって、真ちゃんよくバスケの番組観てたじゃん」
 それはオレがまだ猫だった時のことだった。真ちゃんはオレを膝に乗せて、
『ほら、かずなり、あれがレイアップシュートなのだよ』
 と、教えてくれた。
「もう一度、もう一度やるのだよ!」
「うん!」
 オレは飽きるまでボールを放った。テレビでやっていた技は殆どやった。時には上手くいかないこともあったけど。うーん。それに、まだまだ真ちゃんには敵わないなぁ……。――と、オレが思っていた時だった。
 真ちゃんが目を光らせてがしっとオレの手を握った。真ちゃんの手、大きい……。
「かずなり、バスケは好きか?!」
「え……あ、好きか嫌いかで言ったら、どっちかと言うと好きだけど……」
「質問にはっきり答えろ! 好きか?」
「……うん」
 真ちゃんの迫力に押されて、オレは思わず頷いた。それに、やっぱりバスケは楽しいし。
「――いつか、中谷教授に話するのだよ。お前のこと」
「え? マー坊に?」
 真ちゃんはそれを聞いて苦笑いした。
「お前……まだ中谷教授のこと、マー坊って呼ぶんだな。カントクの父親と同じに」
「え? リコさんの親父さんも『マー坊』って呼んでんの?」
「内緒だぞ。中谷教授はあまり言われたくないみたいだからな」
「にゃあ」
 ――だが、オレは同志ができたようで嬉しかった。
「かずなり。お前にはバスケの才能があるのだよ。バスケ推薦の獣人枠でうちの大学に入ることができるかもな――火神と同じに」
「にゃあ……」
 そしたら、真ちゃんとバスケができるかもね。たとえベンチ入りできなくてもいいや。真ちゃんといられるなら。
 ――真ちゃんのプレイを間近で見られることができるなら。もうとっくに見ているけれどね。
「勿論、ちゃんと勉強もしなきゃダメなのだよ」
「うん!」
 ――オレは、大喜びで答えた。来年は真ちゃんと同じ大学を受験する。それは決定事項だったけど。

 そして、しばらく経った後、真ちゃんはマー坊のところへオレを連れて行った。
「中谷教授。話があります」
 真ちゃんがマー坊のところにオレを連れて行った。
「おう、緑間、たかお君」
「マー坊!」
「だからそのマー坊はやめろと何度も……まぁいい。何しに来た」
「来年の受験で、かずなりのバスケ推薦入学を認めて欲しいんです」
「それは私の一存では決めかねるな」
「取り敢えず、かずなりのプレイを見てください!」
「わかった。練習場へ行こう」
 この大学には、正規の体育館の他にバスケ専門の練習場がある。女子バスケも男子バスケの隣のコートでやってるんだ。後、格技場とか卓球の部屋とかいろいろあるんだけど――ここでは割愛。
「かずなり、お前の力を見せてやれ」
「わかった」
 まず初めは、真ちゃんにも見せたレイアップシュート。――決まった。
「ほう……」
 マー坊の声がもれた。
 続いてダンクもどき。――これは何とか入ったけど、火神のように鮮やかではないなぁ。次は……。
「わかった。もういい」
 マー坊がやめさせた。何で? もっといろいろできるのに……。
「たかお君……いや、たかお。お前、バスケ歴は何年だ?」
「以前ちょっとやっただけです」
「バスケの勉強は?」
「真ちゃんと一緒にバスケのビデオ見てました!」
「ほう……」
 マー坊が目を細めた。そして、こう告げた。
「今日、部活に来い。たかお」
 ――放課後、オレと真ちゃんはバスケ部に来ていた。
「よぉ、たかお」
「あ、タイガ」
「こんにちは。たかお君」
「てっちゃん」
 ――オレが友達と挨拶を交わしていると……リコさんの声がした。
「たかお君。早速だけど、服脱いでみてくれる? 上半身だけでいいから」
 オレはリコさんの言う通りにした。
「なるほど……ちょっとお腹が薄いけど、なかなかの逸材ね。服の上からでも一応わかってたけど」
「バスケ部に入れますか?」
「資格はありそうね。プレイ見せてくれる?」
「はい」
 オレは、次々にゴールを決めた。決まらないのもあったけど、それは内緒内緒。
「ふぅん。そうねぇ……鍛えればものになりそうね。――5on5やりましょ」
 リコさんのホイッスルの合図でプレイが始まった。オレと真ちゃんのいるチームが勝った。
「たかお君!」
 リコさんが昨日の真ちゃんのように、目をきらきらさせていた。
「うちの大学に来て! お願い!」
「それは、オレ、もうここに来ようって決めてるから……」
「ああ、うちの大学にも一年に編入制度がないのが惜しいわ! たかお君、君はゴールもそこそこ決めるけど、パスは黒子君のように芸術的ね。あれはどんな秘訣があるの?」
 オレは、真ちゃんの言う『鷹の目』のことを話した。俯瞰図で選手の居場所がわかることを。
「それよ! 鷹の目を持つ猫獣人! パスは黒子君にはまだまだ敵わないけれど、ゴールも自分で決められるし……来年はうちを受けなさい! うちには獣人枠があるから! ああ、どんどん強くなるわ。うちのバスケ部!」
 リコさんはすっかり舞い上がっている。真ちゃんがぽんとオレの肩に手を置いた。
「良かったな。かずなり。また練習しよう」
 ――それはオレにとっても、願ってもないことだった。

後書き
大学一年に本当に編入制度がないのかどうかは謎です。
それに高認(私の時代では大検と言ってたけど)受けなきゃ、大学には入れないんじゃ……。 因みに私は高校中退したけど、大検受けて合格しました。
2017.6.18

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