猫獣人たかお番外編 12

高尾和成殺人事件

 こんにちは。黒子テツヤです。今日はある哀しい男の物語を話したいと思います。

「う~ん、よく寝た。……って、たかおっち、たかおっち~」
 高尾君は永遠の眠りから覚めませんでした。
「緑間っち! たかおっちが死んでるっス」
「何寝惚けたこと言ってるのだよ。お前が死ね」
「冗談言ってる場合じゃないッス」
「そうかそうか」
「皆にも知らせなくちゃ、お~い! たかおっちが死んでるっス~」

 皆は大広間に集まりました。勿論僕もです。
「高尾が死んだって?」
 青峰くんは今でも信じられないらしいです。
「ええ。ここのテーブルに、うつぶせになって」
「で? 黒子は犯人はわかったのかい?」
 そう訊いたのはリーダー格の赤司君です。
「それはまだ……だけど、トリックはわかりました」
「それは?」
「――赤司君。マウスを殺す時、何の外傷もなく殺すにはどうしたらいいと思います?」
「頭を押さえつけて尻尾を思いっきり引っ張るんだろう?」
「げー」
「やめてよね、赤ちん。お菓子食べてる時にさ~」
「こんな時にお菓子を食う方が悪いのだよ。紫原」
「わかってるよ、みどちん」
「尻尾を引っ張って殺されたマウスは、どうやって死んだのか、解剖してもわからないそうです」
「よく知ってるね」
「本に載ってました」
「――『ミステリーを科学したら』か。由良三郎氏の」
「緑間君も知ってたんですか」
「ああ。なかなか面白かったのだよ」
「けれど、人間には尻尾はありません。盆の窪から延髄めがけて鍼を刺した時、先程話したマウスと同じことが人間にも起こるのだそうですが、かなりの手練れでないと――」
「だが、和成は獣人だ。尻尾を下に引っ張るだけでこときれる」
「ええ――ですから、僕は人間に尻尾がなくて本当に良かったと思いました。由良氏も同じようなことを書いてましたよ」
「でも、獣人には尻尾があんだろ? いつでも殺せるじゃん」
「尻尾が短ければ大丈夫ですけど。けれど、高尾君は長い尻尾を垂らしていたでしょう?」
「猫の獣人だからな」
「そして――犯人は僕と赤司君と緑間君に絞られます。この事実を知っているのはあの本を読んだ僕達だけです」
「じゃあ、俺らは除外っスね。良かったぁ~」
「だって、青峰君も黄瀬君もそんな本読みそうにありませんから」
「――なんか、遠回しに馬鹿にしてないか? テツ」
「わかりますか?」
「茶番はさておき。犯人はこの中にいる!」
 赤司君が仕切ってくれました。僕も助かります。推理小説は好きですが、謎解きはあまり得意ではないのです。
「テツくーん!」
「うわっぷ、桃井さん……」
 僕は些か戸惑いました。いつものことといえばいつものことなのですが、僕には火神君がいます。それに、桃井さんにも青峰君がいるはずなのに――。
 パチパチと暖炉の火が爆ぜました。皆、一瞬しんとなりました。
「高尾君、可哀想ね」
「ええ……」
「私ね。妙なところ見てしまったの」
「何でしょう?」
「緑間君が……高尾君と、何やら喧嘩していたところ。私、そこからすぐに立ち去ったんだけど……これも証言になるかしら」
「なります。立派に」
「僕も――犯人は真太郎だと思うな」
「緑間君、申し開きがあったら聞きますよ」
 まるで「ここをどこと心得る。お白洲であるぞ」みたいな感じです。
「でも――犯行の場面は見てなかった訳だね」
 桃井さんに対して赤司君のオッドアイが光ります。僕からも、桃井さん、何でもいいですから、不審に思ったことを全部喋ってください、と頼みました。すると――。
「――ごめんなさい」
 桃井さんが謝りました。
「あのすぐ後、高尾君の尻尾を緑間君が引っ張ったの見てたの。でも――緑間君が高尾君を苛めているのかなぁと思って注意したら……緑間君が怖い目で、『このことは誰にも言ってはいけないのだよ』と言ったの」
「――つまり、脅された訳ですか……」
「ふふ……黒子に赤司。お前らを誤魔化せるとは思っていなかったのだよ」
 緑間君が笑っています。何か訳があるはずです。だって、彼は高尾君を愛していたのだから――。
 愛しているからこそ殺したというロジックも成り立ちますが――。
「もういいだろう。犯人は俺なのだよ」
「どうして? 緑間君と高尾君は理想のカップルだったでしょう?」
「俺もそう思っていた――だが……」

「真ちゃん。今日、黄瀬ちゃんと寝ることにしたから」
「寝るってまさか……!」
「そんな変なことしないよ。黄瀬ちゃんだって飢えてる訳じゃなし、俺だって、真ちゃんという恋人がいるしね」
「俺がいるのに黄瀬と寝るのか?!」
「だから、ただ寝るだけだって」
「お前はどんなに魅力的か自分でわかっていないのだよ!」
「何それ、嫉妬? オレだっていつまでも真ちゃんとかかずらっている訳にはいかねんだよ!」
「この……!」

「そんなことを言ったことを後悔させてやる――そして、俺は犯行に及んだのだよ」
「理想が音を立てて壊れていく瞬間ですか……」
「そう。俺の中でかずなりはいつまでも理想の恋人なのだよ」
 緑間君は遠くを見つめていました。僕もこれにはぞっとしましたが――。
「わかるよ、真太郎。その気持ち」
 赤司君! 君もですか! 降旗君の未来が心配になって来ましたよ……。
「だから、ここから出て行ったら――オレはどこか遠くの国へ行って……かずなりとの煌めく日々を思い返して生きようと思ったのだよ」
 駄目ですね。まるきり反省の色が見えません。
「みどち~ん。警察行った方がいいよ~。刑務所でもできるでしょ? 追憶ってヤツ」
 紫原君はこんな時でもゆる~く喋ります。
「そうだな。紫原の言う通りだ」
 緑間君は、憑き物が落ちたように言いました。
「じゃ、電話するよ。いいね」
「ああ、そう願えるか? ――赤司」
 赤司君は警察に連絡しました――。

「あー、終わりましたね」
「何だよ、この劇。オレが全然目立てねぇじゃねぇか」
「オレもっス」
 青峰君と黄瀬君は哀しい役回りでしたね。哀しい男達と直した方がいいでしょうか。
「全く……オレがかずなりを殺す訳ないのだよ」
 ――幕。

後書き
高尾和成殺人事件……なんちゃってミステリです。
『ミステリーを科学したら』の中に、確か『尻尾がなくてよかった』というエッセイがあったように思います。
でも、猫獣人たかおには尻尾があるから、こういうことも可能なんじゃないかと思って書いたのがこの話です。
2019.10.29

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