猫獣人たかお番外編 11

「じゃ、まずは乾杯しましょ」
 リコさんが音頭を取る。
「かんぱーい!」
 あー、オレ、酒って飲むの初めて。グラスに口をつけようとすると、ひょいと真ちゃんに取り上げられた。
「にゃー、何すんだよぉ、真ちゃん」
「かずなり。お前は酒飲むな。何かあったらどうする」
「何も起こらないよぉ。オレ、猫と違って人間と同じ物が食えるんだから、酒だって飲めるよぉ」
「相変わらずねぇ、緑間君は」
 リコさん、呆れてる。その隣では桃井サンがくすくすと笑っている。鍋はタイガとマー坊の奥さん達が作ってくれたから安心。リコさんや桃井サンがサプリメント入れる暇もなかったもんね。
「今度は闇鍋にしようぜ、闇鍋」
 コガがとんでもないことを言い出す。水戸部がおろおろし出す。
「面白そうだな」
 木吉兄ちゃんまで悪ノリ――いや、この人は天然だった。
「あら、いいわねぇ」
「オレは反対だぜ」
 具をつつきながら日向サン。
「どっかの誰かさんがサプリメントを入れやがると困るからな」
「あら、日向君」
「それ、誰のこと~?!」
 リコさんと桃井サンが詰め寄る。こう言う時は気の合う二人。
「おい、プッツンめがね。リコたんを悪く言うと許さねぇぞ」
「何でお前がいるんだ、トラ……」
「いいじゃねーかよ、マー坊。オレとお前の仲だ」
「――腐れ縁だろ。あまり飲むなよ。年なんだから」
「へいへい眼鏡をかけたブロッコリーみたいなこと言いやがって」
「オレはブロッコリーではないのだよ」
 真ちゃんが怒る。真ちゃんは緑の髪をしてるもんねぇ。
「パーマかけてみろ。そっくりじゃねぇか」
 あ、ダメだ。リコさんのお父さん――トラさん聞いてない。
 でも、トラさんが人の言うこと聞かないのは、今だに娘をリコたん呼ばわりしていることでわかるか。リコさんは嫌がってるのに。
「あ、あのね、真ちゃん……」
 オレは何とかフォローしようと言葉を探す。
「真ちゃんはブロッコリーよりかっこいいよ!」
 しん、と沈黙が降りた。……失敗した。オレは真ちゃんがかっこいいと言いたかっただけなのに……。
 でも、ブロッコリーよりかっこいいなんて言われて喜ぶ人なんて少ないだろうな……オレがへたって落ち込んでいると。
 ガシッと真ちゃんに肩を捕まれた。
「それは本当か?」
「え?」
「オレはブロッコリーよりかっこいいか?」
「当たり前だよ! にんじんやじゃがいもよりもかっこいいよ!」
 我ながら微妙な褒め言葉と思ったが――
「かずなり!」
 真ちゃんがオレを抱き締める。真ちゃんのお気には召したらしい。
「にんじんやじゃがいもよりかっこいいって……それ、結局どのぐらいのかっこよさなんだ?」
「火神君、細かいことを気にしていると具がなくなりますよ。ただでさえ、大食らいが揃っているんだから」
「おめーも結構食ってんじゃねぇか。黒子」
「そうだぞ。テツ」
 青峰が言った。青峰はタイガと同じくらいの大食らい。
「このままでは青峰君と火神君に鍋の具全部取られてしまいますね」
 てっちゃんがはーっと溜息を吐いた。
「大丈夫っス。オレはモデルをっやってるんで体型には気をつけてるっス。あまり食わないようにしますから」
 と、黄瀬ちゃん。根本的な解決になってないような気がするんだけど。
「湯豆腐の方が良かったな」
 ご馳走になりながら鍋にケチをつける赤司。
「オレ、食えれば何でもいいけどー」と、ムッ君。
「アツシ、今、初めて君がまともなこと言ったような気がするよ。でも、大食らいは君も一緒だから」
「なぁにー? 室ちん、オレを馬鹿にしてんのー?」
「氷室サン、ムッ君、喧嘩やめて」
「ほっとくのだよ」
 真ちゃんはマイぺースにネギを口に運んでいる。うーん、やっぱり優雅とか、エレガントとか言う言葉がぴったり来そうだな。
「降旗はどうした?」
「オレの隣りにいるじゃないか」
 赤司の隣にはふるふると体を震わせているチワワの獣人が。
「はい。光樹。あーん」
「あ、あの……自分で食べれます」
「真ちゃん、オレにもあーんさせて」
「仕方ないのだよ」
 真ちゃんが口を開ける。オレがふうふうと息を吹いて冷ましてから、ホタテを真ちゃんの口の中に入れてあげる。真ちゃんも環境に順応するようになってきたかな。
「ほら、あいつらみたいに出来ないかい」
「出来ません出来ません」
 降旗は慌てて首を横に振る。進展ないのかにゃ。あの二人。――どうでもいいけど、頑張れ、赤司。
 今吉サンと花宮サンは年末の番組に呼ばれていた。下手に有名になると危ないよ、と言っても、今吉サンは笑って、
「今まで散々危ない目に遭うたんや。平気や」
 と、言っていたので、陰ながら活躍を応援することにした。でも、気になるんだよなぁ、有名人の遭った危難の話を聞いていたから。
 オレもよくテレビに出る気になったもんだ。もう出る気はないけれど。有名になって獣人の権利の為に戦おうって言ったって、今なら有名にならなくても戦う方法くらいわかるはずなのに。
(キミをテレビに推薦した人は、キミに対して済まないと言っていました)
 てっちゃん神様から聞いた台詞。何でオレに直接言わないんだろ。……何か理由でもあるんだろうな。近藤サンは外国の人だって言ってたけど。
 それに、選んだのはオレだから、済まながることもないのになーとも思う。
「おーい、具の材料買ってきたぜー」
 笠松サンがやって来た。
「笠松サン! 何夜道ふらふら出て行っているんですか! 笠松センパイは可愛いからいろいろ危ないんですよ」
 黄瀬ちゃんが叫ぶ。
「おめーが一番危ねぇんだよ!」
 笠松サンがどかっと黄瀬ちゃんを蹴った。
「オレもいるんだけどな……」
 みゃーじさんが荷物を抱えたまま突っ立っている。
「あ、宮地さん、入ってください。オラ、これちゃんと持て。黄瀬」
 何か、笠松サン、みゃーじさんと黄瀬ちゃんでは態度が違うんだけど……。笠松サン、ほんとに黄瀬ちゃんのこと好きなのかな。それとも、ほら、あれかな? ツンデレって言うヤツかな。
「もうすぐ新しい年だね。神社に初詣に行きましょうか」
 リコさんが提案する。
「さんせーい」
「いいけど……着物は家に帰らないとねぇぞ」
 タイガが言う。
「そうですねぇ……火神君の着物姿は様になるので皆さんにも是非お披露目したいのですが」
「んだよー、テツ。さらりと惚気てんじゃねぇぞ」
 青峰が笑い出す。あー、酔いが回ってんな。
「呉服屋に注文すると言っても今からじゃ間に合わないしな」
 赤司……わざわざ注文するのか……。
 めぼしい番組は観終わった。マー坊はテレビのチャンネルを回す。
 除夜の鐘が鳴って、今年は過ぎようとしています。来年もいい年になるといいね!

後書き
今は少々季節外れでしょうか。大晦日ネタ。
真ちゃんはもう成人でしょうか。どうだったかな。黒子はまだだよな……。
2019.10.29

BACK/HOME