高尾がジェラシー

「緑間君……! 私、緑間君のこと好きなの!」
 あ、まーた告白されてやがる、緑間のヤツ。
「残念だけど……オレには好きな人がいるのだよ」
 あれ、真ちゃん、こないだまで、
「恋愛にうつうを抜かしている暇はないのだよ」
 なーんてひでぇセリフ吐いてたけど、流石にそれだと相手が傷つくとわかって言葉を変えたのかな。確かに他に好きな人がいると言えば、無難に断れるもんね。
 あの女の子も諦めたみたい。
「よぉ、真ちゃん。モテんじゃーん」
「高尾……」
 勿論、女の子が去ってからオレは顔を出した。かなり可愛かったよなぁ……。真ちゃん、勿体ないでやんの。
「真ちゃん、好きな人なんていないくせに」
「何でそう言い切れる。オレとて木石ではないのだよ」
「だってー、真ちゃんに好きな人がいたらオレにはわかるはずじゃーん。何たってオレは真ちゃんの相棒なんだから」
「――本当にわからないのか」
「何が?」
 そう言う緑間の目はオレを睨んでいた。オレ、悪いこと言ったかな。
「……もう部活の時間なのだよ。早く行くのだよ」
 何かを誤魔化すように緑間は言った。
 何だー。あの態度。
 それに……オレだって心中穏やかではない。
 真ちゃんがモテるのは構わない。それはいい。真ちゃんは顔はいいし、育ちだっていいし、何よりバスケの才能に恵まれている。
 緑間真太郎を知った時、世の中にはこんなヤツもいるんだなぁ、と思った。オレだってまぁ、それなりだと自分では思うんだけど。真ちゃん程ではないけど、告白されたことだってあるし。
 でも、真ちゃんに好きな人……。オレは思う。誰だ、そのシンデレラガールは。
 真ちゃん、リコさんにはフラれたらしいし……てことになると、誰なのかなー。
「ねぇ、真ちゃん、真ちゃんの好きな人って誰。まさかまだ失恋のことひきずってんの?」
「そういう訳ではないのだよ。――オレの心はまだそいつには届いてないのだよ」
 そいつ? 恋している相手のことそいつ呼ばわりなんて酷くね?
 本当に誰なんだよ。気になって夜も眠れねぇじゃん。授業中寝てるだろってツッコミはお断り。
 オレの安眠の為にも、是非とも真ちゃんの好きな人の名前だけでも知りたいもんだ。
 でも――やっぱり踏み込み過ぎちゃいけないよな。
「真ちゃん、パス!」
 オレは真ちゃんにパスを回す。真ちゃんが放ったボールは見事な軌跡を描いてゴールに吸い込まれる。
 いやぁ、いつ見ても惚れ惚れすんね、真ちゃんのシュート。
「あいつら――化け物だ……」
「恨む……オレは緑間と高尾を敵に回したことを恨む……」
 チームメイトがオレ達を睨む。真ちゃんとオレのコンビに敵う者なし。
 だからさぁ……真ちゃん。そろそろ恋バナでもしようよ。誠凛のカントクさん以外に誰かいないの? もしかして身近な人?
 あーっ、わかった!
 ひなちゃんだ。そうでしょ?
 ひなちゃんなら腐女子だけど美少女だし、成績だって真ちゃんといい勝負だし、ね? そうでしょ? そうだと言って。
 でないとオレは――嫉妬でどうにかなりそうだから。
 ひなちゃんだったら許すよ、オレ。でも、他の人だったら……許せないかも。
 着替えの時にオレは言ってみた。
「真ちゃん。真ちゃんの好きな人って、ひなちゃん?」
 真ちゃんが怖い顔でこちらを見る。あ、もしかして当たり?
「オレ、ひなちゃんだったら応援するよ。でも、他の人はダメ」
 オレ、小学生のガキみたいなこと言ってんなぁ……。でも、オレは……真ちゃんが初恋だから。
 だけど、オレは男なんだ……。
 だから、代償行為ってヤツ? 緑間には誰もが認める女の子と結ばれて欲しい。その時はオレ、ひっそりと涙流して明日には元気で緑間にもひなちゃんにも「おはよ」って声かけるんだ。
「どうしたのだよ。高尾。顔色が悪いぞ」
「え? そう?」
「何かあったのか?」
「何もないよ。どうして?」
「――お前は本当にオレの相棒か?」
 当たり前じゃん。何当然のこと言ってんの? 確かにオレもこの頃表情優れないなぁって思ってたし、なっちゃんにも、
「どうしたの? お兄ちゃん。顔青いよ」
 って言われることも多いけどさぁ……。
 これも真ちゃんのせいなんだよ! わかってるの?!
「高尾――何かあったらオレに言うのだよ」
「ははっ。それ、こっちのセリフ」
 わかってない、真ちゃんは本当にわかってない。
 ――と思ったら壁ドンされた。
「オレでは力になれんのか?」
 なれる訳ないじゃん。オレが男を好きだなんて――天下の天才シューター、緑間真太郎が好きだなんて――。
 でも、ちょっと……困らせてみようか……。
「……オレ、好きな人がいるんだ……」
 さすがに相棒相手に嘘は吐けない。好きな人がいるのはほんとだもんね。
「誰だ、そいつは」
「――お前の知ってるヤツ」
 でも、やっぱり緑間が好きだとは言えなくて――。
 真ちゃんは少し考えるような素振りを見せて……
「宮地先輩か?」
 と言ってきた時にはオレものけぞった。
「だっははははは! 宮地先輩は男じゃん、違うよー!」
「でも、好きになったなら仕方があるまい」
「何でオレが宮地サン好き前提で話が進む訳?」
「お前ら、仲いいじゃないか」
「仲いいのと、好きとは違うよー。それに、宮地先輩もオレも、男だぜ」
「関係ない! 好きになったら、男も女も、関係ないんだ……」
 へぇー。真ちゃんて意外に進んでんね。もっと保守的かと思ってたのに……。
 オレが何となく真ちゃんを見つめていると、真ちゃんはふい、と顔を背けた。何だろ。この感じ。
 まさか……。
 認めるのが恐ろし過ぎてまさかまさかと思ってたけど……。
 真ちゃんの好きな人って……オレ?
 いやいや、それはない。でも、せっかくのチャンスだし、告っちゃおう。ホモだって言われてもそんときゃそん時だ。
「オレね、真ちゃんのことが、好きだよ」
 言った……!
 心臓ばくばく言ってる。このまんまマンガのように口から飛び出さないよね――オレの心臓。
 真ちゃんに辛辣なことを言われるのは、覚悟していた。けれど、真ちゃんは、
「それは、恋か?」
 と、更に訊いて来た。
 恋……うん、そうなんだ。ずっと前からわかってた。オレは――真ちゃんのことを考えながら、いつも、いつも――。
「真ちゃん……」
 覚悟していたはずなのに、断られるのが怖い。でも、このオレ、高尾和成だって男なんだ。
「恋だよ……」
 そしたら――真ちゃんの顔が近づいて、オレの唇に触れた。
「なっ……」
 初めてかもしれない。真ちゃんからのマジキスなんて。真ちゃんも真っ赤になってた。「行くぞ、高尾」といつものように歩き出す。
 へへっ。オレのジェラシー、杞憂だったみたい。オレが空想の恋敵にジェラシーを感じていたように、真ちゃんもジェラシーを感じていたのかな。
 だとしたら……何かちょっと、全てに感謝、かな。恋の神様だって思ったよりそう意地悪ではないかもしれない

後書き
2016年11月のお礼画面小説です。11月は高尾ちゃんの誕生月なのだ。
2016.12.2

BACK/HOME