黒子じゃないけど

「あ、ああっ!」
 オレははしたないくらい大きな声を上げた。真ちゃんが肩で息してる。重たい緑の髪に白い顔が映える。真ちゃんは睫毛が長い。イケメンと言うより、美人と言った方がいいかなぁ。
「――イッたな。高尾」
「ああ……イッたね」
 真ちゃんは安堵の表情をその綺麗な顔に浮かべていた。
 初めての時、オレが射精をしなかったので心配したらしい。オレとしては、ドライでイッたんだろうな――と後でいろいろ調べて見当つけたけど。
 でも、出すもん出すとやっぱ気持ちいいぜ……!
「高尾……この間より――良かったのだよ」
「うん……オレも」
 何だかこういうのにも慣れってあるらしい。真ちゃんの体にオレは慣れつつあった。生まれつき娼婦の体なのか真ちゃんとは相性がいいのか――。
 運命の出会いだね。真ちゃん♪
 バスケでも人生でも、相棒になれたらいいな。バスケでの相棒は既になっているから、今度は人生の――かな。
 勿論、真ちゃんの自由を奪うつもりはないけれど。
 ちゅ。真ちゃんがキスしてくれた。嬉しい。二人きりのところでしか見せないデレ。
「この時が永遠に続けばいいな……」
 うっわー、くっさいセリフ! でも、真ちゃんに言われると、うん、と頷きたくなるのがオレの性。
 ちょっと匂いがこもって来たから窓を開ける。オレ達は後始末して着替えた。
「そろそろ妹ちゃん帰ってくる時間だから」
「ああ……」
 そうして、オレ達は口づけをした。

「ただいまー」
 可愛らしい女の子の声。なっちゃんだ。オレの妹ちゃん。
 うう……情事の後だってバレなきゃいいな。真ちゃんはお前の家まで汚したくない、またホテルの部屋でもとろうか?――なんてよくわからないこと言ってたけど。オレの家で真ちゃんとエッチしたらその場所が汚れるという発想がわかんない。でも、一旦なだれ込んでしまえばそんなことは関係ない。
「こんにちは。真太郎さん。来てたんですね」
「ああ。夏実。久しぶりだな」
「えー? この間も会いましたよー」
 なっちゃんが朗らかに笑う。真ちゃんもそれを優しい目で見つめている。
 …………。
 真ちゃんとなっちゃん、お似合いだな。真ちゃんとなっちゃん。そして、オレと春菜ちゃんだったら、似合いのWカップルだったんだろうな。でも、オレは真ちゃんが好きで、春菜ちゃんはなっちゃんが好きで――。
 ああ、もう――どうしてこんなに上手くいかないのだろう。神様はイジワルだ。
「夏実。高尾、借りてくのだよ」
「私も高尾なんだけど――」
 なっちゃん、そこでお約束のツッコミしないの! ――まぁ、でも、言いたいことはわかる。
「わかった。――行くぞ。和成」
「え? あ、うん……」
 オレはバッグを持って外へ出る。
「寒いな」
「うん」
「――高尾。こっちに来い」
 真ちゃん、デレる。
「えー?」
「何が『えー?』だ」
「真ちゃんがデレると何か調子狂う。初めは面白かったけど」
「くだらん、何がデレだ」
「んで、何? さっきの続きでもすんの?」
 真ちゃんの顔が赤くなった。どうやら図星らしい。
 真ちゃんてウブなんだか肉食系なんだかわかんねぇな。
「お前は――あれで満足か?」
「満足かと言われれば――そうねぇ、もっと抱き合いたい。きゃっ。言っちゃった☆」
 オレは顔を隠す。勿論冗談ぽく。
「――ホテルに行くか?」
「金ねぇもん」
「オレが払う」
「ねぇ、オレ達まだ学生よ? 無駄遣いしちゃいけないよ」
「お前を抱けるんだったら無駄遣いではない」
 そうして真ちゃんは口元を覆った。
「真ちゃん……」
 愛されているんだなぁという思いと、男たるもの、一度は真ちゃん――緑間真太郎を抱く方に回りたいなという希望がぐるぐるする。
「まぁ、いいか。――お前といる場所ならどこでも、オレにとっては快楽の園なのだよ」
「…………」
 オレは今、最大級のデレに頭が混乱している。
 バスケをやってる時も、そんな風に考えてたの? 真ちゃん。――宮地サンが怒りそうだな。
 うん。絶対怒る。何不謹慎なこと考えてるんだ、轢くぞ――って。
 うわー、簡単に想像できちゃう! リア充爆発しろとか、パイナップル爆弾とか。
「オレ、まだ死にたくないよー」
「何を想像してるんだ! 高尾」
「ですからね、真ちゃんの台詞でオレ達センパイにリンチされないかと思って」
「その心配はない。秀徳の先輩は皆いい人達だ」
 まーそうなんだけどさー……。
 宮地サンあたりなんかは軽く首絞めくらいするかもしれない。幸せだけどさ。
「真ちゃん、言ってて恥ずかしくないのー?」
「恥ずかしい。だから、練習したのだよ。恋人を口説く方法を」
 どんな練習したの? 真ちゃん……。
「しっかしねぇ……真ちゃん、今回はまた盛大にデレましたこと」
「ふん……」
「あ、怒った? ねぇ、怒った?」
「――お前の真似をしたまでなのだよ」
「へ?」
「お前はいつも好きだの愛してるだのと恥ずかしいことをのたまうから――」
「真ちゃんだってそうじゃん」
「本当のことだから仕方ないのだよ」
 矛盾してる。むぅ、真ちゃん矛盾してるよ、それ。真ちゃんの言ってることの方が、オレの何十倍も恥ずかしいよ。
「オレには恋人がいたことがなかったからな」
「あー、わかる気がする。バスケが恋人、でしょ?」
「――ちょっと違うのだよ」
「どう違うの?」
「説明するのは難しい。だが、お前や黒子のおかげで――バスケをするのが少しは楽しくなったのだよ」
 また、黒子か。オレも今は黒子がそう嫌いではないんだけどね。
 ねぇ、知ってる? オレがどんなに黒子に憧れているか。真ちゃんがオレのこと好きなのも本当だよね。でも、真ちゃんの心の中には黒子もいる。
 真ちゃんはきっと、中学時代は青峰が、高校に入ってからは火神が羨ましかったんだろうね。オレを相棒にしたのもその延長線上で――。
 真ちゃんが欲しかったのはきっと――気の置けない相棒なんだね。いっそ下僕扱いの方が良かった。オレはきっとMなんだ。
「高尾?」
 オレの様子が変なのがわかったらしい。真ちゃんが首を傾げる。
「どうせオレは黒子じゃねぇよ」
 そう吐き捨てるように言った時、花の香がした。真ちゃんがオレを抱き寄せたのだ。
「当たり前なのだよ。お前がどうしてそんな当然のセリフを吐いたのかわからんが――」
「ん……黒子に妬いてんだよ、オレ」
「バカなことを。今のオレにはお前しか見えないのだよ……」
 ――真ちゃんはオレのデコにちゅーをした。周りの風景など見えない。――何だかドキドキしてきたよ、オレ。
 オレにもお前しか見えないよ。緑間……真ちゃん……。オレは黒子じゃないけど、そばにいても、いいよな……。
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後書き
えちシーンがあるので、18禁。ぬるいのではありますが。
ちょっと黒子を意識する高尾ちゃん。
2019.12.12

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