今だけは優しく

「ふー……」
 オレは深呼吸した。真ちゃんも同様だ。
「行くぞ、高尾!」
「おう!」
 じゃんけんぽん!
「ま、負けた……」
「ふふん。いつも人事を尽くしているオレに死角はない」
「あーあ。こういうことになるだろうとは思ってたけど」
 じゃんけんで負けた方が抱かれることになるのは前々から予想していた。だから、オレは数日前から男同士のエロについて書いた本を読み、アナニーだってしたのだ。
「ねぇ、真ちゃん……」
 オレはもじもじしながら言った。
「優しくしてね……」
 冗談のつもりだった。だが、真ちゃんは真っ赤になった。こんなんで大丈夫かなぁ……。
「あ、ああ……当たり前なのだよ」
 真ちゃんはテーピングを外した。
「もしかして、その指、入れんの?」
「悪いか?」
「でも――あそこに、だろ? 汚いとは思わねぇ?」
「思わん! たかが尻の穴だろう」
 真ちゃんたら……。
「それに、他のヤツだったらともかく、お前の秘処だからな」
「真ちゃん!」
 オレは一気に真ちゃんが愛しくなった。
 キスをしながら服を脱いだオレ達は横になった。
「挿れるぞ、高尾」
「うん……」
 真ちゃんの綺麗な指が、オレの汚濁されたところに入る。――オレだって綺麗にはしてますよ。勿論。じゃんけんで真ちゃんに負けるのはまぁ、わかってたし。
 でも、真ちゃんの指が入るとなると――。
「うっ!」
「どうした? 高尾」
「ううん、続けて……」
 真ちゃんの指が三本くらい入る。それらがオレの奥を丁寧に解きほぐしてくれる。
「しん、ちゃん……」
 排泄感がせりあがる。――卑俗な言葉でごめんよ。でも、そのうちに慣れ、快感が押し寄せてくる。背筋が戦慄く。
「高尾……」
 真ちゃんの声がうわずる。
「お前を感じたい……」
 ぞくっとするほどいい声……。
「うん、いいよ……」
 指なんかとは比較にならないほど質量のあるあれがオレの中に入ってくる。
「うん、やっ……!」
 真ちゃんのモノがいいところをがんがん突いてくる。
 真ちゃん上手い……。ほんとに初めてなの?
「真ちゃん……ほんとに初めて?」
「何を言ってるのだよ。お前こそ、そんなやらしい体して……お前こそ初めてなのか?」
 カチン。ちょっと頭に血がのぼる。
「初めてに決まってんだろ?!」
「オレも初めてなのだよ……!」
 確かに、真ちゃんは経験ありにしては余裕がない。本当に初めてらしい。でも……気持ちいい。
 イヤらしい蜜がオレの先端から溢れてくる。
「あ、あん……」
 つい、はしたない声を出してしまった。真ちゃんは言った。
「高尾……もしお前が初めてなら……お前は生まれながらの傾国の体なのだよ――」
「んなこと言われても嬉しくね――あ、ああっ!」
 真ちゃんの質量が大きくなる。そして、真ちゃんの欲望が放たれた――ようだった。コンドーム使ってたから、様子で、(ああ、真ちゃんイッたんだな――)とわかったんだけど。
「ん……!」
 気持ちいい。だけど――オレは最後までイくことができなかった。二回目も三回目も同様で――オレは満足したけど、真ちゃんは気にかかったらしい。
「高尾……お前、いかなかったな」
「うん……オレ、初めからイくとは思ってなかったし……」
 はぁはぁと熱い息を吐きながらオレは答えた。――真ちゃんが口を開く。真ちゃんにしては珍しく遠慮がちに。
「高尾……オレは、経験もないし、慣れてないから――お前が感じたかどうかわからないのだよ」
「それでも、初めてにしては上手いと思ったし、優しくしてくれたじゃん」
「だが、オレばっかり快感に酔って……お前に快楽を感じさせられなかったとは」
「ん……でも、気持ち良かったよ」
「気を使ってんじゃあるまいな」
 真ちゃんのその台詞を聞いた時、オレはふっと吹き出した。
「今更真ちゃんに気を使ってどうすんの」
「だけど、お前はその――不能なわけじゃないだろう? エレクトはしたし」
「ああ。セックスは初めてだけど――多分不能じゃないと思うよ」
 最後までイかなかっただけ。つか、少し失礼な質問だよ。真ちゃん。
「簡単にイくには気持ち良過ぎたってこと」
「高尾……!」
 真ちゃんはオレを抱きしめた。
「お前のことは――大切にするからな」
「へへっ。なんかプロポーズみてぇ」
「プロポーズでも構わないのだよ……」
 初めてが真ちゃんで良かったなぁ、オレ。真ちゃんファンにボコボコにされても仕様がないかな。でも仕方ない。幸せなんだもん。
「今からでもいかせてやろうか?」
「あんがと。でもオレ、ちょっと疲れたし――今は余韻に浸っていたいし」
 オレが初めて真ちゃんとの交合でイッたのは次のデートの時――今日みたいなホテルではなく、オレの部屋でのことだった。遠慮する真ちゃんを一生懸命説得して……。まぁ、それは閑話休題っつーの? 余談なんだけど。
「高尾、お前の体は絶品なのだよ」
 真顔でそう言われてどう反応していいかわからなかった。
 ありがと、でも変だし、そうかよ、というのも、せっかく褒めて(?)もらったのにあれだし――。そもそも真ちゃんだって初めてなのなら――それが嘘じゃなければ――比較する対象がないじゃん!
「オレにはよくわかんねぇや」
 と、いう他なかった。
「また、抱いていいか?」
「じゃんけんに勝ったらね……」
「負ける気はしないのだよ。オレが尽くしている人事と、お前に対する愛があれば無敵なのだよ」
 愛、ね……。
 真ちゃんが素直に答えるとは思わなかったけど、一応言ってみた。
「真ちゃん。オレのこと愛してる?」
「愚問だな。愛してるに決まってるだろう」
 ――何と! ほんとに素直に返ってきた!
 えへー。高尾ちゃん嬉しい。にやけが止まんないぜ。全く、真ちゃんてばもう。こんな時にデレるんだからぁ。
「オレも愛してるよー」
「ふん。貴様の愛してるは信じることができないのだよ。――いつだったか大坪先輩にも言ってただろう。愛してるって」
 あちゃー。聞かれてたか。
「でも、重みが違うの!」
「――わかっているのだよ」
 オレは、痛む腰を抱えて家に帰った。オレは、オレの自身に『真ちゃんが心配するから、この次はちゃんとイこうな』と話しかけた。

後書き
18禁。初めての二人。緑間と高尾。
高尾はきっとドライでイッたのでしょうね。
高尾ちゃんの息子は、今度は言うこと聞いてくれるでしょうか(笑)。
2019.12.01

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