来年もいい年でありますように

 緑間真太郎と高尾和成は、お好み焼き屋で顔を見合わせていた。
 それは、緑間達秀徳高校がインターハイ予選トーナメントの決勝戦で誠凛に負けた時に緑間と高尾が立ち寄ったお好み焼き屋だった。
 あの時は集中豪雨がすごかった。帰る時にはもう晴れ上がっていたが。
「オレ、あの笠松さんと話しちゃったんだよね~」
「そんなに笠松さんがいいなら彼と来れば良かっただろう」
「真ちゃん……もしかして妬いてる?」
「――バカなことを」
 そう言いながらも、緑間は不機嫌な顔でお好み焼きを口にしている。
「オレ、やっぱり真ちゃんと来れてよかったよ。――もんじゃ食わね?」
「もんじゃはゲ○みたいだから食う気がしないのだよ」
「えー? 美味しいよ?」
「それでも食う気がしないのだから仕方ないだろう」
「んー、まぁ、オレも無理強いはしないけどさ」
 高尾ももぐもぐとお好み焼きを咀嚼している。
「今年も終わりだねぇ……」
「――そうだな」
「まさか、真ちゃんがオレの誘いに乗ってくれるとは思わなかったぜ」
「家にいても退屈なだけだしな」
「真ちゃん……いい家族がいるのに……」
「お前の家族もいい家族なのだよ」
「ありがと。なっちゃんも喜ぶよ」
「……そっか」
「あー、嬉しそう! やっぱり真ちゃんはなっちゃんが好きなんだぁ!」
「戯言を言うなとさっきから言ってるだろう」
 それに――オレの好きなヤツは今、向かい合ってるお前だ。
 そう言いたいのだが、なかなか言えない。
(ちっ、高尾の軽さが羨ましいのだよ)
「あー、高尾」
「ん? なぁに?」
 高尾はお好み焼きを頬張っている。
「今年は……いろいろあったな」
「そうだね。会った時はお互いあまりいい感情持ってなかったみたいだけど――。憎んで、愛して、笑って――オレはいつの間にか真ちゃんの相棒になって……」
「一方的に憎んでたのは貴様だろう」
「そうだね。でも、今は――愛してる」
「――ふん」
 オレもなのだよ。その一言が出てこない。
「オレ、真ちゃんと会えてよかった」
 高尾がにこっと笑った。
 ああ、オレも――。
 高尾がいるから、今のオレがいる。ウィンターカップでは洛山に負けたけど。
「来年は、あいつらに勝つ!」
「そうだね。オレも負けないよ。――正月終わったら練習がんばろうね」
「無論なのだよ」
 オレ達は、負けない。
 たとえどんな強敵が待ち構えていようとも。
 今年は優勝を逃したが、高尾がいれば。
「今年は楽しかったなぁ。オレ。悔しくもあったけど」
「そうだな。でも、共に泣ける仲間がいたから、オレは立ち直れたのだよ」
「真ちゃんも言うねぇ」
 高尾はお好み焼きをへらで切り分ける。
「紅白も観たいし、『ゆく年くる年』も観たいけど――どっちの家に行く?」
「オレは――またおまえの家に行きたいのだよ」
「わかった。その後、初詣ね」
「朝日の出も見たいのだよ」
「んじゃ、バスケ部の皆に連絡を――」
 高尾はスマホを取り出す。
「――待て」
「何?」
「その……初詣にはお前と一緒に行きたいのだよ」
「真ちゃん――」
 高尾の頬が紅色に染まった。
「うん……いいよ」
 緑間の顔も緩んだのが自分でもわかった。
「んじゃーさー、オレ達がお好み焼き屋にいるってことは伝えていい?」
「――構わないのだよ」
「あは。宮地サン辺りに『リア充爆発しろ!』なんて返事が来たりしてね」
 リア充か……そうだな。
 緑間が高尾の言葉に心の中で頷いた。
 思えば、高尾は「おは朝なんて信じない」と言いながらも、ラッキーアイテム探しには、必ず付き合ってくれていた。
 オレの隣にはこいつがいることが自然になっていた。
 運命の出会い、というヤツなのかもしれない。
 高尾が、
「真ちゃん」
 と言ってくれる度に、オレはこいつが好きなのだと思いながら、
「高尾」
 と、返す。
 今年で一番の収穫なのだよ。
 高尾が言った。
「来年も宜しくね。真ちゃん」
「もう後数時間で今年も終わりなのだよ」
「オレ、真ちゃんに会ったことが今年で一番嬉しいことだよ」
 ――そうか。お前もそう思ってくれるか。
 緑間は高尾に目を当てた。高尾はスマホで写真を撮っている。
「ほら、真ちゃん。はい、ポーズ」
「あ、ああ……」
 緑間と高尾のツーショットを高尾がバスケ部の先輩達に送る。
「わっ! 返信が来た! 宮地サンからだ! 『リア充爆発しろ!』だって。期待を裏切らない先輩で良かったね。真ちゃん」
 高尾がくくく……と笑っている。高尾は笑い上戸なのだ。
 鉄板に乗っていたお好み焼きも残り僅かになっていた。
「お酒もあれば最高なのにね」
「オレ達はまだ未成年なのだよ」
「オレ、親父の晩酌に付き合ったことあるよ」
「即刻やめるべきだな」
「うん……真ちゃんが付き合ってくれるなら」
「二十歳になるまで待つのだよ」
「へぇっ! 真ちゃん、二十歳になるまで付き合ってくれるの?! 嬉しいな!」
「お前が心変わりしないならな」
「しないしない。真ちゃんもしないよね?」
「――先のことはわからないのだよ。でも、しないと思うのだよ」
 緑間がそう言うと、高尾はへらりと笑った。緑間は思った。今年はなんだかんだあってもいい年だった。――来年もいい年でありますように。

後書き
私も今年はいい年だったな。そりゃ、いいことばかりでもなかったけど。
それも、皆様のおかげです。後、萌えのおかげでもあります。
黒バスとの出会いは去年だったな……杏里さん、黒バスの存在、教えてくれてありがとう!
それでは皆様、良いお年を!
2014.12.31

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