冬空デート

「天才ってどういうものか知ってるか? 高尾」
 いきなり謎々か? 真ちゃん。
 オレ、高尾和成は相棒の緑間真太郎の突然の問いに頭を傾げた。
「しーらねーよ。オレ、天才になったことねぇもん。真ちゃんは天才だけどぉ」
 後半の部分は別に嫌味ではない。真ちゃんは本物の天才だ。それこそ、何年かに一人の――。
「オレは、天才は孤独だと思っている」
「真ちゃん……そんなこという為にわざわざオレを呼んだわけ?」
「――違う」
 真ちゃんはオレの顔を両手で挟んで瞳を覗き込んで来た。冷たい手。――緑色の瞳。真ちゃんの瞳が間近に迫る。
「目、閉じないんだな」
「え、いやいやいや」
 真ちゃん、もしかしてオレにキスしようとした?
「まぁいい」
 真ちゃんはオレの頬から手を離して、踵を返して先に立って歩き始めた。
 ったく、勝手なヤツ~。
 オレをこんなにドキドキさせて……。
「今までオレは孤独だった」
 何それ。自分が天才だって自慢したいわけ?
「けれど――オマエに会えて良かったのだよ。もうオレは孤独じゃない。高尾――ありがとうなのだよ」
 真ちゃん……今日はデレが多い日だなぁ……。
「オレも……真ちゃんに会えて良かった」
 そして背後から抱き着く。
「わっ! 高尾っ!」
「へっへっへー」
「何するのだよ!」
「真ちゃーん、大好きっ!」
「オマエは本当に軽いな……」
 軽いって……性格のことだよな。体重のことじゃねぇよな。真ちゃんは鍛えているだけあって、オレより体格いいもんな。
「だって、真ちゃんは超がつくほど真面目だもん。相棒のオレは軽いくらいがちょうどいいの!」
 真ちゃんのシャンプーの匂いが香る。やっぱ、いい匂いだなぁ……。オレをくらくらさせる匂いだ。
「今日は寒いけど……あったかいな」
「えー? 何それ」
 オレは笑う。寒いけどあったかいって、また謎々か? 真ちゃんて謎ばかりだな。謎なことばかり言うし、謎な行動するし。――相棒のオレもたまについていけなくなる時があるよ。
 あー、謎だー。
「真ちゃんて謎だよなー」
「――どこがなのだよ」
「あー、全部?」
「そうか……でも、オマエには理解してもらえてると思ったのだがな……」
 あれ? 真ちゃん、落ち込んだ?
「でも、そんなとこ、好きだぜ」
「物好きなのだよ……」
「ねぇ、真ちゃん、恋人繋ぎしない?」
 どうせ断ると思ったが、
「やらんこともないのだよ」
 えええええ?! また真ちゃんがデレた!
 真ちゃん、デレること多くなったなぁ……。ちょっと笑ってるし。
 なんか、こうして見ると――真ちゃんて可愛いな。
「高尾……さっきから人がこっちを見ているような気がするのだよ」
「あー、そうだねー」
 大の男が恋人繋ぎしてんだ。そりゃ目立つだろうな。それだけじゃないのかもしれないけど。
 やっぱ、真ちゃんのせいかなー。
「高尾、オマエ、人の視線に気づかないのか?」
「あー、気づいてる、気づいてるよー」
「へらへらするな、なのだよ……」
「いいじゃん、人は人でさー」
「あの男……さっきからオマエを見ているのだよ」
「違うよぉ、真ちゃんだよー」
「あ、あの……」
 全身白づくめの白兎みたいな格好をした中学生ぐらいの美少女がオレと真ちゃんに声をかけた。
「あのー、すみません。ここで、何か映画のロケとかしてるんですか?」
「映画? ロケ?」
 真ちゃんが面食らっている。悪いが正直にやけてしまう。
「お嬢さん、オレ達ただ歩いているだけだぜ」
「だって……二人ともかっこいいから、もしかしたら――って。でも、そういえば撮影機材とかもありませんよね……あの子は動画撮ってますけど」
 そういえば、さっきからいるな。動画撮ってるちょっとかわいこちゃん。
「あははは。オレ達デートしてるだけだよー。ね、真ちゃん」
「あ、ああ……」
「デートなんですか?! 日本でこんな美味しいシーンに出会えるとは思いませんでした! 写真撮らせてください!」
「は、はぁ……」
「いいじゃん、真ちゃん♪ お嬢さんも一緒に撮ろうぜ」
「あ、でも、お先にお二人から」
 オレはノリノリで笑顔でピースした。女の子がスマホのシャッターを切る。
「こんな感じでどうでしょうか」
「見せて見せて」
 そこには、満面の笑顔のオレと、どこか照れくさそうにそっぽを向いている真ちゃんの写真が。
「真ちゃんー。もっと笑わないとダメだよー」
「あ、いいんです。これで。ツンデレって美味しいですよね」
「だよねー」
 オレと白兎の女の子は話が合いそうだった。しかし、ホントに増えたなー……腐女子。オレのクラスメートにもこういう人、いるし。
 今度は真ちゃんと彼女、彼女とオレという風に入れ替わりに写真を撮った。そして最後は三人で。
 カシャッ☆
 女の子は画像を見て溜息をつきながら言った。
「私、もうすぐイギリスに帰らないといけないんです。今日はいい思い出ができました」
「イギリスねぇ……」
 どこか品があると思ったら、イギリスに住んでいるのかよ……。日本人ではあるようだが。
「君んちってもしかして金持ち?」
「高尾……!」
「は……いえ。普通の家だと思いますが」
「帰国子女ってヤツ? オレ達の知り合いにもアメリカから来たっていうヤツいるぞ」
「あいつの話はするな、なのだよ……」
「何やってんだー。オマエら」
「火神! そして黒子! 噂をすれば何とやらだな」
「お久しぶりです。高尾君、緑間君」
「行くぞ、高尾」
「あっ、待ってよ。真ちゃん」
 オレが振り返ると――さっきの女の子が火神と黒子にいろいろ質問攻めにしていた。フンだ。女なんて。
 けど、楽しそうだから良しとするか。
 真ちゃんが隣で軽く微笑んだ。
「オマエといると退屈しないな」
 それってどういう意味だよ……。でも、オレも確かに真ちゃんといると退屈しねーな。いろんなことが後から次々に起こるもんな。
 真ちゃんにはもう、『天才は孤独だ』なんて言わせねーぜ!
 その後、「写真撮らせてください」とおずおずと希望してくれた人が何人か。オレも一応入ったけど、みんな真ちゃんが目当てなんだろうなぁ。――いい男は得だね、真ちゃん。
 高尾ちゃんはちょっと寂しいのだよ。真ちゃんを独り占めできなくて。
「あー、真ちゃんは人気者なんだなー」
「何を行っている。目当てはオマエなのだよ」
「ん?」
 女の子達がきゃいきゃい騒いでいる。
「きゃー、写真撮っちゃった」
「緑色の髪の人、イケメンよねぇ。黒髪の子も可愛い」
「どっちもイケてるよねぇ。美少年コンビ?」
「……彼女達はオレ達二人が目当てだったのか……」
 真ちゃんがほっとした様子で呟いている。
 オレと真ちゃん。どちらが二人が欠けてもいけない。
「オレら、柳川鍋みたいなもんだねー。どじょうとごぼう、どちらがなくても成り立たないってヤツ?」
「そうだな……」
 真ちゃん、素直に頷いている。や、やっぱデレられるとまだ恥ずかしいな……。
「急に柳川鍋を食べたくなったのだよ。ここら辺に柳川鍋が美味しい店があるのだよ」
「へぇー」
 意外に何でも知ってるんだな。真ちゃん。
「じゃ、おごってやるよ。お年玉たんまりもらったから」
 オレが言うと、真ちゃんが、
「まぁ、始めからオマエにおごらせるつもりでいたがな」
 と、アルカイックスマイルを浮かべた。う、イケメンなだけに迫力満点……。
 ま、いいや。いくつになっても破れ鍋に綴じ蓋で行こうぜ! 真ちゃん!

後書き
真ちゃんと高尾のデート。
冬空デートという割には、冬の描写が少ない……。ちなみにこれを書いたのは一月でした。
たかみどもみどたかも大好き!
2014.2.17


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