惚れ直したぜ! 真ちゃん!

 この春、オレは今度もまた真ちゃんと同じクラスになった。
 同じクラス。同じ科目。同じ部活。
 このオレ、高尾和成の毎日は緑間真太郎で埋まっていた。
 ただ、困ったことがひとつ――。
 真ちゃん……前髪切っただけであんなに老けるなんて……!
 オレは真ちゃんの美貌が~、と、いつも騒いでひなちゃんに呆れられている。勿論、緑間本人がいないところでだ。
 そりゃまぁ、どんな真ちゃんでも好きは好きよ。だけど……。
 毎日見る顔は美人の方が絶対いい! 美人は三日で飽きるなんてそりゃ嘘だ!
 はぁ~、一年の頃の真ちゃんは美人だったなぁ……。中学時代の真ちゃんも美人だった。つか、可愛かった。卒アル見せてもらったけど。
 オレは一人寂しく過ぎ去りし日の追憶を重ねていた。
 でも、部活の時は――(あ、そうそう。オレ達バスケ部なんだ)。
 シュートを撃った時の真ちゃんの前髪がふわりと浮く。普段はぺたっとしているのに。激しい運動なんかした後の真ちゃんの髪は乱れていて色っぽい。
 オレはそれを見て目の保養にしてる。だって貴重だもん。
 さあて、今日も今日とて楽しい部活――。
 オレが真ちゃんに見惚れていると。
「ぶっ!」
 バスケットボールが勢いよくオレの額に直撃した。
 何か前にもこういうことあったなぁ……。
「高尾、大丈夫か!」
「うん。ばっちし大丈夫」
 オレは真ちゃんに親指を立てた。でもいてぇ……。
「保健室に行くのだよ!」
「うん……」
 保健室に行ったら、先生はいなかった。オレは勝手にベッドに寝かせてもらった。
「お前はよくよく運がないのだな。だから、人事を尽くしておは朝のラッキーアイテムを身に着けていれば……」
 真ちゃんは寝ているオレに説教したが、オレは半分以上聞き流していた。
 近所のリーマンに説教されてるとしか思えねぇ……!
 前は真ちゃんといるだけで萌え萌えだったけど……う~ん……。キセキの美人シューターの名を恣にした緑間真太郎が、髪型のせいでだいぶ損している。
 やっぱ今の真ちゃんじゃ萌えないなぁ。下睫毛は相変わらずだけど。
「なに渋い顔しているのだよ」
「別に」
 あ~あ。横顔は相変わらず綺麗なのになぁ。この髪型で高校生なんてサギだぜ。それに――真ちゃんの今の前髪は誠凛の相田リコ監督を思わせる。真似しているわけじゃないんだろうけど、真ちゃんが好きなオレとしては複雑な気分だ。そりゃ、リコさんはキュートな女の子だけれど。
 でも、あれ?
「真ちゃん、部活戻らなくていいの?」
「お前が怪我をしたのに放っておけるか」
 真ちゃん、今の……デレ?
「ちょっと待ってろ」
 真ちゃんはたらいを持って水を汲んでくると、真新しいタオルをしぼってオレのたんこぶの上に置いた。
 つめたくてきもちいー……。
「落ち着いたか?」
 オレを見る眼鏡の奥の優しい目。何だか懐かしい。
 というか、真ちゃんは前髪以外何も変わってなかったんだ。それなのにオレは――。
「普段なら病院行け!と言うとこだけど、オレもお前と話がしたかった」
「何? 真ちゃん。話って」
「お前、オレのこと嫌いになったんじゃないのか?」
「ブフォッ!」
「オレに対しても、部活の時以外は妙によそよそしいしな。他の奴らにはそうではないのに」
「――真ちゃん、寂しかった?」
「いや、その、寂しいとか言うのではなくてだな――いや、やはり寂しかったのかな……」
 珍しい。真ちゃんが慌ててる。
「その――何かオレに気に入らないことがあったのかと」
「ばーか」
 オレは起き上がって真ちゃんにデコピンした。濡れタオルがずり落ちた。あ、この髪形デコピンしやすいな。
「気に入らないことっつっても、真ちゃんが悪いわけじゃねぇよ。悪いのはオレだ」
 この間まで、あんなに真ちゃん真ちゃん言ってたのに、言わなくなったのは――。
 その……真ちゃんがこんな髪型になってしまって……でも、真ちゃんならどんな髪型でもOKと思ってたのに……。
 結局オレも、真ちゃんの外見だけ見ているミーハー女子と同じだったんだな。でも――。
 真ちゃんの優しいとこ、わかりにくいけど優しいところはそのまんまだ。ピュアなところも、人事を尽くすのに一生懸命なところも。
 全部全部大好きだ。
「真ちゃん……好き」
「なっ!」
 真ちゃんが動揺する。可愛い――。おかしいね。あれだけ新しい髪型が気に入らなかったのに、可愛い、なんて。
「好きならどうしてすげない態度をとるのだよ」
 すげない態度? とったっけ?
 そりゃ、前より真ちゃんに纏わりつくことはなくなったけど。てっきり解放されて清々してんじゃないかと思ってはいたのだが。
 ああ、そうか。真ちゃんのこの前髪のせいか――。オレに断りもなく切ったから……。
 オレは真ちゃんの緑色の前髪を引っ張った。
「いてっ!」
「――流石にヅラじゃない、か」
「当たり前なのだよ!」
 真ちゃんが怒った。が――。
「いつもの高尾に戻ったのだよ」
 と、ちょっと嬉しそうに言う。真ちゃんにどう見られてんだろ。オレ。
「オレさぁ……真ちゃんの外見変わってちょっと戸惑ってたんだよ。ごめんな――でも、今回は惚れ直したよ。タオル、ありがと」
 オレはタオルにキスしてやった。真ちゃんはきまり悪げに視線を逸らす。
「オレ、真ちゃんだったらよいよいのじじいになっても愛せる自信ありますぜ!」
「その時はお前だってじじいなのだよ。それにその……年を取ったらお前を可愛がることもできなくなるかもしれないのだよ」
「やだなー、真ちゃん。意外にスケベなんだから」
 オレはバンバンと真ちゃんの肩を叩いた。
「う……お前ほどではないのだよ」
 まぁ、真ちゃんもお年頃ですからねー。見た目はリーマンだけど、もう少ししたら髪も伸びてくるはず。それに、オレがスケベだと言うのも否定はできないし。
「いいじゃん。共白髪。その時は膝枕で我慢しますわ」
「――そうか」
 真ちゃんがにこっと笑った。可愛くなったような気がした。
 あ、これはこれで悪くないかも。
「真ちゃん。写真撮ろうぜ写真。愛が深まった記念にさ」
「愛が? 深まった……?」
「いいのいいの。これはオレの記念だから。荷物体育館だろ? 一緒に行こうか」
「お前の荷物なら持ってきているのだよ」
 さすがだ。真ちゃん。でも、エース様に荷物持ちさせるなんて、オレもいいご身分になったよなぁ。
 スマホを取り出して、
「はい、チーズ☆」
 と言ってシャッターを切った。
「真ちゃん、笑えよー。証明写真みたいな顔じゃね?」
「同じようなことを桃井にも言われたことがあるのだよ」
 桃井サン……元帝光中で桐皇のマネージャーか。巨乳で可愛いって人気あるんだよな。……真ちゃんも密かに憧れたりしたのかな。
「でも、笑えと言うなら人事は尽くすのだよ」
「いいから。無理しなくても。あ、でももう一回撮らせて? 後でプリントアウトして真ちゃんに渡すから」
 ――写真の中の真ちゃんは困ったように笑っていた。少なくとも、さっきの証明写真の顔よりは生き生きとしていた。
 青春の思い出だもん。大事にするね、真ちゃん。

後書き
『髪切った真ちゃんに戸惑いを隠せない高尾シリーズ(長い!)』、高尾が緑間に惚れ直した話です。
シリーズですが、一話一話がそれぞれ別々に独立しています。
んで、この話。
青春ですね~。時々こういう話書いてみたくなります。つか、いろんな話を書いてみたい。
2015.9.12


BACK/HOME