秀徳の光と影

『秀徳の光と影』
そんな文字が掲示板の壁新聞の見出しとして堂々と躍っている。緑間真太郎はそれを眺めていた。
「あ、緑間君」
「ひな子……」
「その記事私が書いたの。気に入った?」
「『秀徳の光と影』というのは?」
「えへへ。実はそれ、私が考えたんじゃないの。トイレ行って迷ってたら、『秀徳の光と影……か』という声が聞こえてきたから」
「なるほど。ひな子にしては出来過ぎだと思ったのだよ」
「どういう意味よ。あ、高尾君おはよ」
高尾和成が手を上げた。
「はよ」
「ねぇねぇ、この記事見て!高尾君にも見てもらいたいの」
「へぇ……秀徳の光と影か。もしかしてオレ達のこと?」
「もしかしなくてもそうよぅ」
高尾が記事を読んでいる間、緑間は自分の考えに浸っていた。
まさか、高尾とオレがコンビと認められる日が来るとは思ってもみなかったのだよ。
第一印象は良くはなかった。しかし、今では誰より信頼しているパートナーだ。
「いっぱい練習して真ちゃんを唸らせるパス出すから」
中学時代はライバル校の生徒だったらしい高尾。緑間は覚えていなかったのだが。
見た目は軽薄なくせに、一本芯の通ったところ。
(そんな高尾に、オレは惹かれていったのだよ)
高尾は口だけの男ではなかった。先の洛山戦では緑間の相棒として活躍した。洛山には負けたが、大事なものを掴んだような気がする。負けた時は二人して泣いた。
(高尾……)
泣くだけ泣いたら、すっきりしてまた練習に励むことができた。新たな決意を胸に秘めて。
(オレ達は……もう負けたくはない)
洛山戦の後、高尾と誓った。
(オレも、真ちゃんと同じ気持ち)
涙も渇いた後、高尾がそう言った。満面の笑顔で。
オレの相棒は高尾しかいないのだよ……。
もちろん、スタメンの三年も仲間だ。ただ、彼らはもうすぐ卒業する。
しかも、緑間はどうやら高尾に恋しているらしいのだ。
バスケが恋なら格好もつくけれど、相棒、しかも男に恋なんて……。
救いは、高尾も自分を憎からず思っているということだ。
「ひなちゃん、文章書くの上手くなったじゃん」
「えへへ……」
高尾とひな子が笑い合っている。やきもきしたこともあったが、ひな子には彼氏が既にいるらしい。
「真ちゃん。教室戻ろ♪」
めっきり男らしくなった高尾の笑顔に、緑間の心臓はどくんと跳ねた。
「今行くのだよ」
秀徳バスケ部エースで『秀徳の光』と称された緑間は、彼の影、高尾を見つめた。
「あ、真ちゃんにやけてる」
「に……にやけてなどいないのだよ」
「冗談冗談。それにしても真ちゃん、よく笑うようになったよね」
「え……?」
自分では気づかなかった。
そうか……オレは笑っていたのか。
「バスケの時も笑うようになってたよね。ほら、やっぱりバスケが楽しいから?」
「そうかもしれないな」
「はっきり認めちゃいな。バスケが好きだって」
高尾がうりうりと肘でつつく。
確かにバスケが好きだ。……そして、高尾のことも。
「真ちゃんてわがままだし、考えもよくわからないんだけど……なんか嫌いになれないんだよね」
いつだったか、高尾がそう言っていたことがある。
嫌いになれないということは、もしかして好き、ということか?
その時、胸が高鳴ったのを覚えている。
オレも同じ気持ちなのだよ。
確かにうるさいと思うこともあるし、あることないことちょいちょい言うけど……その心の奥底は、優しい。
だから、オレも高尾のこと嫌いになれないのだよ。
『秀徳の光と影』は、そのまま人生のパートナーになることができるだろうか。それは神のみぞ知るだが……。ずっとこの幸せが自らと共にあれ、と緑間は祈った。
緑間にはおは朝占いのラッキーアイテムもある。そして、どうやら運命というヤツはどうしても最後にはハッピーエンドにしたがるものらしい。
緑間はできるならいつまでも高尾といられるよう、心の中で蟹座を象る星達に願った。世の中は無常とわかってはいても。
だからこそ、人事を尽くして天命を待つ!
緑間は高尾に向き直った。
「高尾」
「何?真ちゃん」
「……これからもオレの『影』でいるのだよ」
高尾はきょとんとしていたが、やがて元気良く答えてくれた。
「了解!」

後書き
ずっと前に書いた作品です。コミックスで『秀徳の光と影』という言葉を見て、なるほどと思いました。正にみどたか!
2013.10.18


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