ブレない男

「はぁ? 緑間ぁ?」
「そ。友達いんのかなぁと思って」
「いるわけねぇじゃん。あんなお高く止まったヤツに」
「えー? でも、緑間だって人間だぜぇ?」
「高尾……オマエ、なにげにひどくね?」
「え? だって……」
「どくのだよ」
 気がついたら目の前には2M近い男が。確かに鍛えてるみたいだからスタイルは良いけれど。
 ――それが、噂の主の緑間真太郎だった。
 裏切り者の影川はぴゅーっと逃げて行った。
 あいつ……後で購買のパンおごらせてやる!
「おい」
「は……はい! 何かな、真ちゃん」
「……真ちゃんはよせと言っただろうが。――入るのだよ」
 そう言って緑間は教室のドアをガラッと開けた。
 聞かれていたかな? 今の……。
 緑間だって人間なんだから、普通に話したり、笑ったり、時にはY談なんかする友達もいるんじゃねぇかなぁと言いたかったんだけど……。
 これは誤解されたかな。あー、高尾ちゃん、久々の大ポカ!
 オレは席についた緑間に言った。
「あー、真ちゃんごめん」
「何がなのだよ」
 ――緑間にはいろいろ謎があるが……教えて! 何で語尾が『なのだよ』なんだよ! 思わず萌え死にしてしまうところだろうが!
 後、おは朝のラッキーアイテムにこだわるところとか――可愛い過ぎんだろ。くっそ。
 でも、そんなことは後だ。取り敢えず、このエース様のご機嫌取らなきゃね。でないとオレも――バスケやる気出ねぇし。
 あー、何でこんな変人のことが気になるんだろ。確かに美人だけど、眼鏡くんだもんなぁ……それに男だし。女ならいいけど、眼鏡男に萌える趣味はねーよ。
 天才であることはあるんだけどねぇ……。
「あー……」
 オレはこほんと咳払いをした。
「緑間?」
「――何なのだよ」
 緑間は国語辞典を取り出して読んでいる。絵になるなぁ、くそっ。
 オレが国語辞典を見てたら、
「オマエ、ヤらしい単語探してねぇか?」
 とクラスメートに言われたもんだが。
 格の違いってヤツか? ムカつく……。――閑話休題。
「さっきは……悪かった」
「何がなのだよ」
 オレがいけないのかもしんないけど――やっぱりコイツ変。
 何が何でも『なのだよ』を語尾につけないと気が済まないってか? でも、そうでない時もあるしなぁ……。
「オマエのこと……ひどいこと言って」
 オレだって罪悪感くらいはある。緑間だって人間だよな。当たり前のことなのに……改めて言われると傷つくだろうなぁ。オレは気にしないけど、緑間って無駄に繊細そうだし。
「ああ、そのことか」
 緑間はちっとも傷ついていないようだった。
「オレは――かえって嬉しかったのだよ」
「は?」
「いつも付き合っててもどこか遠巻きなヤツらが多かったからな。オレをただの人間として見てくれていて――嬉しかったのだよ」
 ええええええ?! 緑間がデレた!
 こいつ、もしかしたら……。
「真ちゃん、寂しかったの?」
「なっ……誰が!」
「ならオレが付き合ってあげるー」
 オレは緑間の首筋に抱き着く。オレはよくこういうことをやる。
 オレにとっては普通のことだが、緑間は慣れていなかったらしい。白い首筋がうっすら赤くなる。
 キスしてやりたかったが、オレにゲイの趣味はない。
「何をするのだよ。離れるのだよ」
 ……真ちゃん、可愛いな。うん。真ちゃんだったら、オレ、ゲイになってもいいかも。女の子とも経験はないけどね。
「真ちゃん、友達いる?」
「う……」
 真ちゃんは言葉に詰まったらしかった。
「答えないんなら、ちゅーしちゃおっかな」
「い……いないのだよ」
 素直だね、真ちゃん。
 この男――緑間真太郎は、多少コミュ障気味のいいヤツなのかもしれない。本当は。
 と、オレ、高尾和成は思うのでありました。まる。
「真ちゃん、誤解されやすいんじゃない?」
「そ……そんなことないと思う……のだよ」
 緑間はしどろもどろになっている。かーわいい。
「以前はどうしてたの? あ、中学時代にはキセキの世代がいたか。どうだった。相性は」
「――悪かった」
 緑間の即答にオレはゲラゲラと笑った。
「そっかー。真ちゃんキセキの世代とも相性悪かったんだー」
「でも、一番近くにいた……と思う」
 そりゃまぁ……天才同士だもんなぁ……。友達がいなかったらそいつらとつるむしかねぇかもなぁ。
「なぁ、真ちゃん」
「何なのだよ」
「オレ、真ちゃんの友達になってもいい?」
「断る」
 あら。これって噂のツンデレ? これじゃ友達できないわな。
「じゃあ、相棒」
「同じだ。断る」
「えー? じゃあ何ならいいわけ?」
「あまり構って欲しくないのだよ」
「だってー……真ちゃんて面白いんだもん」
「オレは面白くない」
 真ちゃんて……猫に似ている。猫は人間の目から見るとおかしいんだ。だけど、猫を笑ったら猫の気持ちを損ねる。何故なら、猫自身にとってはちっとも面白くないからだ。
 ――という件をオレは本で読んだことがある。
「まぁ、相棒ってのは嘘だけどな」
「……は?」
「今のオレはまだ、天才の相棒になんてなれないもんな」
 でも、いつかは。
 緑間真太郎、オマエの相棒に相応しい存在になってやる!
「オレは、天才ではないのだよ。人事を尽くしているだけなのだよ」
「あー、そうですか」
 緑間に『天才ではない』と言われると、なんかムカつく。でも、こいつが悪いヤツなのではないということはわかった。
「高尾。オマエのバスケに関する情熱は――嫌いではない」
 だって、オレは、真ちゃんのいる中学――帝光に負けたもんな。それから死ぬほど練習して、バスケの名門秀徳を受けて……バスケ部の初顔合わせの時に緑間の姿を見た。緑間は覚えてなかったようだけど。
 やっぱり――運命なのかな。緑間とオレがチームメイトとして会ったのは。そして同じクラスになったのは。
 オレは緑間みたく占いなんて信じないけど。
 でも、緑間が努力家なところは認める。オレがそばにいなくても、こいつは黙ってシュートの練習をしているのだろうから。そのブレのなさにはオレも一目置いている。
 だけど、一人でシュート練習をしている緑間を想像すると、寂しくて、切なくて――。だから、そばにいてやろうって気になる。
「オレも、オマエの頑張り屋なところ、嫌いではないぜー」
 そうだよ、緑間。嫌いになんてなれない。アンタのこと。ちょっと偏屈で天然だけど、こんなに一生懸命生きているヤツ。――緑間が低い声で照れくさそうに言った。
「どうも……なのだよ」

後書き
『ブレない男』というタイトルは、確かとある兎虎サイトで見たことがあるような気がします。私の記憶が正しければ(古いっ!)
ちょっと他の話と浮いているかもしれません。
2014.5.22


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