SHUTOKU☆文化祭 後編

やれやれ、オレすっかり真ちゃんの引立て役だよ。まあ、いいんだけど。
高尾も、今は素直に緑間の力量を認められる。
(どうよ、オレのエース様の実力は)
高尾が密かにほくそ笑む。
大坪がコートの外で腕を組んで立っている。彼も満足そうに笑っていた。
「続きは午後でねー!絶対来てねー!」
高尾がぶんぶんと腕を振った。女子達は、
「絶対行くー!」
と応えた。
「あのー、そろそろ軽音部の発表なんだけど……」
文化祭のスタッフが大坪に言う。
「わかった。今、終わったから」
「たのんますよー、こんな勝手なことして……バスケ部の発表は午後二時からでしょ?」
「すみません」
大坪は素直に謝った。ギャラリー達はブーイングを発する。
(謝ることねぇのになぁ)
と、高尾も思う。
「おまえら、軽音部の演奏聴いてくか?」
「いや、音楽はもう充分です」
高尾はそう答えて、もうクラスの喫茶店も忙しくなっている時間帯であろうから、緑間と一緒に手伝いに行こうと考えていた。

緑間が接客業に励み始めたら急に客が増えた。主に女性客が。
「ふう、ふう」
「オニオンスープちょうだい!」
「こっちまだ?」
「何なのだよ。この忙しさは」
「真ちゃんのせいだろうが!」
「なにぃ?!どこがオレのせいなのだよ!」
うっとりと緑間を見つめている女性陣はまるで信者だ。当の緑間は全く気づいていない。
「あー、喫茶店手伝ってやろうというホトケ心出すんじゃなかったぜ!」
「緑間、高尾。少し休んどけ。バスケ部で出し物あるんだろ」
「ラッキー!」
「おまえらがんばったから代金はチャラにしてやる」
「ますますラッキー!」
緑間と高尾は向かい合わせに座る。
「このカレー味が深いな」
「このオムライスもなかなかなのだよ」
「真ちゃんがオムライスって……」
高尾は笑いをこらえるのに苦労した。
「オムライスのどこが悪い」
「いや、悪くはないんだけどね」
「本当に旨いぞ。食ってみるか?」
「え?本当?」
「口を開けろ」
高尾が素直に口を開けると、緑間がそこへオムライスの乗ったスプーンを口の中に入れてくれた。携帯を持ってにじり寄る女の子達。
緑間の唾液の味がするようで、オムライスが甘く感じた。
「はい。真ちゃんもあーん」
つられて緑間も口を開ける。高尾があげたカレーを緑間もよく噛み締めているようだった。
「なかなか旨いのだよ」
「緑間さん、高尾さん」
バスケ部の同級生が来た。
「早く早く。もうすぐエキシビションだよ」
「おっ、そうだった」
高尾がカレーを流し込む。
「そんなに急いで食うと腹が痛くなるのだよ」
「オレ胃腸丈夫だもん。真ちゃんがオレの体心配してくれるなんて嬉しい♪」
「突然のハプニングで失敗されたら困るからな」
「はいはい」
全く、素直じゃないんだから。ほんとは優しいエース様。
「オレのオムライスはとっておいてくれ」
「わかりました」
「あー!その手があったか」
「叫ぶな、高尾。後でオマエにもわけてやるのだよ」
「……どうも」
女性陣のテンションは最高潮に達した。

エキシビションが始まった。宮地と木村の見事な連携。大坪の力強いダンク。
「高尾!」
高尾がボールを緑間に渡す。そこで緑間が超長距離シュートを決める……はずであった。
その時。
「緑間君、がんばって!」
誠凜高校の女カントク、相田リコの声がした。緑間の手からボールが離れようとした瞬間であった。
高尾にはわかった。あのシュートは入らない。
予想通り、ボールはリングに弾かれた。観客席から溜息が漏れた。宮地がリバウンドをして、
「おら!もう一度!」
と、宙を指差して叫んだ。
宮地サン、やっぱアンタいい男だよ。
また自分の元に来たボールを高尾は緑間にパスをする。今度は決まった。観客の中から今度は「おおっ!」と驚きの声が上がった。
「さっきのは失敗?」
「わざとじゃないかな」
そんな声が聴こえてくる。
その後の一・二年チーム対三年チームのミニゲームも無事終了した。結果は一・二年チームの勝ち。
拍手の中、高尾は帰ろうとする相田リコに駆け寄った。
「相田サン!」
「な……なに?」
「話がある。ここじゃ何だから裏庭に行こう」
彼女は覚悟を決めたらしく頷いた。
「わかったわ」
裏庭に着くと、高尾が話を切り出した。
「アンタ、緑間がシュートを撃つ瞬間声あげたことあったよな」
「あ……そうかも。それがどうかしたの?」
高尾は一言いってやりたくなったのだ。リコには悪意はなかったに違いない。だが、彼女は緑間をフッたことがあるのだ。
「おかげで緑間はシュート失敗したんだぞ」
「わ……私のせい?」
「緑間をフッたアンタの出現で緑間は動揺したんだ!」
「緑間君はそんなやわじゃないわよ!」
「ああ!でもあいつ、ああ見えて意外と繊細なところがあるからな!インターハイ予選で誠凜に負けた時、あいつ泣いたの知ってるよな!」
「そんなの勝負なんだから仕方がないでしょ!言いたいことがあるなら実力で言いなさいよ!」
「おう!今度こそ勝ってやる!」
「高尾!」
長身の緑間の姿が現れた。
「話は聞いたのだよ。高尾……リコの言う通りなのだよ」
「緑間君……」
「今日の……失敗はオレの油断が原因だ。ラッキーアイテムは用意してたけれどな。それにしても高尾。リコの言った通り、自分の思いはバスケを通して語る。それがオレ達のやり方ではなかったのか」
高尾はぽかんとしていたが、やがて笑って肩を竦めた。
「すみません。相田サン」
高尾はリコに向かって頭を下げた。続いて緑間も。
「すまなかった」
「う……ううん。いいのよ。私だって緑間君のジャマするようなこと……しちゃったかな?」
「だから、リコのせいではないのだよ。行くぞ。高尾」
「あ、うん」
「……緑間君、高尾君。あなた達のいたチームがさっきのゲームで三年生に勝って良かったわね!」
緑間と高尾がリコの方を振り向いた。緑間が宣言した。
「次は誠凜にも勝つ!」

高尾と緑間はクラスに帰ってオムライスを一緒に食べた。
(やはり相田サンのことは緑間に任せておいた方がいいな)
なんだかんだ言って緑間は、最終的には高尾を、そして誠凜の女カントクを納得させてしまった。緑間に自覚はないのだろうが。
(だからこそ、オレはオマエを嫌いになれないんだ)
高尾はパクンと最後の一口を腹に納めた。

後書き
文化祭にバスケットって変ですかねー……。
宮地の替え歌は黒バス小説の部屋の『黄瀬のラブソング』を考えている時に浮かびました(笑)。
中谷先生、カメラ小僧にしてしまってすみません!(笑)
あと、うちのサイトには緑リコっぽい描写もありますが、リコには別に本命がいますし、何より私が緑高が好きなので。
2013.9.11


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