美女と野獣 ~みどたか版~

 昔々、タイスケという男がおりました。男には、三人の娘……じゃなかった、息子がおりました。上からキヨ、シン、カズです。
 父タイスケは言いました。
「これから町へ出かけるが、欲しいものはあるか?」
 キヨとシンは新しいバッシュが欲しい、ユニフォームが欲しいと言いましたが、カズは何も言いませんでした。
「カズには何か欲しいものはないのか?」
 父が言ったのでカズは、あまり考えもせずに、
「じゃあ、薔薇の花を」
 と言いました。

 父はキヨとシンのお土産を手に入れましたが、カズのはまだでした。
(やはり、カズにもお土産を買って行くべきか……)
 そこで通りかかったのは、綺麗な薔薇園でした。
「これはいい。カズの為に持って帰ろう」
 そう思ってタイスケは薔薇を手折りました。
「おい、そこの男」
 低い声が聞こえました。タイスケは声の主を見て、「ひっ」と驚きました。
「オレの薔薇園から薔薇を持っていこうとは――これは見逃すことはできないのだよ」
「すみません。オレは街から家に戻る途中、三男の希望を叶える為にこの薔薇園にやってきました」
「――お前には息子がいるのか?」
「はい。みんなオレの帰りを待っています」
「ふむぅ……」
 野獣は髭を撫でました。
「男、帰っていいのだよ。その代わり、我が子を一人、差し出せ」
「は……はい……」

 タイスケが帰って事情を話すと、キヨとシンは嫌だと言い張りました。
「カズが行けばいいんだよ。元々薔薇の花を欲しがったのはカズなんだからさぁ」
 とキヨが言いました。
「うん……そうだね」
 こうして、カズは野獣の元に行きました。

「ほう……これはこれは。可愛い娘なのだよ」
「オレは男だよ。ねぇ、野獣さん、アンタこんなとこに一人で住んでんの?」
 野獣の目に翳が走った。
「オレは今は一人だ――ずっと一人だった……」
「野獣さん、オレ友達になってあげる。野獣さんの名前は何て言うの?」
「緑間――真太郎なのだよ」
「じゃあ、真ちゃんね。宜しく」
「真ちゃん……」

 カズは楽しい日々を野獣の城で送りました。美味しい料理、素敵なドレス、二人の共通の趣味のバスケもしました。
「こんなに楽しいのは久しぶりだよ!」
「――オレもだ」
 野獣がふっと笑いました。
「なぁ、カズ。オレが元は人間だったと知ったら笑うか?」
「ううん。笑わないよ。だって、真ちゃんには人間の優しさがあるから」
「人間の、優しさか――」

 そして日々はあっという間に過ぎていき――。
 カズは自分の父が心配になってきました。
「ねぇ、真ちゃん。お父さんの様子見せて」
「――この鏡を覗くといい」
 鏡には、病を得たタイスケの姿が。
「大変! ねぇ、真ちゃん、親父の元へ帰っちゃダメ?」
「――それはできないことなのだよ」
「オレ、何でもするからさぁ……」
「できないことはできないのだよ!」
 それ以来、陽気で明るかったカズの様子はすっかり沈んでしまいました。野獣がいても心ここにあらずで――。
 野獣もそれが気がかりでした。ある日、彼は言いました。
「――カズ。帰ってもいいのだよ」
「え? ほんと?」
「ただし、この薔薇が枯れるまでに帰って来い」
 それは、一輪の薔薇でした。
「ありがとう! 真ちゃん! きっと約束した日までに戻ってくるよ!」
「信じているぞ! カズ!」
 カズは家に帰りました。

 カズの素敵なユニフォーム姿を見たキヨとシンは激しく嫉妬しました。
 それで、もう帰れないようにカズをいろんな手で引き止めようとしました。
 カズの看病により、タイスケは回復してきました。カズが野獣との約束を話すと――。
「それは大変だ! すぐに帰れ!」
「でも――」
「オレはもう大丈夫だ。お前は野獣を愛しているのだろう? 早く帰ってあげなさい」
「そうだね。約束もあるもんね」
 カズはタイスケの用意した馬に乗って、野獣の城へと向かいます。
(何だか、嫌な予感がする――)

「真ちゃん、入るよー」
 城に入ったカズが目にしたのは、もう虫の息の野獣の姿でした。
「真ちゃん? 何で? どうして……?」
「あれは……あの薔薇はオレの命の花なんだ……また帰ってくるとは思わなかったぞ。カズ」
「オレは真ちゃんの為なら何だって……」
「ふふ、死ぬ前にお前の姿が見れて本望なのだよ……」
「だって、薔薇の花が枯れる前にオレが帰って来ないと真ちゃんが死ぬなんて知らなかったから――」
「オレは、覚悟の上だったのだよ……お前と、会えて、ほんとう、に……」
 野獣は息を引き取った。
「真ちゃーーーーーーん!!!!!!!!」
 カズは野獣の手を取って泣きました。すると――。
 野獣の手に温かさが戻ってきました。
 そして――野獣は人の姿になりました。かなりの美形です。
「あ、アンタは――?」
「この城の野獣なのだよ。――オレは昔、呪いにかけられた。心優しい者の涙が、呪いを解く鍵だったのだよ」
「えっ、ええっ」
「おいで――カズ」
 野獣……いや元野獣だった青年緑間はカズの唇にキスをした。
「ずっと、こうしたかったのだよ」
「アンタ、王子様だったの?」
 緑間はこくんと頷いた。
「お前も――野獣のオレは本当は嫌だったんじゃないのか?」
 カズはふるふると首を横に振りました。
「そんなことないよ。オレ、野獣の真ちゃんも王子様の真ちゃんも大好きだよ」
「カズ……」
 緑間王子は背が高く、睫毛が長くて、眼鏡もよく似合っていました。カズはぽーっとなりました。
「さぁ、踊ろう。手を貸せカズ」
「うん。わかった」
 緑間はカズを優雅にリードして踊りました。カズもくるくると器用に回ります。

 後に、緑間とカズは結婚しました。そして、カズの家族も城に呼び寄せて、皆で幸せに暮らしました。

おしまい

後書き
ずっと前、風魔の杏里さんの話からヒントを得ました。
美女と野獣、昔読んだんだけど細かいところは忘れていたのでネットであらすじ探しました。
秀徳の文化祭の劇でやってたりして(笑)。
この話は風魔の杏里さんに捧げます。
2015.7.11

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