オレの高尾和成番外編 ~赤司の戦い~
「行ったわね、緑間君達」
ミザリィが言う。
「ああ、行った」
赤司も答える。
「ふふふ……お前ら二人はあの男と違って手応えがありそうだ――」
小早川アルトが笑う。
「お前の相手はこの赤司征十郎がさせてもらう」
友人、緑間真太郎を馬鹿にしたお礼だ。
「赤司君! アルトは私が!」
ミザリィが叫ぶ。
「そうだな。赤司。君では物足りない。君にはこいつの遊び相手になってもらおう」
ズズズ……と暗黒の球がアルトの手から現れる。そこから三つの頭を持つ犬が出て来た。竜の尾と蛇のたてがみ。見るからに邪悪な怪物だ。
「これは――」
「ケルベロスだ。君の相手だ」
がああああっ!
ケルベロスは腕を振りかざす。
ザシュッ!
赤司のブラウスと胸元の皮膚が裂かれた。
「赤司君!」
「ミザリィ……お前の相手はこの俺だ!」
アルトが刀でミザリィと交戦する。ミザリィでも片手間に戦って勝てる相手ではなさそうだ。
後は頼んだわよ、赤司君。ミザリィがそう言ったような気がした。
(ん……あれ?)
赤司が首を傾げた。胸元の傷が消えている。裂かれたブラウスはそのままだが。
そういえば、さっき痛めた肩ももう癒えている。何も特別なことはしていないのに。それとも――。
これが、アウターゾーンの力なのか?
疑問に思っている暇はない。ケルベロスが襲い掛かってくる。赤司でも紙一重のところで躱すのがやっとだった。
「赤司君、これ使って!」
ミザリィがレイピアを赤司に向かって投げる。
――赤司は、一通りの武術を身に着けている。
合気道から護身術まで。でも、赤司がバスケの次に得意なのはフェンシングであった。
さすがはミザリィ。オレのこともわかっているんだな。赤司はレイピアの柄をぐっと掴んだ。
向かってくるケルベロスに赤司は一撃を加えた。
「ギャッ!」
さっきとは違うと思ったらしい。ケルベロスは攻めるのを止め、様子を伺っている。
ハッハッハッハッ。獣臭い息を吐きながら。
(――待たせたね)
頭の中に微かに声が響く。
(その声は――)
赤司の声である。
(もう一人の――オレか?)
(そうだ。君も赤司家の人間ならわかるだろう? 僕達には勝利以外有り得ない)
もう一人の赤司は、敗北を喫した時点で消えるのだ。そう思っていた。
しかし、彼は何故いるのだろう。
あの時――誠凛に、黒子達に負けたのに。
もう一人の赤司が、にこっと笑った気がした。
ミザリィもこっちを見て微笑んだ。
そうか――。
もう一人の赤司が何でいるのかも関係ない。
オレ達には、勝利あるのみ。
でなければ命は無い。
このケルベロスはかなり厄介そうだ。
だが、オレ達は必ず勝つ!
「行くぞ!」
赤司はレイピアを高々と上げた。レイピアが輝く。力が湧いてくる。
ありがとう。もう一人のオレ。
今なら、勝てそうな気がする。
光に驚いて困惑していたらしいケルベロスも、自棄になったのかつっかかってくる。
ケルベロスは確か甘いお菓子が好物だ。けれど、今は持っていない。
ケルべロスは美しい音楽も好きだ。だが、ここには妙なる音楽を奏でる楽器もない。
ヘラクレスのように力でケルベロスを飼い馴らすこともできないのだ。
だが、そうなれば仕留めるまでだ。
ケルベロスは三つの心臓を持っている。再生能力や毒まで持っているらしい。だが、赤司は突きには自信がある。ケルベロスが赤司を狙って来る。赤司はエンペラーアイで弱点を見抜く。
「がああああああっ!」
今だ!
赤司はレイピアでケルベロスを刺し貫く。
「ぎゃああああああああ!」
赤司の服に返り血がかかった。ケルベロスの体液は毒のはず。しかし、何のダメージも感じられない。
(アウターゾーンの力がケルベロスの毒を中和している。さっき、君の体の傷が消えたのも、アウターゾーンの力のおかげだ)
もう一人の赤司の声がする。やはり――か。
何だってもう一人の自分もそんなことを知っているんだ、と赤司は不思議に思う。だが、今は助かっただけでよしとしよう。
それに、ケルベロスをやっつけることはできた。死にはしなかっただろうけれど、物理攻撃に弱い頭部を狙ったからしばらく動けまい。
「ああ……服が汚れたな……」
相手が化け物でなければ弁償してもらうところだ。赤司の足がふらついた。
驚いた。やはりオレもかなり緊張していたということか。こんな地獄の野良犬相手に――。
レイピアがカラン、と地に落ちた。
「ケルベロスが――敗けただと?」
アルトが目を瞠ったようだった。その隙をついてミザリィが剣を繰り出す。
赤司にケルベロスを倒されたのがショックだったのか、アルトの攻撃はさっきより些か精彩を欠いたものになっていた。
「赤司君!」
ミザリィの鋭い声が飛ぶ。
「逃げなさい! 赤司君!」
「――わかった。しかし……」
「赤司君!」
その時、赤司の全身に光る球がかぶさった。
眩しい――!
赤司が目を瞑った。
「ミザ……っ!」
ミザリィ!と言おうとしたのだが、その時にはもう彼女の姿はなかった。
その代わり、緑間と高尾とレイトの姿が見えた。場面が変わったのだ。
「でも、赤司は――」
緑間が言う。
「オレがどうしたって?」
「赤司、いつの間に!」
それからどんな話を交わしたか、正直赤司はよく覚えていない。
ただ、急激に眠気が襲ってきたのだけはわかっている。
仕留めたぞ……ケルベロスを……もう一人のオレ……君のおかげだ……。
ケルベロスは三つの心臓を持っているのだから死んだかどうかまでは知らない。
ただ、自分達を見逃してくれるなら、こっちにももう戦う理由はない。
赤司はすーっと寝入ってしまった。もう一人の赤司が体内から出て行ったのがわかった。
後書き
2017年1月のお礼画面です。
赤司君は人気もあるし、私も好きなので書けて良かったなと思います。
『オレの高尾和成』本編も宜しく!
2017.2.2
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