相棒もいいものなのだよ
「やったー! やったな! テツ」
「はい! 青峰君!」
全く。憎たらしいくらい息の合った二人なのだよ。――バスケに関しては。
「あっ、緑間っち、羨ましそうな顔してますね」
「なっ……そんなことはないのだよ!」
「でも、オレも青峰っちと黒子っちは羨ましいっスね」
「勝手に羨ましがってろ」
けど――相棒がいるというのは、確かにいいものなのかもしれないのだよ。……羨ましいというわけではなかったのだが。
そんなオレにも、高校で相棒ができた。高尾和成という。
「真ちゃーん」
高尾の『真ちゃん』呼びにも慣れた。だが、一応言っておく。
「真ちゃんではない。オレには『緑間真太郎』という立派な名がある」
「うん。真ちゃん」
こいつ、わざとだな――。
「あ、真ちゃん気に障った?」
「今更気に障るも何もないもんだ」
こんな軽い男でも、オレの相棒になってくれたのだ。こいつのおかげで、バスケが少し、楽しくなった。
今までは、楽しい、楽しくないでバスケをしている訳ではなかったのだが――。
「あっ、真ちゃん。今笑った」
「う……そ、そうか?!」
「あー、スマホ持ってくれば良かった」
「そんなもん撮るななのだよ」
「えへへー。真ちゃんのデレげとー!」
だから。デレとは何なのだよ。
「でもさー、オレ、うれしんだ。真ちゃんがチームに溶け込んでくれてさ」
「――そうなのか?」
「うん。孤独にシュート練習している真ちゃんも絵になるけど。――でも、真ちゃん、前より明るくなった気がする」
あいつのおかげかな――高尾が呟いた。
あいつ――黒子テツヤのことか。
黒子は不思議なヤツだ。あいつの行動は結果オーライなことが多い。本人は自覚してもいなかったようだが。
「オレ、あいつに感謝だぜー」
「ああ。黒子も人事を尽くしていることがわかったのだよ。誠凛はあいつのおかげで更に強くなった」
「火神のおかげもあるんじゃね?」
「そうかもしれんな。でも、認めたくはないのだよ」
「そーだなー……ライバル同士だもんね」
本当に不思議なヤツだ。
しかし、不思議と言ったら、高尾も不思議だ。
「高尾」
「ん?」
「もう――オレは憎くはないのか?」
「ああ、それ」
高尾がにぱっと笑った。可愛い――いやいや。
「どしたの、真ちゃん」
「ああ、いや――だって、オマエの中学、オレ達に負けたって……」
「うーん。でも、これって運命だと思うからさぁ……もう引きずってないよん。それよりも、真ちゃんの相棒の名に恥じないように頑張るだけなのだよ」
「マネするな」
「だって、真ちゃんの語尾ってマネしやすいんだもん」
「ふー……」
オレは、もう高尾に構うことをやめにした。高尾も高尾で自分の練習をし始める。
高尾は、オレよりも長く居残って練習することに決めたらしい。自分で決めたことなのだそうだ。こいつも人事を尽くしている。
だからこそ、嫌いになれない。いや、むしろ――。
好きだ。
オレは、単なる相棒としてではなく、高尾が好きだ。
シュートが気持ちよいくらいに入っていく。隣に高尾がいるからだ。
蠍座との相性が悪い日以外、高尾がいてくれると安心する。だから、人事を尽くすことができるのだ。
高尾も黙々と練習している。
「あ」
ボールが尽きた。
「はい、真ちゃん」
高尾がボールを渡してきた。
「どうも――なのだよ」
「どういたしまして」
高尾、今日も可愛いな。
――そんなことを言ったら、こいつは図に乗るから言わないが。
高尾が女だったら良かったのだよ。可愛いマネージャーとの恋。きっと、高尾はいいマネージャーになっただろう。
リコのことも好きだったが、フラれたしな……。けれど、たまに恋の相談はしている。
リコに、
『前に好きな人ができたと言ったが、そいつとどんどん距離が縮まったような感じがするのだよ』
とメールを送ったら、
『良かったじゃなーい。応援するね☆ 緑間君の恋が叶うように』
と返事が来た。リコもつくづくいい女なのだよ。誰だ、リコの眼鏡にかなった幸運な男は。
――と、まぁ、閑話休題なのだよ。
オレも、自分が高尾に惚れるとは思わなかったのだよ。第一印象は最悪だったのに。
でも、高尾は高尾なりに一生懸命なのだよ。
高尾がいたおかげで知った世界もいっぱいある。別に、恋とかそういうのを切り離してもだ。
「オレ、ちょっと疲れたから、真ちゃんのシュート見てる」
そう言って高尾はベンチに座った。ポカリを飲んでる。
「あ、真ちゃんいる? 飲みかけだけど」
「――いらないのだよ」
つい言ってしまった。本当はちょっと欲しかった。水分が、じゃなくて、高尾との間接キスが。
オレはシュートを撃った。
「しっかし、あんな遠くからよく入るねー。どんなコツがあるんですか。緑間先生」
「人事を尽くしているからなのだよ」
「言うと思った」
秋の日はつるべ落とし。オレも高尾も帰る時間になった。
「うう……真ちゃんじゃんけん強過ぎっしょ」
チャリアカーをどちらが牽くかでじゃんけんをする。いつも高尾が負ける。
「オレとオマエとは真剣さの度合いが違うのだよ」
「言ってくれるじゃねぇの。――オレだってそれなりに真剣なつもりだぜー」
「それなりに……だからオマエはダメなのだよ」
「へいへい」
ちりりーん、とベルが鳴る。
買い物帰りの主婦や学校から帰宅する子供がこちらを見ている。人の視線にもだいぶ慣れた。人の目にさえ気にしなければ、こんなに便利な乗り物もない。
「お兄ちゃーん」
小学二年生くらいの男の子が近づいてくる。信号待ちの時だ。
「何だい?」
と、高尾が訊く。
「それ、乗りたい」
「ん、いいけど。真ちゃんは?」
「別段構わないのだよ。家はどこだ?」
「ここを真っ直ぐ行ったとこ」
「よーし、決まりー」
高尾が運転するチャリアカーに乗りながら、子供はきゃっきゃとはしゃいでいる。
「落ちるなよ」
「はーい」
子供を送り届けると、玄関から出てきた女の人にお礼を言われたのだよ。きっと子供の母親だろう。
「ねぇ、お兄ちゃん。またそれ乗せてくれる?」
「いいともー☆」
いいともじゃないだろ……高尾。ちょっと好みの女だからっていい顔して……。
む、オレは嫉妬してるのか?
だが残念だったな、高尾。その女はもう人のものなのだよ。
嫉妬……かもな。この感情は。
しかし、高尾もオレのことを憎からず思っているらしい。相手が男でも恋することが可能だとは初めて知った。
「真ちゃん……真ちゃんはやっぱりあの人のように綺麗な女の人と結婚するの?」
もしかして、高尾も嫉妬していた――? 声が本気だ。
ふっ、とオレは笑った。
「結婚なぞ、考えたこともなかったのだよ」
「そうだよねー、オレ達まだ、高校生だもんね」
そう。今はバスケが全てだ。でも高尾。オマエが女だったら嫁にもらってやっても良い気がするのだよ。
だが、高尾はモテる。今のところ決まった相手はいないようだが。その事実はオレを少々安心させた。
ちょっとカンに障ることもあるけれど、相棒がいるというのも悪くない。そう思った高校一年の、秋。
後書き
これ、秋の話なんだよねー。季節外れですね。まぁ、書いたのが去年だから。
今はまだ夏真っ盛りです。
2014.7.11
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