番いの相手

 俺の番いの相手はジェイク。俺もジェイクも女の人の方が好きだけど、それでも番いの相手だ。
 意地悪なフロイドは、「番いの相手はメスオスワンセット」なんて言ってたけど、男同士の番いだって、あっていいと思うんだ。
 ジェイク――彼が俺のことを「アンディ」と呼ぶのは、他の人が相手の場合とはちょっと違う。――俺の名前はアンドルー・グラスゴー。いい名前だろ?
 俺は女にはモテるけど――みんな一夜限りなんだよね。何でだろ。
 ジェイクのように、「これが運命の相手だ!」と思える相手に――そんな女性には会ったことはない。不思議だね。
 人間のジェイクの前には、ライオンのジェイクがいた。ライオンのジェイクとだったら、いつまでもジャングルで過ごしていても、平気だと思っていた。
 でも、そのジェイクは死んだ。
 俺は――とても悲しかった。父親のサミーが死んだ時よりも悲しかった。
 悲しいというより、自分の一部がなくなった感じかな。
 俺はサミーに、ロスへ行けと言われた。アメリカだ。上手くいくかどうかわからなかったけど、とにかく行った。
 そこで、人間のジェイクに出会った。だから、サミーにはその点では感謝してる。
 人間のジェイクは、ライオンのジェイクと感じがとてもよく似ている。だから、俺は、ジェイクが生まれ変わって人間になったんだと、ずっと思っていた。生年月日からして、そんなことは不可能だ、とわかったのはずっと後のことだ。
 人間のジェイク。ジェームス・ブライアン、J・B、マイケル・V・ネガット……彼にはたくさんの名がある。
 マイケルだった時のジェイクは、父親に愛されなかったらしい。でも、乳母の家族に育てられて、それなりに幸せだった。
 俺、ジェイクのことなら、大抵のことは知ってるんだぜ。ジェイクがブロックしている場合は別だけど。
 例えば、ジェイクが十代の時。この部分は、どうやっても知ることができないんだ。
 もしかしたら、好きな人でもいたのかな、よっぽどひどいめに遭ったのかな――とかは思うんだけど。
 今はわからなくていい。それでいいと思うんだ。
 だって、ジェイクはジェイクだから。俺のジェイクというのには変わりないんだから。
 カーターは、俺のようにジェイクの心を読めなくても、ジェイクのことがわかるらしい。それって悔しいよね。でも、ちょっと羨ましい。
「一人前になると、私のように憔悴できるぞ」
 そうカーターは言ってたけど……どういうことだろう?
 ジェイクもカーターの方が好きらしい。当時は理不尽だと思った。だって、俺の方がジェイクを愛しているのに。
 あの頃の俺は、なんてガキだったんだろうと思う。今だったら、女の子相手の方がいいや。ジェイクと番いになるなんて――彼とセックスなんて馬鹿らしくって。それだったら女の子と寝た方が気がきいてるや。
 でも、俺はやっぱりジェイクが好きだ。
 いつだったか、ゲイのグレッグが言った。
「このガキ、殺してやりたいわ」
 ――と。
 笑ってたから、本気ではなかったんだろう。あの言葉は、
「俺はジェイクのものだけど、ジェイクはみんなのものなんだ」
 という俺の台詞の返事だったと思うんだけど。
 俺、本当のこと言っただけなのに、なんでグレッグはあんなこと言ったんだろう……。
 今だったらわかる気するけどね。あれは単なる照れ隠しだ。
 グレッグはいい女だから、他にもきっと、いい相手見つかるよね。優しいし。彼は自分がブスだと思い込んでいるけど、俺はそうは思わない。グレッグは美人だ。
 まぁ、グレッグと寝るのはごめんだけど。それは、グレッグだけでなく、男性全般にいえることだ。
 ジェイクとなら、寝てもいいと思ったこともあった。けれど、それは相手がジェイクだからであって……。もう、今はジェイクと寝たいなんてこれっぽっちも思っていない。――ほんとだよ。
 でも、ジェイクのことは愛してる。だから、俺達は今も仲良しだ。
 恋人じゃないんだ、恋人じゃ。俺にはオクヨルン(今、どうしてるかな)がいるし、ジェイクには未来の奥さん、ジョイ・ウィルコックスがいる。
 ジョイはカーターの妹だ。だから、ジェイクは本当はカーターが好きなんじゃないかって、俺は今でも疑っている。
 でも、ジョイは可愛い。俺は、羨ましく思う。
 あんな可愛い女の子が妻になるなんて。俺にもオクヨルンはいるけど、彼女浮気性だからな。尤も、浮気に関しては、俺も人のこと言えないけど。
 女に目覚めてからこっち、俺のベッドには女の子が絶えたことがない。でも、みんな同じなんだ。少し飽きた……と思ったこともあった。
 けれど、やっぱり女の子はいないと寂しい。
 やっぱりカーターに似てんのかな、俺。カーターは、今では想像もできないようなプレイボーイだったっていうし。
 一夜限りの快楽は楽しいけど、やっぱり――。
 俺はジェイクとは精神的に結ばれている気がする。一度なんて、ジェイクの思念が流れ込んできて大変だったこともある。
 けど、もうそんなこともなくなった。ジェイクから独り立ちできたということなんだろうか。それはそれで寂しい気もする。
 仕方ないんだ、と言い聞かせても、やっぱり寂しい。ジェイクは俺の番いの相手だから。
 男同士でも、俺の番いの相手だから。
 ライオンでも人間でも、番いの相手は有象無象の女性達ではない。ジェイクがいいんだ、俺は。
 ジェイクと寝ることはできないけど、俺とジェイクは固く結ばれている。不思議な縁と絆で。
 ――でも、不吉な夢を見ることがある。
 ジェイクが撃たれた夢だ。
 ジェイク、ジェイク、どうして……?
 ジェイクは普通の人間ではない。天才児だ。それに、サロニーと融合して、ますます普通でなくなった。
 だから……神様はジェイクに数奇な運命を用意していたのかもしれない。
 ジェイクが撃たれた時、そんな夢を見た時、俺は、やっぱりジェイクは殺されるんだと思った。
 あんなに普通ではないんだもの。みんながジェイクを好きだとは限らないんだ。俺やカーターは彼を好きだけど。
 でも、ジェイクはみんなのことが好きだ。シンのことすらも好きだ。
 ああ、神様。俺達からジェイクをとらないでください。
 俺は、何でもしますから。女の子と寝なくてもいいですから。教会にも行きますから。
 でも、そんな祈りに効き目がないのはわかってる。だから、俺は女の子とも寝るし、教会にも行かない。
 ジェイクがそんなことで助かるならやってもいいけど。
 でも、ジェイクを殺すのは神様だ。
 ジェイクがあんまりかっこいいから、あんまり優し過ぎるから、神様は自分の元に置いておきたいんだ。
 そんなのは嫌だ。俺はジェイクの番いの相手なんだからな。
 ジェイクも俺も早死にするだろう。その時、神様は俺にジェイクを返してくれるだろうか……。
 そんなわけないよね。だって神様もジェイクのことが好きだし、好きにならずにいられないだろうから。
 でも、俺にとっての神様はジェイクだ。それだけは、確かなことだ。
 誰にもやらない。俺だけのものでいて欲しい。そんなことを考えたこともあった。
 でも、ジェイクはみんなのものだから。
 カーター、アンジェラ……俺達のものだから。
 フリスもジェイクが好きだ。でも、友達としての好きなんだ。彼はゲイだけど優しいから。
 フリスには、たくさん迷惑をかけた。彼の世界を狭めてしまったこともある。俺のせいで。
 彼は親切だった。美形だし、性格いいし……ちょっと短気だけど。ソアとずっとうまくやっていって欲しいな。
 俺にも嫌いな奴はいる。フロイドは嫌いだ。意地悪だし。ちびのくせに。
 陰険というのとは違うから、そこら辺は買ってるけど。
 ジェイクはフロイドが好きらしい。何でなんだろう。あんなやなやつなのに。
 でも……腹黒ではないと思う。言いたいことはずばずば言うけど。
 ま、ワイエスよりはマシかな。彼、何もジェイクに言わないまま、逝ってしまったもん。それが、ジェイクにとってはどのぐらい残酷なことか知らないのかな。
 ……まぁ、ワイエスを責めたって仕方がない。彼はものすごく苦しんだ。きっと今も、苦しんでいると思う。ジェイクがそこに行くまで。ジェイクがワイエスのところに行くまで、彼は苦しむんだ。
 そう思うと、少し可哀想かもしれない。ワイエスだけが悪いわけではないのに。
 ジェイクがワイエスのところへ行くなら、俺も行こう。
 俺達は、最強のタッグだもん。
 それから、サロニーも……サロニーは本当に可哀想だ。でも、ジェイクと一緒になれて、良かったと思う。
 ジェイクが俺の番いの相手なら、サロニーも俺の番いの相手だ。
 だから……彼の息子のエティアスとも仲良くしよう。彼は可愛いし、性格もとても優しい。殺人鬼の息子なんかじゃない。エティアスはエティアスだ。
 俺達は今は幸せだから、その幸せを掴んで歩いて行こう。
 過去のことは過ぎたことだし、明日のことは明日考えよう。取り敢えず、今日のことは今日のこと。
 悪夢にうなされることがあっても、朝起きれば、暖かい日差しが待っている。
 オーガス家にはみんながいる。たくさんの客が出入りする。
 ジェイクとジョイは近々結婚する。いい結婚式になると思う。
 俺も、祝福したい。
 これは内緒だよ……ジェイクには可愛い娘が生まれるんだ。その後、行方不明になるけど。
 いつかきっと見つかるはず。エティアス・サロニー・Jrだって、そう信じてるんだから。
 俺、少し、ジェイクの未来が見えるようになってきたんだ。ジョゼには敵わないけど。
 ジョゼ・ルージュメイアン……不思議な女性で、ジェイクの一部で、フロイドの恋人。ああ、でもわかってる。俺には、ジョゼを覚えている資格がないんだってこと。彼女が死んだら、もう俺は覚えていないだろうということ。
 ジェイクにはいろいろな人が関わって、いろいろな人が、彼を愛したり憎んだりした。これからもきっとそうだろう。
 ――でも、これだけは言いたい。俺はあんたを愛してるぜ。ジェイク。ボアズの台詞じゃないけど、さ。
 俺達は、番いの相手だもんな。例え、体は結ばれなくてもな。

2011.4.23

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