シド・ブライアンの証言

 俺は、マイケル・ネガットに殺された――。
 奴は俺の親父からジェームス・ブライアンという名を引き継いだが、俺はあのガキをその名で呼びたくはない。
 俺はゲイの変態かもしれんが、あいつも俺を馬鹿にした。
 愛人にしてやるだって? ずいぶんふざけたことを。
 奴がストレートなのは見ればわかんだよ。
 それを、俺を嬲りやがって!
 俺をからかって遊んでいるんだ。あいつは!
 いや……遊んでいる暇もないかな。俺が徹底的にいたぶってやったからな。ナイフとかでな。生涯あいつの背中には傷跡が残っているだろう。
 俺は……あいつが憎かった。
 俺は冷や飯を食っているってのに、あいつは天才児というだけで幹部の地位を約束されていたからな。
 しかし……俺の父親はあいつに殺された。
 だから、俺もあいつを殺すことに決めた。
 じわじわと……ゆっくり時間をかけて。
 傷口に塩を塗り込んでやった時、奴はいい声で叫んだ。こっちがイッちまうぐらいにだ。
 一回こっきりだったのが残念だったぜ。
 俺はサドのホモかもしれんが、あいつは何だったんだ。
 農場の頭の足りねぇ娘と恋仲になってたじゃねぇか。
 あいつは、あの女とできてたんだ。確か、ロゼラと言った。
 ゾーイに女を殺させた。
 あのガキはすぐには殺すつもりでなかった。散々いたぶった後で――女の後を追わせるつもりだった。
 むかついてたまらねぇんだ。あいつを見てると。
 顔は……まぁ、タイプだな。美少年だしな。
 それをミンチにしてやるというのは快感だぜ。でも、顔には傷をつけなかった。せっかく美形に生まれたんだもんな。
 それに、見えるところに傷をつければ、エリーさんにバレる。
 その時、殺されるのは俺だ。こんな馬鹿な話があるか。
 顔を潰すのは、ガキが死んだ時で充分だと考えていた。
 まぁ、反対に俺が殺されちまったがな。
 あいつは、いつか誰かに殺されるだろう。
 その時を楽しみに待ってる。
 エリーさんは、あいつを可愛がってた。
 どうしてだかわからん。俺は死ぬほど憎んでいた。あのガキを。
 地獄に連れていけるものなら、連れていきたい。
 親父を殺してなかったら、そして、あんなに天才じゃなかったら、俺はあのガキに惚れてたかもしんねぇぜ。そとみは抜群だしな。
 でも――やっぱり無理だ。
 あいつは選ばれてる。それはわかる。
 俺は、今度は嫉妬であいつを殺そうとしただろう。
 ああ、あのガキさえいなければ……。
 俺がここでくたばることもなかっただろう。
 そうなんだ。何であいつが気になるか――それはあいつが愛されていたからだ。
 俺は、もう親父にも見放されていた。ゾーイの馬鹿といつも一緒だった。
 ゾーイはいい奴だ。頭は足りんがな。
 あいつは俺達を殺そうとしていた。皆殺しにしてやる、と言った時の目にはぞくっとしたぜ。さすが、アーサー・ネガットの息子だ。
 俺は……何かが足りなかったんだ。
 運とか、才能とか、そんなもんだよ。
 あいつは全てを持っていた。全てだ。
 あいつが憎い、憎い憎い憎い。
 どうせ俺は長兄のルガーじゃねぇ!
 おみそのシド・ブライアンだ。
 男に走ったのも、アレが良かっただけじゃねぇ。反抗心もあった。
 男を抱くと、征服欲が満足するからな。すかっとするぜ。
 けれど、ナイフで撫でるのも気持ちいいもんだぜ。相手が憎い奴だった場合特にな。
 マイケル――。
 俺とおまえは所詮敵同士。相容れなかったんだよ。
 おまえも苦しんだかもしれんが、俺も苦しんだ。
 だが、おまえの苦しみは俺の悦びに変った。
 愛していたわけじゃねぇ――おまえを。
 いつだって、憎んでたさ。
 誰かが言ってたよなぁ。愛の反対は憎しみじゃねぇって。憎しみは愛の変形かもしれんぜ。
 ――けっ、反吐が出るぜ。
 俺が受けられなかった愛情を一身に浴びていたおまえ。憎くて憎くて、仕方なかった。
 それは、本当は俺が受けるはずだったんだ!
 俺は頭もいいし、度胸もある。それなのに、何だって農場に押し込められていなければいけなかったんだ?
 エリーさんも、人を見る目がない。もちろん、親父もだ。
 だが、親父が死んだことも、俺の復讐心に火をつけた。
 貴様には復讐してやる。死してなお。
 地獄から俺を呼ぶ声がする。おまえも俺に引きずられるのさ。
 待ってろよ、マイケル――。
 いや、今は『ジェームス・ブライアン』だったな。もうその名で呼ぶことはない。
 おまえには、とっておきのお仕置きをしてやるぜ――。
 生きていた時と同じようにな。
 グリフィンのじいさんはあんたに肩入れしてたな。
 どうも、あんたは憎むか、愛するかのどちらかにわかれるみていだ。踏み絵みてぇなもんだな。
 おまえを憎んだのが俺の運の尽きってわけか。
 まぁいい。生きてても、どうせろくなことがなかった。
 ああ、それにしても――。
 おまえを殺したかったな。この手で。
 憎しみを――晴らしたかったな。
 どうして、俺はおまえでなかったんだろうな――俺も好き勝手やってきたが。
 誰も言わなくても、俺は覚えている。
 俺を――シド・ブライアンを殺したのはおまえだ、と。
 夢の中でも糾弾してやる。いつも、いつまでも。
 そういや、おまえを名前で呼ぶことは滅多になかったな。
 お互い様だな。俺達は、どちらも相手を名前で呼ぶ必要を感じなかったわけだ。
 それほどまでに、憎しみ合ってた。
 満足かよ、え? 俺を殺すことができて。
 おまえも俺のことを憎んでいたんだろう? ロゼラやグリフィンのあほのことで。
 残念だったな。奴らも地獄へ落としてやるよ。おまえが愛した者みんな、地獄へ落としてやる。
 そして、最後はおまえだ。
 ――人殺しめ。
 おまえには人並みの幸せを手に入れる資格はねぇんだ。それは俺が取り上げる。
 いつだって、おまえを呪ってやるさ。俺が生きていた時みたくな。
 できればずっと生かしておいて、ずっと苦しみを舐めさせた方が俺の性には合ってたがな。仕方がない。これも、おまえが逃げようとするからだ。
 おまえは許さん。
 ずっと、ずっとずっとずっと――。
 そして――凄惨な最期を遂げるんだ。
 今からわくわくするぜ。その時をな。
 地獄に来たら――歓待するぜ。まずアレをぶちこんでやる。
 そうさ――できるだけ可愛がってやる。死ぬほど石で殴りつけられたお礼にな――。
 俺は、どれほどおまえが羨ましかったか。死んだ時、初めて認める気になった。
 おまえは愛されている――おまえの正体を知らない奴らにな。だが、俺は証言してやる。おまえは悪魔だと。

後書き
今回はシドが主人公です。
シド、といってもシド・キャロル先生ではありません。
エリーの部下のジェームス・ブライアンの息子、シド・ブライアンのお話です。
2011.5.3


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