兄さんがライバル

 私、ジョイ。ジェームス・ブライアンの妻よ。
 でもねぇ……ジェームスについては兄さんであるカーター・オーガスの方が詳しいの。
 ジェームスも兄さんが好きみたいだし、それはいいんだけど……。
 ここだけの話、兄さんとジェームスは異様に仲がいいの。私なんていらないんじゃないかって時々思うくらい。
 ジェームスは天性の浮気性だけど(実際に浮気されたことはないけど)、兄さんのこと本気で好きなんじゃないかしら。
 やだわ。私。兄さんが恋のライバルなんて。そりゃあ、確かに兄さんは長い黒髪の美形だし、頼りにもなるけれど、変人よ。
「まぁ、それはね……おいおい慣れていくしかないわね」
 アンジェラも匙を投げているみたい。まぁ、私もポジティブ・シンキングがモットーだけど。
 ジェームスったら、異様にモテるんだもの。――仕方ないわよね。金髪碧眼で強くてカッコよくて男らしいのだから。老若男女問わずモテるのは。私だってそこが良くて結婚したんだし。
 それに、ジェームスったら夜がつよ……何言ってんのかしら。私。
 ごめんなさいね。惚気てしまって。
 ラブラブの私達だけど、ジェームスは本当は兄さんの方が好きなんじゃないかと思うことがあるの。
 ジェームスは女の人が好きだから、兄さんが女性じゃなくて良かった思ったことがあるけど。そして、ジェームスと結ばれた私は女に生まれて良かったと思っているけど。
 兄さんがライバルなんて異常だものね。
 ――ということを前述のアンジェラに話したら、
「ジョイ、あなた、あの人達が正常か異常か考えてたらおかしくなってしまうわよ」
 と、言ってたけれど。アンジェラは毒舌なのよ。優しいけど。
 私達の周りには、正常の枠でくくれない人がいっぱい。でも、皆いい人よ。シン・ギャラガーなんて人もいるけど。トラブルメーカーだけど、面白いんで嫌いじゃない。
 ジェームスの周りにいる人は、皆ジェームスが良くて来ているのね。
 そうそう。アンディもジェームスの恋人なの。肉体関係はないようだけど。
 アンディはジェームスの半身だから――。
 私は、ジェームスの一部しか知らない。ジェームス・ブライアンのことを語り出したら、きっと一生では終わらないと思う。
 それに、兄さん。
 兄さんにはジャネットと言う妻がいるの。そのうち子供も生まれるんじゃないかしら。
 ジャネットは妖精のように儚げな美人なの。兄さんが惚れるのもわかるくらい。
 私達の間にも子供が生まれたら、兄さんの子供と遊ばせてあげたいわ。
 それに――私はさっきはあんなこと言ったけど、兄さんとジェームスの仲は認めているのよ。
 ほら、男の人って家庭より仕事でしょ? 兄さんは一応ジェームスのボスだから。前に出ているのはジェームスだけど。
 あ、兄さんが起きてきた。
「おはよう」
「やぁ、ジョイ。いつも何か書いてるね。君は」
「こう見えても、私、作家よ」
「そうだった。すまんすまん」
 ――全く売れないけどね。
 兄さんはそこらの女の人より艶めかしい。肌なんか白くてつやつやだし。兄さんの年齢を聞くと、みんな驚く。
 でも、兄さんも女好きよ。アンディはバイだし。――私はこの二人と血が繋がっているのよね。アンディは遠い親戚だもの。
 アンディは今じゃ遊びまくっているけれど、昔は純粋素朴だったんだって。
 純粋、ねぇ……。
 アンディは論客を口論で叩きのめしたりしてるけど。アンディはジェームスをライオンのジェイクと重ね合わせて見ているの。
 兄さんは昔は隠遁生活送ったり、人妻と浮気したりしてたけど、ジェームスに会ってがらっと変わったのよね。
「ねぇ、兄さん。ジェームスのことどう思ってるの?」
「ん? 最高の友だと思ってるよ」
 嗚呼、この台詞、ジェームスに聞かせてあげたい!
「兄さん! 大好きよ! ジェームスを好きになってくれたから!」
「――勿論。私の方が先にジェームスに出会ったんだからね」
 兄さんが答えた。それって自慢?
 でも、兄さんがいなければ、私もジェームスに会うことはできなかった。テレビで素敵だなと憧れながらハイミスになっていったんだと思う。
 私はぶるっと震えた。そんな人生嫌だ。ジェームスのいない人生なんて!
 ジェームス・ブライアンは稀有な人物だと思うの。もしかして私には勿体ないんじゃないかと思うくらい。
 彼は空や陸や海も、生きとし生けるもの全て愛しているし。恋敵は兄さんだけじゃない。――この地上にある全て。
 ジェームスは本当は神様なんじゃないかって思えるくらい。そのくらい、彼は懐が深い。
 彼も人並に他の人を愛したり、愛している人を独占したいと思う感情もあるみたいだけど。ただ、彼の場合はそれが地球規模だと言うだけで。それも随分すごいことだと思うけど。
「おはよう、ジョイ」
 ――あら、アンディだわ。
「おはよう」
「昨日はよく眠れた?」
「――眠れてたらこんなに憔悴はしてないわよ」
「あはは。大変だよね。ジェイクの相手は」
 恋敵とこんな会話を交わせること自体、かなり普通でないのはわかる。でも、普通って何? そんな概念とうに置いてきちゃったわ。
 わたしは、まぁね、と答えてやった。
「いいなぁ。俺もジェイクと番いになりたい」
「あなた方はとっくに番いでしょうが」
「でも、体を繋げたことはないから」
 アンディの直截な言い方に、思わず私はずっこけた。――見ると、兄さんも。
「な、何を言ってるんだ、朝っぱらから。アンディは――」
「カーターだって人のこと言えないじゃんか」
「そうよ。兄さんは人のことは言えないわ。このドン・ファン」
 私も言ってやった。こうなったら加勢するわよ、アンディ。兄さんをこてんこてんにやっつけてやるんだから。
「君に言われたくはないね。アンディ。一体何人の女を泣かせてきた? オクヨルンはどうした? ここに来たばかりのころはあんなに無垢だったのに」
「俺だって成長するさ。それに、オクヨルンはアフリカだし」
 ――オクヨルン。つまり、アンディの初めての相手。
 ここの人達は皆隠し事しないから、しばらく暮らしていれば大抵のことは知ってしまうの。ここまでオープンでいいの?と思うけれど。アンジェラは例外だけどね。
「でも、女ではオクヨルン以上の人はいないな」
「そうか」
「――会いたいな。……俺にはジェイクがいるけれど」
 ジェイクはアンディと共に生きてきたライオンの名前。もうライオンのジェイクは死んじゃったけど。
 アンディの父親のサミーおじさんも死んでしまった。サミーおじさんは、アンディにアメリカに行くように言ったらしい。
「俺さ、サミーにたったひとつだけ感謝していることがあるんだ」
 唐突にアンディは語り出す。
「それは、カーターの家へ行けと言ったことだよ。そのおかげでジェイクと会えたんだし」
 ――ここにもジェームスが運命だった人がいる。
 フロイド・アダムスは言っていた。
「あいつは、大きな大きな星だ」
 ――とね。フロイドは刑事だけど、大金持ちのボンボンだし、それに詩人でもある。口は悪いけど。
 私達もフロイドが大好きなの。勿論、友達としてだけど。今はジョゼ・ルージュメイアンと同棲している。
 ジョゼは私なんかより遥かにジェームスに近い存在だけど、彼女をライバルだと思ったことはない。彼女はジェームスのお母さんだもの。
 でも、兄さんはやっぱりライバルかもしれない。
「あら、もうこんな時間。私、目玉焼き作る」
 私はいそいそと台所に向かおうとする。
「今日は土曜だから、ジェイクがゆで卵作ってくれるよ」
 と、アンディ。
「そっか」
 兄さん、悪いけど勝負はお預けだわ。
「でも、台所へ行けばジェームスに会えるもの」
「――まぁね。頑張って」
 何を頑張れと言うのかしら。アンディは。
「サロニーとジェームスが合体してから、我々もまともな朝食をとれるようになったな」
 サロニーは元殺し屋で、その魂は今はジェームスの中にいる。彼はジェームスと共にある。サロニーの息子は、将来私達の養子になるはずなんだけど、いろいろ揉めて大変なのよ。
 うーん。ライバルは兄さんだけではないかもしれない。
 最大のライバルはやっぱり兄さんかもしれないけどね……。

後書き
ジョイ視点のジェームスに関する話。パームの小説を更新するのは久しぶりです。ずっと前に書いた話。
ジェームスが主役じゃないけど、今日はジェームスの誕生日だから。因みに昨日はシン・ギャラガーと手塚先輩と私の誕生日ね。
皆ジェームスが大好きなんだ! 誕生日おめでとう!
2017.10.8

BACK