俺様はシン・ギャラガー
俺はシン・ギャラガー。パームシリーズの真の主役だ。(Tomoko注:初耳の上に、主役はジェームス・ブライアンじゃないでしょうか)
え? 何? ジェームス・ブライアンは知っているが、シン・ギャラガーなんて知らないだと?
ちっちっ、そいつは君の認識不足というヤツだぜ。
よし、今日は俺のことをたっぷり教えてやる。
何故なら――今日は俺の誕生日だからだ!(Tomoko注:実は私の誕生日でもあります。こんな男と一緒の誕生日なんて――うっうっ)
俺の誕生日は10月7日。天才児と謳われたジェームス・ブライアンの誕生日は8日。俺の方が誕生日が早いから、俺の方が偉いということだな。うん。(Tomoko注:どうしてそうなるんだろう……)
さぁ、祝え! 俺様の誕生日だ!
何? おまえの誕生日など知らないだとぅ?
おまえ――次期大統領である俺の誕生日を蔑ろにしていいと思ってんのか? ああん?
――ああ、まだ酒は飲んでない。でも、今日は浴びるほど飲むつもりだぜ。何故なら今日は俺様の誕生日だからな!(Tomoko:酒癖の悪さでカーター達を困らせているくせにまた飲むつもりか……この男は!)
さぁてと、今日はオーガス家に押しかけ――いやいや、訪ねてやってやろうか。
あの家の連中は俺に対する礼儀がなってないから教えてやらんとな。真に優れた者への遇し方をな。
カーターは大人しいが、その妹のジョイ・ウィルコックスは生意気だぜ。
カーターの親戚のアンジェラもアンディも、俺を敬わないしな。
そして、ジェームス・ブライアン。
これが最悪だぜ。
こいつが俺のはとこのカーター・オーガスを悪の道に引きずり込んだんだ。吊り棚は考えるし、環境運動の真似事はするし、ジェームスの考えることはどうもわからん。
それでいて自分のことを牧歌的というんだからな。怖い男だぜ。
でも、どうもあいつには逆らえん。体も大きいし――俺があいつに逆らった時、何をされたかわかるか?
――殴られたんじゃないぜ。それだったら日常茶飯事だからな。(Tomoko注:それが日常茶飯事なシンの日常って一体――)
そうでなくて――何とキスされたんだぜ。気絶するぐらい濃厚なヤツをな……。
男だったら怖いだろう?
でも、俺はもう平気だ。立ち直った。あいつのプレッシャーに負けない男の中の男など、俺ぐらいなものだろう。
それに、今は八十年代だしな。(Tomoko注:パームの舞台は1980年代のロサンゼルスが主です)
でも、男に走る気はない。世界中の女が悲しむからな。
モテる男は辛いぜ。ふっ。(Tomoko注:シンがモテるなんて聞いたことないけどな)
ところで、どこかで『ジェームス・ブライアンを大統領に!』という意見を聞いたことがあるが、あいつは犯罪者だぜ。しかも出自に問題がある。どう問題があるかは、俺ですら言えない。まだ消されたくないんでな。
でも、前に述べたように、大統領になってホワイトハウスを総べるのは俺だぜ。ジェームスなどというチンピラではなく。(Tomoko注:シンの方がよっぽどチンピラだと思います)
根回しもしてあっからな。今度の選挙にはうって出る予定だぜ。(Tomoko注:カーター達が命がけで止めると思います)
でも、俺にも弱点があってな。
そのう……酒癖がちょこっと、悪い、ところなんだ……。(Tomoko注:ちょっとぉ?)
カーター達にもずいぶん迷惑をかけた。その点は、済まなく思っている(Tomoko注:うんうん。反省するのはいいことだ)
でもなぁ、暴れないように戸棚に閉じ込めるなんて酷いと思わねぇか? やったのはジェームスの野郎だがな。(Tomoko注:それだけアンタの酒癖が悪いってことだよ)
ま、それから俺も少しは気をつけるようになった。カーターを傷つけたら、今度は俺がジェームスに殺されかねん。――俺が死んだら国葬だな。
カーターも悪い男と友達になったもんだぜ。
あ、俺のことじゃないぜ。ジェームスのことだ。あいつはダメだ。とにかくダメだ。
そう、昔――高校生だった頃のカーターの妹ジョイに忠告したら、何と言ったと思う?
「あたしの人生も血みどろよ」だったかな。とにかく、俺に逆らいやがった。
ああ……あの娘は友達いなかったな。うん。絶対いない!(Tomoko注:アンタにもいないけどね)
ま、血なまぐさい夫婦で似合いなんじゃねぇか? 俺は知らんけど。
俺は、ちょっと野望が大きいだけの大人しい小市民だしな。(Tomoko注:次期大統領じゃなかったの?)
とまぁ、毎日を面白おかしく生きている俺だが、不満がある。
――それは。
最近、俺の登場シーンが少ないことだ!
俺といえばパームシリーズ、パームシリーズといえば俺、と言われたこともあるんだぜ。(Tomomko注:ないと思います。少なくとも私は聞いたことない)
ま、どういうわけかシリアスな話では俺の出番は少ないようだが。
しかし、しかしだよ。こんなムチムチボディに博愛主義な性格。俺はもっとスポットライトを浴びてもいいと思うんだ。ジェームス・ブライアンなどというあんな小僧などではなく。
みんな俺をしがない小悪党だと思っているだろ。
とんでもない誤解だぜ。
俺はホワイトハウスを乗っ取る男だぜ。それなのにオーガス家のヤツら、俺が来るたびに、
「厄介者が来た」
みたいな目で見るんだぜ。(Tomoko注:今までの言動からすればムリないと思います)
冗談じゃない! 俺ぐらい慈悲深い男もいないぜ!
まぁ、酒癖悪いのは認めるけどな。それ以外はお茶目で面白い男で通ってるんだぜ。こんな愛らしい男が厄介者であるわけないだろ?
ジェームスは歓迎してくれるけどな。あいつには嫌いな人間はないらしいけどな。
俺、ジェームスのこといろいろ言ったけど、嫌いなわけじゃないんだぜ。まぁ、ただ――ディープキスだけはごめんだけどな。女だったら惚れてたな。ジョイにもアンディにも渡さん。
俺も嫌いな人間などいないから、同類はわかるんだ。
みんな平等に愛してるしな。(Tomoko注:平等に迷惑かけてるの間違いでは?)
まぁ、そんなわけだ。俺の誕生日を祝えよ、おまえら。
さぁて、これからカーターの家に行って来るか。
俺様は優しいから、明日はジェームスの誕生日も祝ってやるんだぜ。
――さぁ、今日は楽しく騒ぐぞー! みんなボトル開けろー!
俺が天下取ったら10月7日は祝日だ! 政策にも掲げてやるぜ。(Tomoko注:それはいいことです。初めて心の底から賛同できる部分ができました)
さぁ、おまえらも騒げ騒げー! 飲めや歌えや、無礼講だぜー!
え? 今どこにいるかって? 近所の酒場だよ。
カーターの家に行くんじゃなかったのかって? それも重要だけど、その前に仲間達に振る舞い酒をしてやんなきゃな。どうだい? 俺は仲間思いのナイスガイだろ?(Tomoko注:そうかなぁ?)
――カーターの家に行くなら、少しはセーブしておいた方がいいかな。カーターなんて優男、怖くはないけど、ヤツにはジェームス・ブライアンという用心棒がいるからな。(Tomoko注:やっぱ怖いんじゃん)
あそこに行けば酔い覚ましにシャワーを浴びせられて髪まで乾かせられるけどな。――収容所に来た気分だったぜ。しかし、ジェームス、あいつは何でもできるな。
……やっぱり諸悪の根源はジェームスみたいな気がしてくる。大人しい医学博士だったカーターをいっちょ前の私立探偵に仕立て上げるしな。
私立探偵はおっかない仕事もやるんだぜ。カーターがどれだけ危険な目にあったか。ああ、はとこ思いの優しい俺は夜も眠れないぜ。(Tomoko注:その分昼間寝てんでしょ。――古典的なツッコミ)
俺が昼間は酒かっくらって女といちゃいちゃしているだけの男でないということがこれでわかったろ?(Tomoko注:いいえ)
――ああ、もう一杯もらおか。
ジェームスがあんなに大男じゃなきゃ、俺だって勝てるんだよ。俺は強いんだから。酒も、体力も。
オーガス家、行くのやめようかな。いやいや、それではあいつらが悲しむ。みんな俺のことが好きなんだからな。愛情表現がひねくれててどうしようもないヤツらだぜ。(Tomoko注:もうツッコむのも疲れてきたな……)
あいつらにはキャデラックをもらった恩があるからな。(Tomoko注:それはジェームス宛てにでは……)
ヤクザから物もらったなんて、あいつのイメージダウンになるからな。涙を飲んで俺がもらってやったんだぜ。ま、二ヶ月で使い物にならなくなったがな。(Tomoko注:ダメじゃん!)
それに、あいつらは結構貯め込んでるからな。今のうちに恩を売って……いやいやいや。
手ぶらで行くのもなんだから、何か持っていくかな。何がいいだろ……。
やっぱ酒? そうかなぁ。
ジェームスはうわばみだそうだし、カーターもああ見えて結構飲むし、アンディ坊やも飲める年になったしな。アンジェラもな。
――しかし、時の経つのは早いもんだぜ。アンディやアンジェラに初めて会った時はあいつらも高校生だったな。当時から生意気だったわけだけど。
あいつらも大人になったことだし、目上の者に対する態度を叩き込んだ方が身の為か?
そもそもジェームスが俺の目下なんだよ。天才児だかなんだか知らねぇが。
あいつがアンディ達を甘やかすから、ヤツらがつけあがるんだ。
え? 言ってることが矛盾してるじゃないかって? ちょっと酒が回ってきたかな……。
つまり、ジェームスという男は、ヤクザとか俺とかには容赦はしないが、弱いと思った存在には優しいんだ。俺に言わせりゃ単なる人気取りだけどな。
しかも、ヤクザと俺とを同類項として見てやがる。うっく、悲しいぜ。
俺みたいな善良な男もいないってのによぉ……世間じゃジェームスの方を持ち上げる。特に一時期のジェームス人気はすごかった。
『愛でなく』の頃な。あの話には、確か俺は一コマしか出てこなかったんじゃなかったっけ。しかも酔っぱらってぐーぐー寝てるとこだったし。
――ま、今はある事件のせいでジェームス人気も下火になったけどな。それでも支持者はまだいる。その熱狂度は、昔よりもすごい。
俺は、ジェームス・ブライアンに負けるわけにはいかない。
今からでも、あいつをこてんぱんにのしてやりたい……ところだが、あいつの身長は2M近くあるからな。それに、あいつに殴られたテロリストは、今もまっすぐ立てないようだ。
こえーよなぁ。俺に対してはまだ手加減してるってことか。兎にも角にもカーターのはとこだから。
ジェームスはカーターのことをボスとして慕っている。わからんよなぁ。カーターみたいな優男のどこがいいんだか。
俺があいつを雇ってやる、と誘ったこともあったんだぜ。そしたらあいつ、どうしたと思う。――俺に花火の準備を手伝わせやがった。まぁ、景気のいいのは好きだからいいけど。
お、そろそろ時間だ。オーガス家に行ってやらなければ。
じゃあな、皆の者。俺に付き合ってくれて――いや、俺が付き合ってやったんだな。
おまえらのことは忘れないから、俺のことも忘れないでくれよ。(Tomoko注:こっちはとっとと忘れたいです)
後書き
シンちゃん(ここでいうシンちゃんと言うのは、シン・ギャラガーのことね)と私、誕生日おめでとう!
2014.10.7